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スーツを着た男女

スーツを着た男女はまた何か、別の話をしているようだった。


「…それで、カチョーはどうされたいんです?」

「今回ばかりは譲れない。ブチョーに土下座してでも押し通すよ」

「例の案件は、処理しなければカイシャ全体に響きますからね」


なるほど。

その「カイシャ」とやらが、何やらブランクープを襲った「鋼鉄の怪物集団」と関係があるらしい。

「例の案件」とは、当然ブランクープ侵略のことだろう。

そして、ブチョーとやらが恐らくそのボスなのだろう。

カチョーとやらも、それなりに高い地位にあるらしい。


引き続き耳を傾ける。


「例の案件がカブヌシに知られたら、カブカ暴落につながりかねないからな」

「まあ、悪いのは我々ヒシトモジューコーではなくて、ミスをしたシタウケなんですけどね」

「にしても尻拭いしなければ我々もダメージを受ける。全く、トカゲのしっぽ切りがしづらくなってきているからな」


分からない言葉が多すぎる。

が、カブヌシはカイシャを陰で操る存在で、カイシャにカブカなる資源を提供しているらしい。

カイシャはそのカブカがなければ組織として成立しないということか。


で、シタウケとは何であろうか…?

そうだ、こんな時のスマホの「神託」だったな。


私はスマホで調べた。シタウケとは、「下請け」と書いて、カイシャの作業を一方的に頼まれる側らしい。

「下請けがミスをした」とは、私にとっては朗報だ。

つまり、「鋼鉄の怪物集団」には何らかの弱点があり、倒せるということなのだから。


私のところにもいつの間にか置かれていたカクを啜りつつ、そう考えていると、


「で、フンドシイッチョさんの出身地はどこです?…って、聞いてましたか?」


と編集長が話しかけてきた。


「ブランクープだ」

「アメリカではないんですか?」


そうサカモトが割り込んできた。


「アメリカ?」

「お話になっていた英語は、アメリカ訛りでしたから」


アメリカという国は、ブランクープと何か共通点があるらしい。後でスマホで調べておくか。


「ブランクープだ。紛れもなくね」

「そうですか。ちなみに、私はオオサカ出身です。それで、時々関西弁が混じることもありますが、よろしくお願いします」

「オオサカ?」

「そうです。ええとこですわ」

「どんなところなんだ」

「ニホンの第二の都市です。西にあるんですわ」

「なるほど」


しかしミヤコでなければ要もあるまい。それよりも、さっきの男女の話に戻りたいのだが…。


「少し一人で静かに飲みたいのだが、大丈夫か?」


サカモトは、何かを察したようだ。


「居酒屋は話してなんぼの場ですよ。お話ししたいお方がいらっしゃれば案内できますが」

「隣の席の男女はどうだ?」

「分かりました」


そういうと、サカモトは、隣の席の男性に声をかける。


「ご無沙汰しております。マキタさん」

「ああ、サカモト君か。どうだい、最近は?」

「ボチボチですね」

「今日は私、こちらの方たちとも一緒なんです。どうです、よかったらもう一軒、みんなで行きませんか?」

「いいですね。あの方は外人さん?」


マキタと呼ばれた男性は、私を指して言った。私は答えた。


「フンドシイッチョだ。よろしく」

「…ヒシトモジューコーのマキタと申します」


言いながら、男性は私に紙を渡してきた。見ると、


「株式会社菱友重工 開発部設計課長 牧田**」


と書かれていた。どうやら、菱友重工と書くらしい。

開発部設計課長なら、きっと鋼鉄の怪物の設計にも精通しているはずだ。何とかして聞き出したいと思った。


すると、女性が立ち上がった。


「私は、今日はこれで…」


マキタが止めに入る。


「いいじゃないの、ユキノちゃん。付き合いなよ」

「いえ…」


マキタは女性になれなれしく肩を回した。


「いいじゃないの。もう一軒だけだからさ。サカモトさんもお困りじゃないか」

「そういいましても、明日もありますから…」


女性は明らかに嫌がっていた。東の国の曖昧な笑顔を無理に作ろうとしていたが、その顔は引きつっていた。

私は勇者だ。騎士道精神に反することは認める訳にはいかぬ。そこで、マキタに声をかけた。


「おやめなさい。私の前で女性を傷付けることは、許す訳にはいかないのだ」

「えっと、フンドシイッチョさんでしたっけ?あんた、酔ってません?」


マキタは女性から手を放し、異様なほど顔を近づけてきた。

酔っ払っているのはお前だろ、と思ったが、


「私はブランクープの勇者だ。勇者として、女性に強要する男は許せぬな」

「やっぱ酔ってるわな、あんた。あーあ、こっちは興が醒めちまった。やめだやめ、いいよ、君帰って。私も今日は帰ります。サカモトさん、すみませんね。また今度にでも」


サカモトは戸惑いつつ、


「ええ」


と曖昧な笑顔で言った。


マキタは不機嫌そうな顔のまま、そそくさと逃げるように去っていった。

一万円札を無造作にテーブルに置いたまま。

恐らくは、動揺して二千円札か、高くてもせいぜい五千円札と間違えたのだろう。

二千円ですら、この酒場で使うにはそれなりの量飲まなくてはならないからだ。

しかしツッコむのは野暮だ。何も見なかったことにした。


一方の女性は、私をまじまじと見つめていた。


「無理はせんでいいのだぞ。えっと…」

「スズキです」

「スズキさん」

「ありがとうございました。それよりも、あなた、どこかで見たような…」

「当然のことをしたまでだ。私は世界に名を知られたブランクープの勇者、フンドシイッチョだからな」


女性、スズキはやはり私をじっと見つめていた。何かを思い出そうとしているらしい。

そういえば、私も彼女がカチョーからユキノと呼ばれていたことを、やっと思い出した。

スズキは偽名か。

まあ、女性が初対面の男性を警戒してのことだ、大目に見るとしよう。


突如、女性が驚いた顔になって、


「あ!あなたはアキハバラに今日現れた、あの勇者様ですね!」


と言った。


「何故それを?」

「エンジョーして、多くの人が知ってますよ」


エンジョー?何らかのスパイ網を使って情報が拡散されたということか?

スズキは畳みかけた。


「あなたとなら、もう一軒行っても構いませんよ」


スズキの顔をよく見たら、期待の込められたその顔は、東の国らしい黒髪と童顔だった。

タイプではないが、なかなか可愛らしい顔立ちであった。

悪くはない。


「私は構わない。サカモトは?」

「いいですよ。編集長もよろしいですね」

「ええ」


決まりだ。会計を済ませて、4人でもう一軒行くこととなった。

ちなみに本当は大阪は第三の都市です。ただ、大阪人は横浜を東京とくっつけたかがるので、その辺はサカモトを大目に見てあげてください。

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