回想と回帰
「ふざけるな。俺だって運営とつながりがあるから、裏技や裏ルートの一つや二つ、簡単に使えるわ。本気でかかってきやがれ」
「しょうがないなあ。一回でコリゴリすると思うけど、そこまで言うんだったらいいよ。戦ってあげる。
兄さんは僕がゲーマーになれると思ってないみたいだし、一度ちゃんとその点、僕も分かってほしいからね」
そして、ハマナカは弟とデビクエで、初めて本気で対戦した。
が、相手はイベントキャラですら容易に倒すプレイヤー。結果は、明白、あまりにも簡単についてしまった…。
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「それで、私は、頭の中が真っ白になったのです。
弟に恥をかかされた怒りだったんだと思います。今でも、ゲームに勝った後のあの野郎の同情した面を思い出すと、虫唾が走ります。
畜生!
…気付いたら、私はあいつの首を絞めていました。
そしたら、あいつは既に虫の息で、
『ゲーマーになれたら、…少しは兄さんに楽させてあげると思っていたのに…』
とマヌケな善人面したまま、と言ってきやがった。それで私は、トドメを刺しました。
仮にもSANYの優秀な研究員であるこの私が!弟の金で暮らすなんて!
あり得ないんですよ。そんなことを口にする弟が許せなかった。
だから、私は決めたんです。あいつの愛していた世界を、壊してやろうって」
私は思った。このハマナカという男は狂っている。
だが、狂っているのは、ニホンという国、あるいはこの世界全体なのかもしれない。
ブランクープのようなまともな世界では、crazyという言葉自体、一つの冗談でしかなかった。
本当に人が狂うのは、世界が狂っているからであろう。
ハマナカは一息ついてから、また話し始めた。
「そこで、まず私は、弟の持っていた初代デビクエからデビクエ22までの世界を、めちゃくちゃに壊してやりました。
データをハックし、法則を書き換え、ニュークによって神をも滅ぼしました。
しかし、今作…デビクエ23を手にしたとき、私は退屈だと思いました。
そうさ…。破壊の快感が、後一作で終わってしまうなんて、もったいないだろう?
だから、デビクエ23はもっと手の込んだ壊し方をしてやったのだ。ハハハ…」
「それが、私が目にした『鋼鉄の怪物集団』だったという訳だな?」
「当たり!
流石は勇者、分かってるじゃん。
んでもって、弟の死骸をデータに変換して、この世界から跡形もなく消し去ったついでに、あいつの似姿であるお前を地獄に落としたって訳。
どうだ、地獄旅行は楽しかったか?」
ハマナカは、ついに乱れた口調を直そうとすらしなくなった。その顔は笑っていたが、どこか虚ろだった。
「お前を狂わせるだけのものがあるということは分かったよ。もうコリゴリだがね…」
「それは良かったね。でも、お前にはもう帰れる世界もないんだよ」
ハマナカは、そう言って、いつの間にか手にしていたラップトップの画面を見せてきた。
そこには、焼け野原となっていたブランクープが映っていた。
「お前からも、何もかも奪っておきたかった。絶望した勇者様なんて、サマになるからねえ。
言ったとおり、国王も姫ももう死んでいる。
姫なんて、目に一杯涙溜めながらも、
『私はそれでもブランクープの王女です。侵略者とは最後まで戦います。そうすれば、勇者様がきっと戻ってきて助けてくれるはず…』
なんて、健気に、気丈に振舞っていて、可愛かったなあ…。
戻っても、そこには何もないのだ。さて、勇者様はどうする?ハハハ…」
私はハマナカに殴り掛かりたかった。だが、得体の知れないジュージュツの餌食になるのは賢明ではない、と思い、グッとこらえ、答えた。
「それでも、私はあの世界に戻る。そして、貴様が放った「鋼鉄の怪物集団」を残らず駆逐して、ブランクープを立て直して見せよう」
「そうかい。さすがは勇者様。死に場所もわきまえていらっしゃる。
…よろしい。元の世界に戻してあげよう。
そうすれば、死骸も残らず、こっちも楽だからね」
ここで、しばらく黙って話を聞いていたサカモトが、口を挟んだ。
「ハマナカ、それなら君も向こうで戦いなよ。君には既に、あの強力な集団がある。
まさか、この上更なるハックやチートを使わなければ、勇者一人屠れない、というわけでもなかろう?」
「おいおい、一方的に安全圏から痛めつけることの快感を知らない訳じゃあるまい?」
「君は、今ここで立派に自白した殺人犯。ちゃんとこのスマホに録音しておいた。この世界で生き延びても、捕まるだけの身分だよ?
それに、君自身がこの世界を地獄だと称しているんだ。だったら、せっかくのチャンスを生かして、地獄から脱出したらいいじゃないか?」
「録音、か…。そろそろもう一体出来ているはずだ。カイン!」
「残念。製造プロセスを強制停止させ、カインはデータごと消去しちゃった。だからもう襲われる心配はないんだよなあ」
「貴様!この私が、自らの分身を使って養ってきた貴重なサンプルに、なんてことを!」
「ここにいても、もう何もかも失ったも同然なのは、君も同じなんだよ、ハマナカ」
ハマナカは、顔をしかめたが、覚悟を決めたようで、
「分かった。あっちで戦うとしよう。どうせ余裕で勝てる相手だしな。ハハハ…」
と言った。すかさずサカモトは、
「では、お二人をブランクープへとお送りします。円筒の中に入ってください」
と言った。
私とハマナカは円筒の中に入ったが、私は丸腰でジュージュツを倒せるか分からず、ハマナカはハマナカで私の体力を恐れてか、互いに手出しはしなかった。
そして、サカモトがハマナカのラップトップを装置に接続し、何やら操作すると、私達は赤い煙に包まれ…。
気が付いたら、ブランクープに戻っていた。ハマナカは見当たらなかったので、どこか別の場所に飛ばされたらしい。
これから、いよいよクライマックスに入っていきます。
次回からは新章です。
引き続き、よろしくお願いいたします。





