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高速道路、飛行機とテレビのセット

ロッポンギへ行くのに、サカモトは鉄ミミズに乗ることを主張したが、

経路を聞いたところ、カミヤチョーから一駅分だということだったので、当然のことだが却下し、

私達は、「外堀通り」から「六本木通り」に入り、六本木通り沿いを進んで歩いていくことにした。


六本木通りは、道路の上に道路が走っている異常な通りであった。


「サカモト、あれはどういうことなのだ?」

「上を走っているのは首都高速ですね。高速道路は、より速い速度で走れ、かつほぼ信号がないためにスピーディーな移動を可能にするんですよ」

「歩いてもさほど時間がかからないのに、自動車だのチカテツだのを使い、その上更に速く動ける道路を求めるとはな。

シノビは東の国でもスピードマニアであったが、どうやらそれは、ニホンでも変わらないらしいね」

「まあ、特にサラリーマンなどは、一時でも多く働いた方がいい、と長らくされてきましたから。移動は、我々からすれば無駄な時間なんですよ」

「歩き旅をすれば、アイテムの一つや二つ、拾えることもあろうに」

「この世界は、なかなかよく清掃されているので、そんなアイテムも殆ど落ちていないんですよ」

「その割には、道に黒い染みだの、筒状の紙屑だのが落ちているが?」

「それは、…」


サカモトが珍しく返答に窮した。


「それは?」

「気にしないでください。この国では、『上を向いて歩こう』という伝統の一曲があるんです。下を向いて歩いているから目につくだけですよ」

「上と言えば、時々ドラゴンとも鳥とも違う奇妙な何かが飛んでいるが、あれは何だね?」

「飛行機ですね。24時間あれば、世界の反対側にもたどり着ける、現代最速の空飛ぶ乗り物です」

「驚いた。ニホンでは、人造のドラゴンまで飛ばしているのか」

「ええ」


しかし、その飛行機は、私が見た鋼鉄のドラゴンとは明らかに違った。動きがないのに空を飛んでいたのだ。

否、よく見ると、翼がかすかに動いているようにも見えたが、その様はむしろ鷹か鷲の滑空に似ていた。

一体あれは何だったのだろうか、などと考えているうちに、ロッポンギにたどり着いた。


ロッポンギには、シンバシとはまた異なる色合いの明るさがあった。

既に日は暮れかかっていたが、やはりそこは夜とは思えない明るさであった。

ただ、シンバシに比べて、その色合いはケバケバしいものであった。


サカモトは、その中の一つの建物に、私を案内した。


「ここが、テレビ局と呼ばれる建物です。テレビの映像は、ここから流されるんですよ」


建物に入ると、いかにも人々に媚び続けて生きてきましたという顔つきの、サルを思わせる男がやってきた。


「お待ちしておりました、サカモト様、それと…」

「フンドシイッチョだ」

「フンドシイッチョ様。どうぞこちらへ」


サル男は、私達にSANYでもらったのと似たようなカードを渡して、私達を通らせた。

唯一の違いは、私達が入る前に、サル男がカウンターで何やら紙に記入していたことだった。


サル男は、私達を建物の中の一室へと案内した。


「さて、本日のご出演ですが、サカモト様は普段通り、アナウンサーに意見を求められた際に思うところを述べていただければ構いません。

フンドシイッチョ様には、特別の席が用意されておりますので、そちらにおかけになって、アナウンサーから投げかけられた疑問にお答えいただければ、と思います」

「分かりました」

「うむ。分かった」

「それにしても、フンドシイッチョ様はニホン語がお上手なんですね」

「東の国の言葉に似ているからな。昔シノビどもから教わったことがあった分、覚えるのはさほど難しくなかった」


サル男は、吹き出しそうな顔を一瞬見せた。そして、


「そうなんですね。では、お時間まで今しばらくお待ちください」


とだけ言って、そそくさと出て行った。


直後に廊下から笑い声が聞こえてきたので、きっとサル男はとうとう堪え切れずに笑い始めたのだろう。

それにしても、何がそんなにおかしかったのだろうか。


「あのサル男は、何がそんなにおかしくて笑いだしたのかね?」

「さあ…」


サカモトは、例の曖昧な笑顔を浮かべただけだった。


私はそれが気に食わず、お互いに黙り込んでから数分。

今度は、サル男とは別の男が入ってきた。典型的な面従腹背の顔つきをした、タヌキ男とでも言おうか。


「さて、サカモト様、フンドシイッチョ様、間もなく本番ですので、ご案内しますね」


タヌキ男は、油断のならぬ目つきで私をジロジロ見ながら、そう言い、私達を別室へと案内した。


その部屋には、セットという壁一枚、床一枚の張りぼてが置かれていた。


私は瞬時に気付いた。私がテレビで見ていた画面は、張りぼて一枚を映していたのだと。

何たることだ。シノビは昔から幻術に長けていたが、ニホンのシノビどもは、壁一枚で遠く離れた場所にまで、あたかもそこには世界があるかのように見せることができるのだ。

これでごまかされてきた私も私だが、これだけで、あたかも何らかの世界があるかのように見せられるシノビどもも恐ろしいものである。


私とサカモトは、タヌキ男によってそれぞれ、セットの中の席へと案内された。

張りぼてのセットの中の椅子だから、きっと張りぼてに違いないと思い、私は座るのに躊躇したが、

サカモトが問題なく座っているのを見たので、ともかく腰を掛けた。


すると、タヌキ男は、私の胸元に何やら怪しげな黒い豆粒のようなものを取り付け始めた。


「何だね、これは?」

「マイクです。音声を拾うための」

「カラオケで見た球体付きの棒と同じ効果があるのかね?」

「それも、マイクですから…」


そう言ったタヌキ男の目は、明らかに私を愚弄していた。やはりこの男は、面従腹背の典型なのだろう。


「ところで、この服、どこかにポケットってありませんか?」

「ないが…」

「困ったな…」


何が困ったのかと訊くと、タヌキ男は、豆粒につながっている、より大きな黒い箱、「本体」を私の体のどこか目立たぬところに取り付けたいということらしかった。


「それなら、アイテム袋に放り込めばいいのではないかね?」

「なるほど」


と言って、タヌキ男はアイテム袋に「本体」を入れた。


「さて、準備完了です。間もなく本番になりますので、少々お待ちください」


気付いたら、セットの中には、他にも何名か腰を掛けている人がいた。


それぞれが誰かにマイクを取り付けられているらしかった。


その中の一人、若い女性が声をかけてきた。


「アナウンサーのヤマダです。本日はよろしくお願いします」


その言葉は、よどみなく流暢で、しかしセットのような張りぼてだと思われた。

テレビで聞いていたニホン語もそうだったが、サカモトなど他のニホンの人々が話すニホン語とは、明らかに質が違うのだった。


そして、どこかから声がかかる。


「本番開始10秒前…5、4、3、2、1、本番スタートです」


すると、どこから音楽が流れ始めた。


私はようやく悟った。情報番組と言いつつ、そこで行われているのは、一種の即興劇だということ、そしてどうやら私は、役者の一人として呼ばれたらしいということに。


前に見た番組では、出演者は、すぐ言葉に詰まるような大根役者ばかりであった。

彼らのようにはならない自信はあったので、シノビどもには人の才能を見抜く能力もあるのだな、と秘かに感心した。


が、この後、私が呼ばれた真の理由は、そこではなかったことを思い知らされることとなる。

本番、始まりました。


次回、勇者は何を語るのでしょうか…?

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