地下を走る鉄ミミズ
鉄ミミズは、恐ろしい速さで、恐ろしい音を立てて地下を進んでいく。
ホームで聞いたのとはまた違うが、やはりどこかぎこちない音声が流れた。
「次は、シンバシ、シンバシ、お出口は左側です。トエイアサクサ線、JR線と、ゆりかもめ線は、お乗り換えです。The next station is, シンバシ. The doors on the left side will open. Please change here for the Toei-Asakusa line, the JR line, and the Yurikamome line.」
親切なことに、ブランクープの言葉にも対応していた。
が、シンバシだけ完全にニホンのイントネーションで発音されていたので、私は違和感を覚えた。
私はやはり鉄ミミズの消化管内にいるのだろう。
内部には、布っぽい材質でできたひだ状の模様が並んでいた。
驚いたのは、人々が平気でそのひだに座っていたことだ。
「あんなふうに座っていて、溶かされないのかね?」
「ご心配無用です。電車はデンキを食うので、人は食いません」
「デンキ?」
「チカテツ、私の家の明かり、様々なものを可能にしてくれる存在ですよ」
どうやら、科学の中でも、デンキが最も魔術に近い力を発揮しているらしい。
そんなことを言っているうちに、今度は音質の悪い男性の声が流れた。
「えー、間もなく、シンバシ、シンバシ、お出口は左側です」
サカモトが言った。
「あれは車掌だね。機械音声を流す人と、自分の声でアナウンスする人、両方組み合わせる人なんかがいるんだ」
「車掌とは?」
「電車内の声を流せる人ですね、簡単に言ってしまえば」
鉄ミミズの発声まで制御しているのか。
一匹一匹が魔王よりも強いぐらいなのに、それをいともたやすく制御できる人間が多くいるらしい。
ニホン、やはり恐るべし。
しかし、それにしても、車掌はなぜ声を使い分けたのだろうか。
聞き取りづらい声とぎこちないがはっきりした声なら、ぎこちない声の方がまだマシだ。
シノビだから、その程度の差異も特に問題に感じないということなのだろうか?
…などとと思っているうちに、またホームに着いて、鉄ミミズは止まり、脇腹の口が開いた。
サカモトは言った。
「降りますよ」
そして口から出て行った。
私もミミズの腹の中はごめんだったので、降りることとした。
出たら何のことはなかった。どうやらここから地上に戻れるらしい。
だが、奇妙なことに、出るときもまたカイサツを相手にしなければならなかった。
しかも、今度は、カイサツは食った券を吐き出さなかったのだ。
「なるほど、我々は花にとってのミツバチという訳だ。動かぬ門番たるカイサツの交尾の手助けをしているのだな?」
「いえいえ、カイサツはそもそも交尾なんかしません。生物じゃないので」
鋼鉄の怪物は、交尾しない。
また一つ情報が得られた。
まあ、ブランクープを襲った怪物集団に魂がなかった以上、生命ではないというのも納得できない話ではない。
しかし、それならどうやってこれらの機械は産まれているのかは、不明だった。
そのあとは特に何もなかった。
が、地上に出たら、夜なのに世界は恐ろしく明るかった。
新橋にたどり着きました。
いよいよこれから酒場に向かいます。





