ゴールデンドラゴンとオンライン討伐モード
朝起きたら、サカモトがテレビ画面に食いついていた。
「緊急速報です。
トーキョー都シンジュク区に、巨大な龍のような未確認生物が出現しました。
未確認生物はシンジュクパークタワー付近に突如出現し、そのまま都庁第一庁舎の屋上まで飛行しました。
現在は、屋上に止まっており、接近するあらゆるものに対し炎を吹きかけております。
政府は、自衛隊に緊急出動命令を出したということです。
中継です。ニシノさん?
『はい、ご覧のように龍のような未確認生物は、都庁屋上に止まったまま、接近した報道ヘリなどを炎によって次々と撃ち落としており、現在13名の死傷者が出ております。
政府はニシシンジュク一体を緊急封鎖し、自衛隊を緊急出動させることで未確認生物を捕獲しようとしておりますが、
市街地への被害を最小限に抑えつつ未確認生物を捕獲することは、至難の業だと言えそうです。
あ、今、自衛隊の戦闘機から、ミサイルでしょうか、飛翔体が未確認生物に撃ち込まれました!
が、どうやらほぼ無傷のようです。
あ、未確認生物が飛翔しました!どうやら炎を吐いて、シンジュク一体を焼き尽くそうとしているようです。
熱気がこちらまで伝わってきます。未確認生物が迫ってきました!
ご覧のように、体長は10メートルほどでしょうか。まるで恐竜です。
炎が迫ってきました。私達も危なそうなので離れます。以上、中継のニシノでした』
ニシノさん、ありがとうございました。市民の皆様は、くれぐれもシンジュク一体にはお近づきにならないようにお願いします」
映像に映っていたのは、ゴールデンドラゴンだった。
四つの頭を持ち、聖剣シュヴァルツフントによる攻撃以外は、一切を跳ね返す最強クラスのドラゴンである。
「サカモト、私は行かなければならないだろう。あれは…」
「ゴールデンドラゴンですね。勇者様のみならず、ドラゴンまでもこの世界に送り込んできたようです。
何が目的なのだか…」
突如、テレビ画面の映像が切り替わった。それは、自衛隊に攻撃されている、ゴールデンドラゴンであった。
攻撃をものともせず、仁王立ちのまま、ドラゴンは話し始めた。
本来は会話などしないはずだが、確かに話しているのはドラゴンだった。
「そろそろ燃料切れになるので、各局の電波をジャックした。
この世界のどこかに飛ばされた勇者よ。
地獄の味を楽しんでいるかね?
お前が呑気にしている間に、ブランクープは私達が乗っ取った。
姫も国王も、既に倒された。
悔しければ、ブランクープへ戻る道を自ら探り、戻ってくることだ。
せいぜい私を楽しませてくれ。私は退屈なのだ。
それでは、またどこかで会うとしよう。ハハハ…」
そして、驚くべきことに、ドラゴンは自爆した。
「私が元いた世界、たった一枚の円盤を探す旅の始まり、という訳だな?」
一晩の差で、姫が殺されたのだとすれば、それは嘆かわしいことである。
が、今はそんなことを言っている場合ではなさそうだった。
「しかし、どこからどう手を付ければいいのだ?」
「そうですね…。まずは、デビクエをプレイしてみましょうか。
オンライン討伐モードを使えば、フンドシイッチョさんがいた世界の痕跡を探せるかもしれません」
「オンライン討伐?」
「各プレイヤーが育てた勇者が合同パーティーを組み、巨悪に立ち向かうモードです。
デビクエ23と、前作デビクエ22辺りで討伐モードを立ち上げれば、何かヒントは出るかもしれません。
特に、チャットを使えば、フンドシイッチョさんとしてプレイしていた人物の情報がつかめるかもしれませんよ」
そういって、サカモトは、自身のラップトップにデビクエ22と書かれた円盤を挿入し、私にはデビクエ23と書かれた円盤を渡してきた。
「操作方法は、ヘルプを見れば分かりますが、そんなに難しくはありません。
まずは、スタートから入り、オンライン討伐モードを立ち上げてみてください」
私が討伐モードを立ち上げると、そこには、懐かしのブランクープと、私自身が映された。
「クエストを押すと、実際に巨悪が現れ、討伐することとなります。
しかし、今はまず、酒場に向かいましょう。
他のプレイヤーと接触することができるはずなので」
ブランクープの、しかし行くのは初めてのこの村の酒場は、南の外れの方にあった。
入ると、そこには私が、何人もいた。
「これは、どういうことなんだ?私が何人もいて、気味が悪いのだが」
「オンライン討伐モードでは、簡単に言うと、ソフトウェアごとに存在するブランクープ王国が交錯する新世界が形成されます。
フンドシイッチョさんを含むプレイヤーが大勢集まっているので、あなたが何人も現れることとなるわけです」
「よくこんな気味の悪い映像を見て、平気でいられるものだな」
「この世界では、人間でなければクローンという、生命の複製も平気で行っていますし、
人間のクローンも映像としては頻繁に見せられているので、そんなに大したことだとは感じないのです」
人を複製できるのなら、あるいは、死者、グンドリルやマロウズ、国王、そして、姫の復活も可能かもしれない。
しかし、ほのかに抱いたその希望は、口にはしなかった。
「酒場に入ったら、まずは適当なプレイヤーと話してみてください。
他の勇者が何か話しているところでは、吹き出しにセリフが表示されているでしょう?
それを見て、興味を示す人が出てくるかもしれません。
私の方でも、始めてみます」
「なるほど。やってみよう」
私は、会話を始めることとした。





