アダムとイブ、そしてカイン
いよいよアクションらしいパートが出てきます。
「この装置から生まれたアダムとイブは、第一段階でした。
私達は人間の成体を人工的に製造することに成功しましたが、その次の段階として、繁殖ができるか確かめる必要がありました。
予め二人を相思相愛の設定にして製造したので、二人はやがて交わり、子供ができました。
私は、その子をカインと名付けました。
カインが無事産まれれば、私達はSANYの上層部に掛け合って、いよいよ実用化・製品化に向けた研究を開始する予定でした。
ところが、生まれ落ちたカインは、三つ目の奇形児だったのです。
しかも、ただの奇形字であればまだ良かったのですが、怪力にして凶暴、かつ異常なほどの食欲を有しており、
イブから吸う母乳では足りず、驚くべきことに、吸い付いたままイブを噛み千切ったのです。
そこから先は、とんでもないことになりました。アダムもイブも、跡形もなく食らいつくされ、止めようとした研究員も何名か食われました。
ようやく、何とかデータに変換して、カインを止めたときには、研究所は惨憺たる状況になっていました」
私は、自業自得だと思った。
「神ならぬ人間が神の領域に手を出したから、その当然のツケを支払わされたのではないか?」
「奇形の原因はいまだに不明ですが、神罰ではありえないと思います。
可能性が高いとしたら、ゲノムの没個性化を進めた結果、アダムとイブが、直接的には独立に製造されたにもかかわらず、
遺伝子の類似度において、近親者に等しいレベルになってしまったという線ですね。
つまり、予想外の形で、結果論から言えば近親相姦になってしまったということです」
ここでサカモトが口を挟んだ。
「しかし、そんな話は聞いたことがありません。表に出れば間違いなくニュースになっているはず。
よくそんな惨事をもみ消せましたね」
「関係者と上層部には、完成した不老不死の技術を使って、一部の研究員が自らデータとして生きる道を選んだのだ、と伝えておいたからです。
それによって確かにもみ消しには成功しました。が、上層部は激怒しました。
一部の研究員が、自分たちよりも先に不老不死の道に入ったことが許せなかったのです。
お陰様で、本研究所に割り当てられる研究予算は大幅に削られ、私も減給となりました。
あいつらは、私達の研究の偉大さなど微塵も知らずに、結果ばかり見やがって!」
ここで、ハマナカが、話の中で初めて感情を見せた。が、彼はすぐに落ち着きを取り戻した。
「これは、失礼しました。
しかし、研究者のような知的探求者も、研究費がもらえなければ、思うように動けないのです。
結果として、この国では、研究者同士の熾烈な予算獲得競争が繰り広げられております。
私のように、民間企業のサポートを全面的に受ける人もいれば、大学などの研究機関に残り、政府からの予算をめぐって競い合う人達もいます。
しかし、いずれにせよ、予算獲得は、本業の研究と同じぐらい、あるいはそれ以上に、研究者にとっては大切な仕事なのです」
知の探究者であるはずの人たちが、結果として金の亡者になっていく様は、ブランクープでは見られなかった。
ブランクープの錬金術師や魔法使いの方が、この点では遥かに矜持があった。
彼らは、たとえ都に残れないほど貧しくなっても、山野に庵を結び、知を探究する方法を自力で探していた。
彼らは、金よりもまず知ありきであった。
しかし、日本のシノビどもの間では、研究者ですら知よりもまず金ありきなのだろう。
恐るべき貪欲さである。
「なのに、あいつらは、平然と予算を削りやがった…」
「それなら、自力で庵でも結んでやればよいことだろう。金がかからぬ手を探すなり、なんなりすればよいのではないか?」
「あなたにはわからないのでしょうが、科学の力は、魔術とは違って、金も大量に消費するのです。
…さて、そろそろ準備ができたようです。話は一旦この辺にしましょう」
そう言って、ハマナカは不気味にほほ笑んだ。
そして、私達とは全く別の方向に向かって、話し始めた。
「カイン?あの二人は知り過ぎた。狩っていいぞ」
「グルルルルルルラァー!!!」
その方向から、人間とは思えない声がして、体長3メートルほどであろうか、通常の人の倍近い大きさの、三つ目の怪物が飛び出してきた。
気配は人間だったので、完全に相手にしていなかったのだが、まさかこんなことになろうとは思わなかった。
「サカモト、逃げるぞ、今は武器がないから奴とは戦えない」
「そうですね」
私とサカモトは、声のした方向と反対へ、走り出した。
私は、その気配が迫ってきているのを感じた。
確かに気配は人間なのに、その速さ、体長などの、全ての情報が、カインは怪物であると私に物語ってきていた。
私は、間もなく追いつかれると思ったので、周囲に何か武器になるものがないか、探すことにした。





