女神たちの戦い
女神たちの戦いが続きます。
ゴールデン・アップル。
100年前、先代の魔王が、神域を混乱させ、先代の勇者から逃れるために使ったアイテムである。
創造神に次ぐ力を持つとされる12の神々のうちの3名、ミネルヴァとヴィーナスとジュノーを互いに争わせることで、
100年前には、神域に大きな歪みを生じさせ、魔界・ブランクープと神域の間をつなぐ深淵を生み出した。
先代の勇者は、タイミングを見計らってそれを女神たちから取り上げ、彼女たちの目を覚まさせ、
彼女たちの協力も得つつ、先代の魔王を討伐したのであった。
そして、再び災禍が起こらぬように、先代の勇者はゴールデン・アップルをとあるダンジョンに隠したのであった。
そして、そのありかは、王家と選ばれし勇者のみに伝えられていたのだが…。
隣にいたもう一人の私は、そんなことも知らなかったようである。
ブランクープでは、当たり前に知られていることなのに。
「お前は、まるでフンドシイッチョの再来だな」
神々の激しい戦いを見ながら、そう言ったのである。
当たらずとも遠からず、だが。
「先の勇者が魔王を倒した時の世界から、当然引き継がれているものがある。私は、それを見つけ出したまでのことだ」
「いや、ゴールデン・アップルの封印場所は、デビクエ22のプレイヤーには知らされていないし、
23でもそのアイテムが必要になるクエストはないから、当然入手不可能だと思っていたが」
作られる世界が疑似的なものでしかないから、新たに作り直された疑似世界では、前の世界の不要な情報は除去された、ということだろうか。
やはり、所詮は人間業で、いい加減だと思われていたのだろう。
話している間にも、女神たちは戦っていた。
ダーク・ミネルヴァの禍々しい気配が漂う槍を、ジュノーが受け止め、その隙にヴィーナスが、弓をミネルヴァめがけて放つ。
「一番美しいのは、美の女神である私よ!」
「私こそが一番。でなければ、ジュピターの妻になどなれぬわ」
「知性なき美貌が、才色兼備の私に敵うと思っていたの?」
二人の女神の放つ光と、一人の女神から漂う闇。
画面が染まっていき、彼女たちがどんな戦いをしているのかも、目視するのがやっとになり始めた。
そう、ゴールデン・アップルは、「最も美しい女神に」捧げられた、悪魔の果実なのだ。
その正体は普通の林檎なのだが、魔王自らが、これを見た女神を争わせる呪いを吹き込んだため、どんな女神でも見れば争わずにはいられなくなる。
呪術の特性上、自身が美しいと内心で誇っている傲慢な女神ほど、激しく争うことになる傾向がある。
女神たちは、確かに見た目は美しかったが、かつては神域をも歪めてしまったというほどの争いの激しさを実際に目の当たりにするに、恐らく中身は相当に醜いのだろう。
あの姫は、中身まで美しかったが…。
戦いは、ほぼ私の計算通りに、三つ巴ではなく、二対一の構図になっていった。
争っていても、ギリギリのところで理性が働いて、闇落ちしたミネルヴァに攻撃が集中するだろうと踏んでいたのだ。
無論、万一三つ巴になったとしても、最後に残った女神も大ダメージを受けているので、のちの戦闘が有利になるという意味では、悪くはなかったのだが。
これなら勝てる。
ところが、私はまだ気づいていなかった。この村の日差しが妙に禍々しかったことに。
二対一と言えでも、戦っていたのは全て女神。
ましてや、押され気味とはいえ、ダーク・ミネルヴァは知と戦の女神であり、その戦闘能力は他の二人の一人一人よりも高い。
戦いは、日が暮れても続いていた。
そして、月が出て来た。
それだけなら良かったのだが、あろうことか、月も…月の女神、ダイアナも、兄の太陽神アポロンとともに闇落ちしていたのだ。
禍々しい紫に染まった月から、突如矢が放たれ、ヴィーナスをかすめた。
「っ、これは、ダイアナ!?」
「月の女神にして、狩りの女神でもある私を侮らないことね。私だって、狙った獲物のハートは、正確に射抜けるんだから!」
ダイアナも、月として夜空に顔を出した結果、ゴールデン・アップルを見てしまったのだ。
そして、空から月が消え、ミネルヴァと同じ気配をまとった女神が舞い降りてきて、4人の戦いが始まった。
純粋な戦闘能力では、4名の中で、ダイアナはミネルヴァに次ぐ高さを誇る。
その彼女が無傷で舞い降りてきたことで、状況が変わった。
ジュノーとヴィーナスは、既に慣れない戦闘に疲弊しつつあったところに、加勢が加わったので、徐々に押され始めた。
しかし、仮に闇落ちした女神たちが勝っても、今度は生き残ったダーク・ダイアナとダーク・ミネルヴァが争うはずだから、まあ問題はなかろう。
「これは予想外だったな。一度酒場に戻ろう。争っているうちに服が裂けたダイアナでも見てしまったら、
彼女は遠慮なく私達を攻撃してくる。極めて潔癖な処女神だからな」
私はそう言って、連れの私とともに酒場に戻ったが、戦闘の振動は、酒場にまで伝わってきた。
ラップトップの画面が、異常な幅で揺れていた。
「おい、これ大丈夫か?」
「終わるまで待つしかない。死にたくなければ、外には出ないことだ」
戦いの振動がようやく下火になり始めたのは、朝になってからだった。





