オロチとダーク・ミネルヴァ、そして黄金の林檎
勇者は、酒場で、プレイヤーとしてのフンドシイッチョの情報を探りに入ります。
酒場に入り、テーブルでボーッとしていたもう一人の私に尋ねた。
「私は、この世界で、フンドシイッチョという名の勇者を探している。心当たりはないかね?」
「ああ、あの炎上した方ですか。さあ、私は見たことがありませんが…」
「そうか。失礼した」
そこへ、別の私が話しかけてきた。
「フンドシイッチョさんなら、噂だけは聞いたことありますよ。
何しろ、先月のオロチ討伐イベントの時に、たった一騎で見事仕留めて、報酬も独占したという、半ば伝説に近い勇者ですからね」
「チーターって噂も絶えなかったけど、間近で直接見ていたけど、あれは本物だったよ。
何せ、デビクエのあらゆる裏技や裏ルート、バグなどに精通していたからね。
ファンが暴走して自称し、アキハバラに出現したとしても、
一応コアなプレイヤーの部類に入る私に言わせれば、そんなに驚きではないね」
またまた別の私が割り込んできた。
オロチなら記憶にある。
サイズが通常のゴールデンドラゴンの倍ぐらいで、頭も八つある、異常なほど生命力の強いドラゴンであった。
攻撃力は普通のゴールデンドラゴンとさほど変わらないのだが、再生力が高かった覚えがある。
一つ一つの首はいくら斬り落としても生えてくるので、何とかして八つの首を縛って、同時に斬り落としたら、やっと倒せたという、中々の強敵であった。
あの時は、魔王討伐の最中に、いきなりただ一人、見慣れぬ村に飛ばされて、
目の前にオロチが出てきたので倒したのだが、あの時も周りに他の私自身がいたのか。
敵に集中し、人の気配は気にせずにいたので、全く気付かなかった。
「その、オロチは、普通、一人では倒せないのか?」
「余程やり込まないと、最低でも二人がかり、初心者なら百人束になってかかっても倒せない強さだね、あれは」
「なるほど。で、そのフンドシイッチョさんは、裏技などについて語ったというが?」
「討伐を終えて酒場に戻った時に、色々話してくれたのさ。中の人のことも少しだが、教えてくれた。
お兄さんがSANYの研究員で、今はそのお兄さんに頼ってニートしているけど、将来的にはプロゲーマーになりたい、とか言ってたな」
その部分は、私の記憶にはなかった。
どうやら、プレイヤーに言わされたセリフ、ことにあの世界が作られたものであることを示すようなセリフは、私の記憶からはうまく消されているらしい。
「なるほど」
と言いつつ、私はニートとプロゲーマーという二つの言葉を、スマホで調べた。
ニートとは、働かず教育も受けていない状態で暮らしている若者、
プロゲーマーとは、ゲームをすることを職業としている人々のことらしい。
疑似世界で何かに長けているだけでも、職業になるのか。
まあ、勇者はブランクープでは大切な職業だから、少しは納得できた。
要するに、創造神の手が回らぬ部分を助ける、補助的な神のようなものなのだろう。
「ところで、今はどんな討伐クエストをやっているのだ?」
「ダーク・ミネルヴァの討伐だね。魔王によって闇に染められてしまったミネルヴァの」
「なるほど。倒せそうか?」
「倒せずとも、参加するだけで色々もらえるからな。お前も一緒に来ないか?」
とりあえず参加することとした。
ミネルヴァ。知の女神にして、戦の女神。
その闇モードなら、「鋼鉄の怪物集団」にも匹敵する強さがあるかもしれない。
しかし、私なら倒せるかもしれない。
「分かった。だが、3分待ってくれ」
確か、ブランクープのあそこのダンジョンに、美の女神ヴィーナスと、雷神ジュピターの妻、ジュノーを呼び出す召喚アイテムがあったはずだ。
入るには、かつて彼女たちを操っていた、前の勇者の亡霊を倒さないといけないが、所詮は亡霊なので大した強さはない。
そして、王都の神殿に隠されたゴールデン・アップルを盗み出して、召喚した女神を含む三名の前に投げてやれば、女神たちはゴールデン・アップルをめぐって、勝手に争い始める。
それで、通常の勇者が攻撃するよりも、大幅にミネルヴァの体力は削られるはずだ。
討伐モードから通常モードに切り替え、さっさと攻略してから、討伐モードの酒場に戻った。
「準備は整った。行こうか」
討伐に行く道すがら、何人もの私が倒れているのが目に入った。
やはり女神。恐ろしく強いらしい。攻撃がかすっただけでも、大ダメージになるだろう。
「…今のうちに召喚しておくか。ヴィーナス、ジュノー、行け!」
召喚アイテムを取り出し、呪文を吹きかけると、二人は現れた。
「やれやれ、女神を二名も呼び出すとは何事なの?ハーレムならお断りよ、いくら私が美の女神だからって」
「私はジュピターが浮気しないか、常時監視していないといけないのに。暇じゃないのよ?」
「ミネルヴァが闇落ちした。目覚めさせてやって欲しい。…そういえば、二名必要な理由もわかるだろう?」
「あの子、中々綺麗だから正直鬱陶しかったのよね。闇落ちしたら、適当に勇者が狩ってくれるんじゃないの?」
「私の娘ではないから、どうとでもなれ、よ。闇落ちなんて、いい気味じゃない」
だが、私は闇落ちした女神の方が気配を感じて近づいているのを察知した。
「おのれ、女神二人揃って、私を狩りに来たか!」
ダーク・ミネルヴァがドスとエコーのかかった、闇落ちした存在に特有の声で話すと、
ヴィーナスとジュノーは、いかにもやる気がなさそうな調子で言う。
「そんなつもりじゃないんだけど、勇者に勝手に呼び出されて」
「ああ、今にもジュピターが黄金の雨や白鳥に化けているかもしれないというのに!」
やはり、勝手には戦ってくれないか。
決意して、私は、ゴールデン・アップルを彼女たちの前に投げ、そして、言った。
「みんな、離れろ!ここからは神々の戦いが始まる…。終わるまで、我々は手出しするべきではないぞ」
そして、神々の戦いが始まった。
一緒に来ていた別の私は、ただ目を丸くするばかりであった。





