メイド喫茶とメイドもどき
勇者は、メイドのいるシーシャカフェを体験します。
明らかにメイドではないのに、メイドの服だけ着ている、メイドもどきの女性が尋ねる。
「ご主人様は、シーシャカフェは初めてですか?」
サカモトが答える。
「僕は前にも来てるけど、この二人は初めてですね」
「では、簡単にシステムをご説明しますね。
本シーシャカフェでは、どのご主人様にもシーシャを一つか、ワンオーダーをお願いしております。
余力の範囲でメイドさんとお話しすることができますが、決してみだりにメイドさんの体に触ったりしないようにお願いします。
シーシャを一回お試しになるごとに、こちらのポイントカードにスタンプを押してもらえます。
スタンプがたまりますと、お気に入りのメイドさんと、チェキというツーショットを撮ることができますので、どうぞお楽しみください。
ところで、ご主人様はなんとお呼びしましょうか?」
ツーショット、つまり二人だけで写真に写るというのが、それほど楽しみなことだとは思えなかった。
例えば、大人数集まった写真も、うまく切り抜けば二人だけの写真にできるではないか。
サカモトが答える。
「リョウマと呼んでくれ」
「雪姫、でお願いします」
「フンドシイッチョだ」
「かしこまりました。では、雪姫様、フンドシイッチョ様、こちらがご主人様のポイントカードとなります。
では、本日はどのフレーバーをお試しになりますか?」
「私はいつも通り、ブルーベリーで」
「本日のオススメで」
「抹茶で。東の国で飲んだのが懐かしいのでな」
私は、本当は頼みたくなかったが、健康への害はないという話だったので、一応頼んでおくことにしたのだ。
「かしこまりました。お飲み物や食べ物は何にしましょうか?」
「メイドさんの特製オムライスで」
「本日のオススメパスタで」
「ロシアンたこ焼きで」
私がそういうと、メイドもどきは、
「あの…、ロシアンたこ焼きを、お一人でお召しになるのですか?」
「そうだ。見たことのない食べ物だから、きっとニホン固有のものなのだろう?何か変なことでも?」
「いえ、かしこまりました、フンドシイッチョ様。では、ご主人様、今しばらくお待ちください」
スズキがクスクスと笑っているのが見えた。
「何かおかしいのかね?」
「お食べになれば、わかりますよ」
サカモトは、「Peace」の箱から、昨日道端で見た筒状の紙屑と似たものを取り出し、口に加え、更に「Peace」よりも小さな箱から、先端が赤い木の棒を取り出した。
「サカモトさんは、マッチをお使いなんですか。渋いですね」
「この頃はコンビニでも殆ど売っていませんからね。置いているスーパーが近くにあってよかったですよ」
言いながら、木の棒を箱にこすりつけると、先端に火が点いた。
「驚いた。これも科学の力か?」
「ええ。こすりつけた摩擦熱で発火点に到達した火薬が点火する仕組みになっております」
一方のスズキは、やはり「Marlboro」の箱から紙の筒を取り出したが、箱ではなく小さな、刃のないナイフの柄のような道具を使って、火を点けた。
「ちなみに、これはライターです。今は、こっちの方が主流ですね」
スズキはそう言った。
ブランクープだったら、魔法使いでもああまで手際よくは火を点けたりはできなかっただろう。
ライター、これもまたシノビの便利な武器であるのに違いない。
二本の紙筒からは、黙々と煙が立ち上がり、何とも言えない臭いが漂った。
「臭いな。よくそれを楽しめたものだ」
「慣れればいい香りですよ」
言いながら、サカモトは、煙が漂う息をハーッと吐いた。
楽しんでいるのが煙なのだとしたら、健康に悪いのも無理はない。
煙が有害なことぐらいは、ブランクープの子供でも知っている。
火事の時、真っ先に倒れるのは煙を吸い込んだ人だ、というではないか。
筒がほぼ燃え尽きる頃になって、先ほどとは別のメイドもどきがやってきて、
「こちらになります。
リョウマ様には、ブルーベリー味、雪姫様には、本日のオススメのパイナップルティー味、そして、フンドシイッチョ様には、抹茶味でございます」
と、色水が入った容器にパイプがつながったものを渡してきた。
容器の上には、何やら灰色のものが置かれており、燻されていた。
「シーシャは、勢いよく吸い過ぎると酸欠になって気分が悪くなることがございます。
ご自身のペースで、ゆっくりとお吸いください。そして、香りを楽しんだら、吐き出してみてください。
香りが感じられなくなりましたら、その時がおおよそのやめ時です。
では、どうぞお楽しみくださいませ、ご主人様」
そういって、メイドもどきはパイプを私達に渡して、出てきた方向に戻っていった。
私は一息、吸ってみた。
確かに抹茶の香りがした。その香気はしかし、本物の抹茶よりも柔らかかった。
「なるほど、こちらは確かにいい香りだな」
「でしょう?スズキさんはどうです」
「パイナップルティーの味がちゃんとしますね!不思議だなあ」
そう話しているうちに、これまでの二人とはまた別のメイドもどきが出て来て、
「こちらがお料理になります。
リョウマ様には、メイド特製オムライス、雪姫様には、本日のオススメパスタの、ゴルゴンゾーラで仕上げた、ブルー・カルボナーラ、そして、フンドシイッチョ様には、ロシアンたこ焼きでございます」
「さて、リョウマ様のオムライスには、私の方からご希望のメッセージをお書きしますが、いかがされましょうか?」
「いつもので」
「かしこまりました。ハートに、リョウマ様、万歳!、と。ではおまじないです。萌えキュンキュン!」
「萌えキュンキュン!」
「よくできました。それでは、ご主人様、ごゆっくりお楽しみください」
私が謎の「おまじない」に唖然としているのにも気づかず、そう言って、彼女もまた戻っていった。
サカモトが物知り顔で私と鈴木に語る。
「今はちょうど昼食時のピークも過ぎているので、休日でも意外とすいてるんです。穴場の時間帯ですね」
私は、ロシアンたこ焼きを一つ、また一つと食べていった。
シーシャも時々吸いながら。
隣のテーブルでは、常連客らしき男性がメイドもどきの一人に絡んでいた。
ああまで下心丸見えでも平気でいられるとは、メイドもどきは余程のお人好しなのに違いなかった。
結局、ここも一種のフーゾクなのだろう、と私は踏んだ。
ロシアンたこ焼きの、最後の一つを口にした。
それまでのロシアンたこ焼きは、東の国で前に食べたたこ焼きと同じ味だったのに、これだけ異常に辛かった。
「辛いな、これだけ…。どういうことなんだ?」
サカモトが答える。
「ロシアンたこ焼きは、一つだけ激辛のものが混ざったたこ焼きなんですよ。
普通はパーティー用で、複数人が順番に食べて行って、激辛に当たってしまった人の反応を楽しむためなのですが、フンドシイッチョさんは、それをお一人でお食べになっていた訳です」
ここで、スズキが吹き出した。一通り笑い終えてから、
「勇者様、本当にそのことをご存じなかったのですね?驚きました」
と言った。
シノビどもも冷淡なものだ。知っていて、私をわざと罠にかけたのだから。
しかし、そうと分かれば、私は辛いものが大好物であるので、気にせず食べてしまった。
スズキは、そして心持ちサカモトも、私から大した反応が得られず、つまらなそうだった。
そうして雑談しながら、そして時々メイドもどきが容器の上の灰を取り換えながら、食事とシーシャを楽しんでいたが、やがて香りが出なくなった。
そこで、サカモトは、
「そろそろ出ますか。フンドシイッチョさんには、見てもらいたいものもありますし」
私は、それがアイドルだったらごめんだ、と思いながら、席を立った。





