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SANYのロビーとVR

鉄ミミズに乗るのは嫌だったが、歩いても間に合わぬ時間だと言いくるめられたので、

嫌々ながらシンバシから緑の筋が通った鉄ミミズに乗ってシナガワに向かった。

これでもトラノモンからシンバシまでは、何とかサカモトを歩かせたのだ。


SANYの塔は、シナガワ駅の北東側を少し歩いたところに建てられていた。ガラス張りで、

この世界にはよく見られる鋼鉄の塔だったが、それでも先端技術を扱っていそうな印象は見受けられた。


サカモトとともに建物に入ると、中は大きな広場のようなところで、いくつか奇妙なものが置かれていた。


中でも気になったのが、大きな画面の脇に置かれた黒い箱であった。


子供が黒い箱から伸びている職種のようなものに触れて、画面と睨めっこしていた。

これは、人間を蝕む鋼鉄の寄生虫だろうか。


「サカモト、あれは?」

「ゲームと呼ばれるものですね」

「ゲームと言えば、ブランクープにおけるチェスのようなものかね?」

「まあ、少し似てはいますね。結局目的は敵を倒すこと、敵の王の首を取ることですから」


画面に映されていたのは、この世界ともブランクープとも異なる、湿って暑苦しそうな世界であった。

中を人が動いており、ブランクープの魔物に少し似た見た目の怪物を人がなぎ倒していた。


「あの触手は何だね?」

「コントローラーと呼ばれるもので、操作することでプレイヤーがゲームを進めることができます」

「異なる世界に直接つながっているのか?」

「いえ、あれはソフトウェアの力で生み出された人工的な疑似世界です」


そう説明するサカモトの顔には、少しかげりがあった。


「ソフトウェアとは?」

「この円盤の中に入っている一連の呪文ですね」


言いながら、鋼鉄の箱の脇に置かれていた円盤を指さした。


「これも、科学の力か?」

「ええ」


世界を創造することは、神にしかできない。

とすると、ニホン、少なくともSANYは、画面の中に限定されているとはいえ、それに迫る能力を持っているということか。


「しかし、あれはまだ序の口ですよ。ちょっとこれを被ってみてくださいな」


サカモトは、妙に目の部分が分厚い目隠しのようなものを私に渡してきた。目隠しにしては厚すぎるし、重すぎる。

これは、目に食らいつくタイプの鋼鉄の怪物だろうか?


「気味が悪いな。何故そんな目隠しなど?」

「騙されたと思って試してくださいな」


私は嫌々ながら被ってみた。すると。


眼だけが異世界に飛ばされたのだ。

またもやブランクープでもない、見慣れぬ湖のほとり。


「おい、ここはどこだ?」


姿の見えないサカモトの声が届いた。


「紛れもなくシナガワのSANYですよ」

「しかし、…」

「ええ。視野に入っているのは、ゲームの世界のはずです」

「眼だけを異世界に飛ばすとは…」

「眼だけではありませんよ。歩く動作をしてみてください。『歩いた』という情報も伝えられます」


私は歩いてみた。すると、確かに私は進んだ。


そして、スライムが現れたのだ。

サカモトに厳命され、あの時以来聖剣をサカモトの家に残して出かけている私には、残された道は殴ることだけだった。

いくらこちらの世界の情報を伝えられるとしても、そもそも今私がいる世界では、魔法は使えないのだから、

情報にすらならない可能性が高かったし、試すリスクを冒したくもなかった。


私は勇者だ。スライムぐらいならそれでも倒せよう。


そう思って、私はスライムを殴った。


が、スライムは倒せなかった。そして、スライムが私を攻撃して、世界が消えた。


…と思ったら、文字が浮かび上がった。


「GAME OVER」


私は戸惑った。


スライムぐらいなら倒せない訳がないから、というだけではない。


仮に痛みも感じる間もなく死んだのだとしても、「GAME OVER」という文字が死者の国に浮かんでいるなんて話は聞いたことがない。

それ以外何もない真っ黒な空間。何もない分だけ、この鋼鉄の世界よりもいっそう恐ろしい。

こんな入るのも恐ろしい地獄までも作り出せたとは。


それとも、この目隠しは、世界へ移転させる振りをして、私の視界と体力を奪う寄生虫だったのか?


「どういうことなんだ?」


サカモトの声が聞こえた。


「残念ながら、体力などの情報は送ることができず、ゲーム内の設定どおりになります。

いくらスライムと言えども、村人と変わらぬ初期体力に設定されていた今のあなたには、素手であれを倒すのは無理ですよ」


少なくとも、死んだのではないらしいと思って、目隠しだか寄生虫だか分からない物体を外したら、そこは元のニホンだった。

私は少し焦っていたので、ひとまずはほっとした。


「これは恐ろしいな。目と体の動きを異世界に飛ばす技術とは」

「厳密には、これも異世界ではなく、疑似世界なんですよ。Virtual Reality、VR、あるいは仮想現実などと呼ばれております」

「しかし、これだけのことができるのなら、あと一歩で、実際の異世界であるブランクープに『鋼鉄の怪物集団』を送り込むこともできるのではないか?」

「えっと…」


サカモトが何故か返答に窮していると、ハマナカが現れた。

あのジュージュツで私を倒したシノビだから、私は一目で分かった。


「サカモトさんと、フンドシイッチョさんですね?お待ちしておりました。これを首にかけてください」


渡されたのは、「来客用通行証」と書かれたカードだった。

世界の謎、見えそうで見えないんですね。

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