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アイドルとゲーム、そして勇者の秘密

メイド喫茶を出て、「中央通り」に戻り、通り沿いを歩いていると、巨大なポスターが目に入った。


ポスターには、どうにも微妙な、美しいとも言えないが悪くもない容貌の女性が何十名も並べられ、「しじゅうはち ニューシングル発売」と記されていた。


「あれは?」

「人気アイドルグループですね。48人、と称しつつ、実際にはもう少しだけ多くの女性が加入しています。

新曲が発表されて、売り出されるみたいですね」

「人気が出る理由が分からんな。見る限り、そこまで見た目が良いという訳でもなさそうだが」

「そこなんですよ。敢えて二番手ぐらいの要望の子を集めていて、ファンには特定個人を応援、つまり『推し』させるんです。

そして、年に一回行われる総選挙で、ファンは『推し』の子に投票して、その得票数が多いと、

推された子はいいボジションで映像や作品に出られるようになっているんです」

「48人も集めたのは、それだけ集めれば、どんな人でも、誰か一人ぐらいは『推し』たくなる、と睨んでのことか。

男には、時として二番手ぐらいの容貌の女性が訳もなくグッとくることがある、という点を突いた、中々よくできたシステムだな」


しかし、私はあの姫に会って以来、そんなこともなくなってしまったが…。


「それで、今日はその『しじゅうはち』を見に行くのか?」

「いえ、今日、フンドシイッチョさんに見ていただきたいのは、ブランクープに関連したお話ですよ」

「というと?」

「まあ、すぐ分かりますから」


そういってサカモトが入ったのは、通り沿いの店の一つであった。


「こちらをご覧ください」


そう言って、彼は、一つの箱を渡してきた。そこには、


「デビルクエスト23」


と書かれていた。


「裏に書いているお話には、見覚えがあると思いますよ?」


そう言われたので、私は裏を見ることにした。


「前の魔王を神域まで追いつめ、遂には倒した伝説の勇者のお陰で、ブランクープ王国は、100年の平和を享受していた。

しかし、前の魔王は、勇者に倒される間際、呪いをかけていた。

勇者の息子は、次の魔王になる、と。勇者本人は息子を作らずに一生を終えた気でいた。

しかし、実は、呪いの神の偽りの啓示を受けた、あるエルフが勇者の睡眠時を狙って、ことを成しており、新たな魔王は誕生していた。

新魔王は、70年の歳月をかけて、じっくり魔王軍を再編し、ついにブランクープへの反撃ののろしを上げた。

平和ボケしていたブランクープ王国は、魔王群の圧倒的な力を前に一方的に押されており、国王は、ついに新たな勇者の募集をかけ…。


今、新たな勇者と魔王の戦いが始まる!

君は再び、平和なブランクープ王国を取り戻すことができるか?」


確かに、この話には見覚えがあった。そうして募集に応じ、他の応募者との模擬戦を制し、前の勇者が地面に刺した聖剣を抜くことに成功したから、私は勇者になれたのだ。


「どうしてこの話がニホンにまで広まっているのだね?ニホンとブランクープは、別世界のはずだが?」

「SANYに行ったとき、見たでしょう?ブランクープも、あれと同じで、この世界の人々によって()()()()()()なんですよ」


私は、サカモトが言っていることが一瞬理解できなかった。


「は?」

「ブランクープも、ゲームの中の世界なんです。ですから、あなたも、作られた存在なんです」


私は、夢でも見ているのかと思った。そんなはずはない。何故なら…。


「ブランクープを作ったのは、神のはずだ。人間に作れるとは思えないがな。

それに、もしも私がゲームの中の存在だとしたら、どうして今私はここにいるのだ?」

「恐らく、SANYのアレと同じく、データを人工的に現実化させたからでしょう。

ただ、それが、『デビクエ』のゲームソフト全てに対して行われていたら、あなたのそっくりさんが無数に出現しているはずです。

今のところ、あなたしか出現していないのを見ると、あなたがいたデビクエのデータだけが抽出された可能性が高いです」

「私の世界一つ作られたというのもほぼあり得ない話なのに、この世界には、ブランクープの疑似世界がいくつも存在するというのか?」

「ええ。作られたソフトの数だけ」

「頭が痛くなってきた…」


スズキはさっきからずっと黙っていたが、どうやら驚きのあまり何も話せなくなっているようであった。


「仮にそうだとしよう。すると、私がブランクープに戻るためには、たった一つのゲームソフトを見つけて、その中に、再びデータの形で入らなくてはならない、ということだな?」

「ええ。しかし、それはそんなに難しいことではないかもしれません」

「何故?」

「フンドシイッチョなんて名前を勇者につけるプレイヤーは、そうそう多くないと思うからです。

普通は自分の名前を使ったり、もっとカッコいい名前を編み出したりしますよ」

「つまり、私の名前は、どこかのプレイヤーが勝手に決めたということか?」

「ええ。勇者様のお名前は、ゲームの中で設定されないと決まりませんから」


つまり、私は、ニホンの下着を連想させられる名前を、ニホンのどこかのプレイヤーによってわざとつけられたという訳だ。

ずっとただの偶然だと思い、気にせずにいたが、そう考えると、にわかに怒りが込み上げてきた。


「それで、ブランクープへの『鋼鉄の怪物集団』やニュークの持ち込みも、そのプレイヤーがやったことなのか?」

「可能性は高いですね。プログラムをハッキングして改変すれば、原理的には可能ですよ」

「ふざけてる。私も世界も作られた存在で、しかも作った世界の人間に、好き放題遊ばれていた訳だな?

私は、何故そんな世界のために尽くしていたのだろうか?」


私は、やり場のない怒りから、店の壁を拳で叩いた。


「それなら、私はそもそも勇者なんかやめて、この世界で生き延びてもいいのではないか?

作られた存在に過ぎないにせよ、せっかく現実化されたのだ。この世界に居残れば、現実の存在として生きていけるはずだ。

どうして再び、作られた存在、データに戻らなければならないのだ?…ああ、頭が痛い。サカモト、今日は帰らせてくれ。

帰ってドラゴンウィスキー、否、ニホンならカクか、それを一杯やらずにはいられない気分だ」


「私も行っていいですか?」


ここにきて、初めてスズキが口を開いた。


「もしも勇者様がお戻りになると決めた場合、お手伝いできることがあるかもしれませんので」


私が、最後には戻ると決めるだろう、と確信している表情であった。

私自身にも分からないことを、よくそう先読みできるな、と、少し感心した。


だが、私は、こうなってしまった以上、どうしたらいいのか正直よく分からない。

一度一杯飲んで、寝て、気分を変える必要がありそうだった。

勇者は、アイデンティティー・クライシスに直面したようです。


次回から、新章に入ります。

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