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カイサツとチカテツ

チカテツ・トラノモン駅はダンジョンだった。


地下に入ると、ところどころに怪しげな鉄の箱が置いてある。鋼鉄の世界らしい、鋼鉄の宝箱だろう。


きっとモンスターもいたに違いない。

…が、鉄ミミズを移動に使うほどのニホンのシノビは、既にこのダンジョンを完全に探索してしまったのだろう。

いるのはスーツを着た人ばかりだった。


「しかし、チカテツの駅とは、迷宮なのだな」

「トラノモンはギンザ線しか走っていないので、まだまだ単純な方ですよ。

ヒビヤ駅・トーキョー駅・オオテマチ駅を中心とする複数の駅の集合体などは、これよりもはるかに巨大で複雑です」

「にしても、チカテツのダンジョンは、底が浅いようだな。地下10階ぐらいは当然あるのだと思っていたが」

「そんなに深く潜っても、チカテツの利用者にとっては不便ですから…」


そんなことを言っていると、何やら人々が画面の前に並んでいるのが見えた。


「あれは?」

「券売機です。チカテツに乗るには、券かカードが必要なのですよ」

「鋼鉄の怪物に券を売らせているのか。シノビどもは、よくもまあ鋼鉄の怪物どもを飼い慣らしたものだ。

このスマホにしろ鉄ミミズにしろ、雑魚一匹で魔王よりも強いというのに…」

「こんなのほんの序の口ですよ」

「そういえば何やら飲み物も鉄の箱が売っていたものな」

「自動販売機ですね」


そうこう言っているうちに、私は券売機の前に立っていた。

サカモトがこうこうこうして、ここにお金を入れて、などと丁寧に指導してくれたので、それに従っていると、

最後に小さな紙切れが出てきた。


どうやら、券売機とは、お金を食って紙切れを排出する怪物らしい。

呆れたものだ。ニホンのチカテツでは、怪物の糞を券として用いているのか。


ちなみに、サカモトはカードとお金を入れたが、そうするとカードだけが出てきた。

カードはいったい何なのだろうか?


「簡単に言うと、いくら券売機に入れた、というお金の『情報』が入っているのがカードです。

カードには情報が入っているので、その情報を使ってお金を支払ったのと同じように行動することが可能となります。

ただし、払ったという情報はどんどん減っていくので、定期的に券売機にお金を入れる必要があります」

「簡単に言ったとしてもややこしいな。

紙切れですらついていくのが精いっぱいだったのに、今度は情報がお金として振舞うという訳か。

しかし、カード一枚で済むのなら、何故紙切れも必要なのだ?」

「カードの中の情報は国が正式に認めたお金ではなく、限定的な互換性しか持たないからです」


頭が痛くなりそうだ。要は、贋金が平然と公式の金と対応付けられているということらしい。


「これも伝統として1500年前からあったのか?」

「いえいえ、これらは割と最近できたものですよ」

「すると、科学の力という訳か」

「まあ、そうなりますね」


科学は贋金を本物に変える力すらあるらしい。

錬金術にも魔術にも、当然そんなことはできない。誠に恐ろしいことである。


券を受け取ると、カイサツと呼ばれる怪しげな門番怪物に向かった。

券を食わせるか、カードで怪物を撫でるかしないと、この怪物は通してはくれないらしい。

どう見てもスライムほどの攻撃力すらなさそうだが、そこはやはり鋼鉄の怪物で、きっと恐ろしい攻撃力を隠し持っているのだろう。

私は飼い慣らされている怪物をわざわざ刺激する理由もないので、おとなしく券を食わせてやり、カイサツを通った。

しかしどうしても合点がいかないのは、食わせた券が、穴が開いただけでほぼそのままの形で出てくることだった。


「これはどういうことかね?券には、カイサツの卵でも産み付けられているのか?」

「いえいえ、これは、正しくカイサツを通ったという刻印のようなものです。

昔は人がチョキンと切っていたので、今でもこの券は切符とも言われてるんですよ」

「つまり、『()られた護()』ということか。これを身に着けていれば、鉄ミミズに食われずに済むという訳だな?」


サカモトはしばし沈黙したが、やがて、


「…まあ、そんなところです」


と答えた。

きっと当たらずとも遠からず、といったところだろうか。


こうして話しているうちに、私達は、ダンジョンの最深部、ホームと呼ばれるところにたどり着いた。


「ここでそのまましばらく待っていると、電車がやってくるはずです」


サカモトがそういい終わらないうちに、天から、少しだけぎこちない音声が流れた。


「間もなく、2番線に、アサクサ行きが参ります。危ないですから、白線の内側までお下がりください」


飼い慣らしたとはいえ、自殺者処理を行うチカテツは、ニホンのシノビにとってもやはり危険だということらしい。


チカテツはホームに入ってきた。そのまま私達を丸呑みしにかかるのかと思ったが、違った。

驚いたことに、私達には指一本触れずに停止し、正面の口ではなく、脇腹を開けたのだ。


しかも、その数は無数にあった。これで吸い込むつもりかとも思ったが、何も起こらず。

起こったのは人の出入りだった。


口の一つで人が出終わると、サカモトは迷わず、脇腹の口の一つに入った。


「フンドシイッチョさんもお乗りください」


私は、乗ればきっと鉄ムカデに消化されてしまうに違いないと思ったが、思い切って乗り込んだ。

ええい、ままよ、と。


再びあのぎこちない音声が流れた。


「発車します。閉まるドアにご注意ください」


脇腹の口は閉じた。どう見てもそれはドアではなく、触れたら人を切り裂きそうな鋼鉄の歯、否、刃だった。

私は恐ろしく思ったが、勇者のプライドにかけて、必死に平静を装うこととした。


サカモトはあの何とも言えない笑みを浮かべて、私を見つめていた。

乗り込みました。

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