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社畜のネクタイと環境問題

トラノモンのサカモトの家に戻ると、私は勇者の格好に戻った。


それまでのスーツに比べて、遥かに安心できる。

社畜の話をサカモトに聞かされて、私は悟ったのだ。


スーツは胸を無防備にするだけでなく、首をも無防備にする。

ネクタイというのは、見た目こそ変形されているが首輪とリードであり、しかも場合によっては絞殺すら可能にする、人々を縛り付けるための道具だ。


企業に属する人間がネクタイを着けるのは、組織の上層部に忠誠心を示すためであると同時に、

いざ組織の構成員が反抗的姿勢を見せた際には、上層部が実際に反抗者を締め上げるための手段として使える、という上層部の都合もあるのに違いない。


ネクタイは、社畜、構成員を家畜として扱うことの、象徴なのだ。


そんな話をサカモトにしたら、


「フンドシイッチョさんって、結構文学的なんですね」


と言われた。


「でも、それは当てはまりませんよ。今は確かにサラリーマンはネクタイとスーツを着けていますが、夏はクールビズと言って、ネクタイもスーツも外すんです」

「それは、また好都合だな。夏は暑い。暑さのせいにして、冬よりもさらに無防備にする。

ネクタイを外せるのは、換言すればいつでも潰せるという余裕の証だろう」

「その発想はありませんでした。表向きは、全ては環境問題解決のためということになっております」

「環境問題?」


鋼鉄の世界のような異常な環境に住んでいるのに、環境が問題になるとは思えなかった。


サカモトは説明する。


「ええ。魔法使いが魔力を使うときには、その分だけMP、言うなれば自らの余力を削るでしょう?

あれと似たようなことで、我々が科学を使うときは、この地球の余力を削っているのです」

「地球全体が使えるのなら、人類にとっては、ほぼ無尽蔵の余力があることになるな。それが科学の強さだとすれば、何も困ることもあるまいに」

「活動規模がブランクープと同じ程度だったらそうかもしれません。が、トーキョー一つとっても、人口は、都市一つで既にブランクープ並み。

それに、ご存知のように巨大な超高層ビルだの電車だの、大量の自動車だの。消費余力は桁違いなんですよ」

「それで、余力不足になろうとしているのか?」

「それは問題のほんの一端です。例えば、スマートフォンを触っていて熱く感じたことはありませんか?」

「確かに時々あるが、それがどうだというのだ?」

「科学の力は、多かれ少なかれ、そのように熱を生み出します。しかも熱を生み出すだけでなく、自動車などは熱を逃がさない物質を吐き出します。

その物質は通常の濃度では、直接的に人体に被害を及ぼすことはありませんが、熱が生み出され、逃がされないというダブルパンチを受けると…」

「まさか、地球全体が灼熱地獄になりつつあるとでもいうのか?」

「そうなんですよ。そうしたことや、需要増加による過度の伐採、砂漠の拡大、巨大な荒らしなどの異常気象…そう言った、平和な地球環境を脅かす問題が、環境問題なんです」

「それがこの世界の人間が科学の力を使いすぎた結果なら、自業自得ではないか?」

「ある意味そうですが、少なくとも昔は、科学の力にこんな代償があるとは知られていませんでしたし、

結局科学を応用した結果生じた副作用は、科学の力で解決していくしかないのです」


毒を以て毒を制す、という訳だ。


「やはり、シノビどもは科学を制御しきれていないのだな?技術を制するのではなく、技術に溺れ、技術に制されている。

だから無視が社交スキルになったり、得体の知れない鉄ミミズに押し込められて平気でいたり、ネクタイなどというリードを首に巻き付けて平気でいたりできるのだろう?」

「私達は、これでも技術を制御しているつもりなんですけどね」

「しかし、一ついいことが分かった。『鋼鉄の怪物集団』も、きっと技術に溺れているはずだ。それなら、そこに突破口もあろう」


それよりも、私はテレビ出演のことが気になった。


「ところで、テレビでは何を話せばいいのだ?」

「アナウンサーと呼ばれる女性がいます。女性に聞かれたことに、適当に答えていれば何とかなりますよ。

ギャラもちゃんと出ますし」

「ギャラ?」

「お金ですよ。報酬がもらえるんです」


話しているだけで報酬がもらえる職業があるとは、お気楽なものに見える。

が、ブランクープの宮廷貴族もこれに近いところがあるので、知っている。

きっと、この手の職業は、ご多分に漏れず互いに足を引っ張り合うための陰謀だの権謀術数だのが渦巻いていて、互いに怯え合いながら成り立っているはずである。


社畜と呼ばれるサラリーマン、命がけの冒険に出る勇者などの方が、分かりやすいリスクはあるが、あの手の職業よりはまだマシだ。

それを普段からやっているサカモトは、相当に老獪な策士に違いない。


「サカモト、まさか私は見世物にされているんじゃなかろうな」

「いえいえ、大切なお客様ですよ。だから、テレビはニホン全国に紹介しようとしているのです」

「タイホだのエンジョーだのがあったお陰で、その言葉は鵜呑みにはできぬな」

「あれは何もわからなかった頃のお話です。今はもう大丈夫ですよ」


たった一日でそこまで豹変するとは思えない。

サカモトの顔を見たら、例の曖昧な笑顔を浮かべているが、目は笑ってはいなかった。


嫌な予感がした。

次回は、いよいよテレビ出演に入る予定です。

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