謎の男
今回は、勇者ではない、新たな語り手が登場します。
画面が朝に変わり、戦闘の振動が止まった。
「終わったようだな。見に行くか」
私はそう言って、酒場を出た。
先に私と行動を共にしていたもう一人の私は、「オフになる」と称して跡形もなく消えてしまっていたので、私一人で出た。
女神たちが戦っていたはずの場所へ向かう。当然、ダーク・ミネルヴァも倒れているはずだ…。
「え?どういうことなんだ?」
しかし、ダーク・ミネルヴァは健在だった。その鎧こそ傷ついていたが、体力は思ったほど削られてはいなかった。
彼女の周囲に倒れていたのは、ヴィーナス、ジュノー、そして、ダーク・ダイアナ。
ダーク・ミネルヴァが私に語り掛けてきた。
「あの災禍の林檎を使って、私に対して神々を遣わすとは考えたものだ。だが、仮にも私は戦の女神、新たな武器を作ることも容易にできる」
そう言って、彼女は槍を振るった。すると。
現れたのは、あの鋼鉄の怪物であった。
「何を?」
「心配せんでも良い。今はまだお前を襲う気はない。
私は一度倒れたことにして、サーバーから他のプレイヤーはシャットアウトしている。
クエストは完遂されたということにしてな。だから、今ここにいるのはお前と私だけだ。
一度じっくり話そうか、プレイヤーとしてのフンドシイッチョに操られていた、勇者フンドシイッチョよ?」
「…」
「中の人がお前なのは分かっている。
でなければ、かつてフンドシイッチョが裏ルートとして攻略したダンジョンや神殿を、ああもすらすらと攻略できるはずがないからね」
「お前がブランクープを襲った『鋼鉄の怪物集団』のリーダーなのか?」
「そうとも言えるし、そうでないとも言える。本来は、この能力はミネルヴァの範疇を超えている。
が、私が組み替えれば、このぐらいの芸当は容易にできる」
「お前の目的は何なのだ?」
「お前がブランクープに、プレイヤーとしてではなく、勇者として舞い戻ることができたら、その時教えてやろう。
今回、私はお前がニホンに実際に飛ばされたということを確証できた。それだけで、この討伐クエストを実施した目的も達せられた。
という訳で、またいずれどこかで会うこととして、今はこれでおさらばだ」
「待て!」
私はそういったが、女神はそれを無視し、光を発して消えた。
そして、画面が勝手に切り替わり、
「QUEST CLEAR!」
と表示された。
私がデビクエをプレイしている世界では、この間はせいぜい二時間程度だった。
私はラップトップを閉じて、サカモトに起こった出来事を説明した。
サカモトの方は、デビクエ22から得られた情報を伝えてくれた。
そこでは、先の勇者がフンドシイッチョを名乗っていたが、やはり恐ろしく強いプレイヤーだったらしい。
不定期に討伐クエストに参加しては華々しい実績を上げていたが、最後に現れたのは先月だという。
得られた情報をもとに、サカモトは言う。
「『鋼鉄の怪物集団』を生み出したのは、ゲームの運営に携わっている人の可能性が高いですね。
運営側であれば、MOD、つまり改造も容易にできることでしょうし。
このゲームはSANYの系列会社によって提供されておりますから、相手はSANY系の人だと思われます。
SANYの人間であれば、データとリアルの変換も実験段階とはいえ成功していましたし、
プレイヤーとしてのフンドシイッチョさんのお兄さんとして、フンドシイッチョさんのゲームソフトを持っていて、それを改造したのだとしても、おかしくはありません。
全てはつながりそうです。
今、スズキさんにLineして、デビクエ23のイベント用サーバーをハッキングしてもらうように頼みました。
サーバーの所在地や、外部からのアクセスの痕跡などがつかめれば、一気に黒幕に迫ることができるかもしれません」
「うむ」
それは頼もしい限りである。
「ですが、仮に黒幕が分かったとしても、現実の世界で殺すことはなりません。殺人罪に問われるからです」
「では、どうすればいいのだ?」
「方法の一つは、…」
私は、実に興味深い方法を聞かされた。
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都内のどこか。
男は、画面越しに笑った。
「あの勇者にも、奴のやり筋が伝わっているか。まあ、ここまでは、想定の範囲内だ…」
後は、どうやって自らの土俵に戻すか。
退屈半分で、敢えて現実の日本に逃がした勇者は、炎上したり、テレビ出演したりして、予想外に目立ち過ぎた。
それはそれで面白かったが、少しずつ、ゲームの勇者が現実化したという本人の主張を信ずる声が、ネット上で散見されるようになってきた。
私としては、あの勇者の話が世間で信じられてしまっては困る。
勇者は、精神異常者として、うまい具合に病院にでも隔離しておきたかったのに。
そろそろ、この世界からは退場してもらわなければならない。
そして、元の世界で、秘かに、永久に、処分しなくてはならない。
この世界で大人しく地獄の苦しみを味わってさえいれば、まだ見逃したものを…。
とはいえ、ゴールデンドラゴンによる電波ジャックは、やり過ぎだったか。
私も目立ちすぎたかもしれない。黒幕は、潜んでいてこそのものだ。
もう少し慎重になるか…。





