表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/48

専門家と勇者、そして放送事故

今回はやや長め(4000字程度)です。

本番がスタートすると、アナウンサーのヤマダが話し始めた。


「こんばんは。〇月×日金曜日、ニュースイブニングの時間が参りました。本日のコメンテーターは、

作家のサカモト某さん、デジタル文化専門家のタナカ某さん、そして昨日勇者の格好そのままでアキハバラに現れ、ネット上で話題を振りまいた、自称勇者のフンドシイッチョさんです。

さて、国会では、与野党の攻防がいよいよ大詰めを迎えようとしております…」


最初の方は、どうやらニホンを中心とした世界の情報を流しているようであった。


それにしても、「自称」勇者とは何たるざまだ。私は、正真正銘の勇者である…と言いたくなったが、場が言わせない状況を作り出していた。

ニホンのシノビどもは、この「場」、あるいは「空気」とも呼ばれる謎の雰囲気を用いて、他者の発言を制御する能力に長けている、と前にサカモトが何かの際に話していたのを思い出した。

「場」、恐るべき技術だ。これもきっと、科学の力で、人々の口をも支配するというとんでもない技なのだろう。

この勇者たる私ですら影響を免れられないところを見ると、そう察知することができた。


流れた情報内容は要約すると、様々な権力者の、しょうもない駆け引きが、本日も進展はありませんでした、というものだった。

それを小難しい言葉を並べ、尤もらしく政治家本人の発言まで引用して、あたかも進展があったかのように演出し、それが重大な情報だと言わんばかりに、アナウンサーは盛り立てていた。


しかし、それは私が見ていても退屈な、数十字を30分に膨らませる例の謎の読み上げ術だったので、詳細は割愛しよう。


サカモトはその間、時々ヤマダから話を振られていたが、私には一切話は振られてこなかった。


ようやく私に話が振られたのは、特集に入ってからだった。


「本日の特集では、昨今話題の、行き過ぎたゲーム・アニメファンを取り上げます」


そして、映像とともに、アナウンサーのではない音声が流れた。


「昨今話題の、聖地巡礼やコスプレなどの、ゲーム・アニメファンによるゲーム・アニメの現実化。

聖地巡礼として、本来観光地ではない『聖地』に大量に押し掛け、『聖地』の現地住民の生活が妨害されているケースや、

実際にゲームやアニメで出てきた挙動をそのまま実行して、ついには逮捕に至るケースなどが出て来ており、

現地住民や、コスプレイヤーが集いやすいアキハバラ周辺の住民などは、困惑を隠せないでいる。


『困りますねぇ~。ああいう現実離れした人達は、現実を顧みないからゴミを捨てっぱなしにしたり、危険な姿勢で、道路の真ん中に立って写真撮影したりして、私達はみんな迷惑しております』


そう話すのは、アニメ『みやこふうが』の『聖地』のひとつとなった、キョート府『アマノハシダテ』周辺に在住する60代の女性だ。


女性によると、『みやこふうが』が放送される前は比較的健全な観光客が多かったのに、アニメ放送後に聖地巡礼と称して危険行為や迷惑行為に走る観光客が急増して、困っているという。


『私達だって、みんながみんなああじゃないことぐらいは分かりますよ。でも、10000人のうち10人でもそういう人がいれば、十分なダメージになるんですよ』


現在、地域ではポスターや声がけによって、迷惑行為・危険行為を減らそうと試みている。


しかし、ただの迷惑行為では済まない場合もある。


先月、トーキョー・ミナト区に住む30代の男性が、銃刀法違反容疑で逮捕された。理由は、『行き過ぎたコスプレ』。


この男性は、オンライン対戦型ゲーム『The Great Conquest』の英雄に扮するために、自宅で3Dプリンターを用いて、殺傷能力を有する銃を製造した容疑で逮捕されたという。


コスプレイヤーが集うアキハバラでは、約10年前に無差別通り魔事件が発生したことがあり、

コスプレイヤーが銃刀法違反となる本物の銃や刀を所持することに対する警戒感が強い。


コスプレイヤーに混じった通り魔が出て来ないとも限らないからだ。


昨年から、最寄りの警視庁マンセイバシ署では、このようなリアルすぎるコスプレに対して、厳重警戒を敷いており、ここ3か月間のタイホ件数は15件に上るという。


ただ、中には規制を知らずにタイホされた外国人コスプレイヤーもいるというため、今後警視庁では、外国人向けの告知も充実させていく方針だという」


映像が終わり、アナウンサーが話し始める。


「深刻な問題になりつつある行き過ぎた現実とのリンク付け。本日は、その象徴として、

先日アキハバラに出現して銃刀法違反で逮捕されたものの、厳重注意処分で釈放となった、

自称勇者の『フンドシイッチョ』氏にお越しいただきました。よろしくお願いします」

「自称ではない、正真正銘のブランクープ出身の勇者であるぞ」

「…と称するにふさわしく、なんと金貨や聖剣まで自作したというお話ですが?」

「ヤマダさんだったかね?無礼もほどほどにしたまえ。私は、正真正銘の勇者であるぞ」


すると、ヤマダは、かすかに吹き出した。


「何がおかしいのだね?」

「いえ、失礼しました。さて、フンドシイッチョさんは、どうして勇者の姿になったのでしょうか?」

「勇者だからだ」


サカモトが口を挟む。


「徹底したコスプレイヤーは、コスプレの最中はこうして本人と同化するのです。

ですから、あくまで勇者本人であるとみなしてご質問していただいた方が無難だと思います」


ヤマダは一瞬呆れたような表情を見せたが、


「分かりました。それでは、フンドシイッチョさんは、『ブランクープ王国』の出身ということでしたが、

何故このニホンにお越しになったのでしょうか?」

「それは、『鋼鉄の怪物集団』によって、ニホンに飛ばされてしまったからだ」

「では、ニホンを見て、何を感じましたか?」

「シノビどもの恐るべき科学の力を感じた。シノビどもが作っておきながら制御しきれず、逆に技術に制御されている様子をも感じた」


ヤマダの表情が引き締まり、元の張りぼてで、心情の読めない表情に戻った。

個人的には私を見て笑っていた時の方が、まだ人間らしさを(いい意味ではないにせよ)感じられたのだが、まあいいだろう。


「と、おっしゃいますと?」

「シノビどもは偉大な鋼鉄の世界を築き上げたが、その副作用として地球を灼熱地獄にしてしまったり、

わずかな距離を歩くことを忘れて、大して時間的にも変わらないのにわずか一駅のために鉄ミミズに乗っかることにこだわったり、

エンジョーなどという痛くもかゆくもないただの情報拡散に怯えて、巨大なシューカツシステムの中で家畜化されたサラリーマンになってしまったりする。

人々は不幸だが、その不幸を解消するために残された手段は現実逃避だけであって、問題の解決策を考えることも、問題を指摘することも許されてはいない。

本当に技術を制御しているのであれば、何らかの解決策を見出だせるはずだ。見出せないから逃避するのであって、

それはまさしく技術を制御できていないから、技術に溺れているからに他ならないだろう。

違うかね?」


ヤマダは、考え込むような表情で黙っていたが、デジタル文化専門家のタナカがここで口を挟んだ。


「それ、お前が言うな、ですよ。自分自身を勇者だと思い込んでしまうほどまで徹底したコスプレをするなんて、ドン・キホーテ以外の何物でもありません。

あなた自身が現実逃避している存在なんですよ。

風車に突っ込む似非騎士、似非勇者さんは、ニホンではなくブランクープの出身なんですから、この国の科学の素養は一切ないのでしょう?

ないのなら、技術のことも深く理解している訳ではありますまい。にもかかわらず技術を制するだの技術に溺れているだの、よくもまあ一人前に語れたものですな。

…所詮は犯罪コスプレイヤーの分際で」


最後の一言だけ、声を低くしていった。マイクは拾えなかったようだが、私は拾ったので、流石に許せぬ無礼だと思った。

だが、ここは怒りを抑えた。


「では、そういうタナカは技術を制御しきれているのか?」

「当然でしょう。私は、デジタル文化の専門家ですから、デジタル機器は完璧に使いこなせますよ。

ほぼ24時間、いつでも様々なサイトから、トレンドを収集しております」

「逆に言うと、24時間トレンド収集のためにデジタル機器に縛られているのではないか?」

「いえ、自ら望んで24時間画面に張り付いているんですよ。万一トレンドを見逃してしまったら、他の専門家に後れを取ることになりますからね」

「つまり、他の専門家とやらも24時間張り付いているのだな?」

「普通、うちの分野ではそうですよ」

「それでは、食事も睡眠もままならないだろう?」

「研究者は寝食を忘れてこそ、ですから」

「ニホンではそうなのか。ブランクープでは、賢者はしっかり食事も睡眠もとるがね。

でなければ、賢者のお言葉は寝言と区別がつかなくなってしまう。お前の今の言葉も、大方寝言なのだろう?」


タナカは顔を真っ赤にした。


「何だと?犯罪者風情が、このトーダイ出で奨励賞も受賞している、私を愚弄するのか?」


ヤマダが口を挟んだ。


「タナカさん、落ち着いてください。見苦しい暴言、大変失礼いたしました。

コメンテーターの発言は、全て個人的な見解であり、当テレビ局の見解とは何ら関係ありません」


タナカは、


「私が暴言だというのなら、局は暴挙を行っているではないか。こんな…」


と、まだまだ顔を真っ赤にしている。そこでサカモトが話に入る。


「タナカさん、あんまりムキになりますと、図星突かれたと取られるだけですよ。落ち着いてください」


タナカは、まだ収まらず、


「見世物風情が…」


いい加減しつこいので、私はトドメを刺した。


「私が見世物だとしたら、私相手に激怒しているあなたは、自ら同じ舞台に立つことを選んだということだな。

ほれ、こうしている間も映像は流れているはずだぞ。ニホン中にね。きっとエンジョーもしているんじゃないか?」


タナカは真っ青になり、へなへなと座り込んでしまった。

変化の激しい男である。


ヤマダが締めた。心持ち、その顔は引きつっていた。


「お見苦しいところを失礼しました。続いての特集に参ります…」


その後は、私の出番はなく、出演は終わった。


後でサカモトに聞いたところによると、テレビ局は実際、タナカの言う通り、見世物として私を呼んでいたらしい。

ところが、思わぬ形になってしまったので、「放送事故」ということになったということである。

このような事故が起こった場合、通常なら編集によってカットしてから放送するらしいが、

今回は生放送、つまり起きたことをそのまま放送する形式だったので、私の予想通り全ニホンに田中の醜態が晒されたということになる。


無礼を働いたのだから、自業自得だと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
小説家になろう 勝手にランキング
感想を書く! / レビューする!
小説家になろうアンテナ&ランキング
カクヨムコンに全部門1作ずつ、計6作エントリー中です!こちらもよろしくお願いします。
カクヨムの小説一覧
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ