第七話
未耶が名字を貰った日から1週間たった。
「今日のハンデはどうするのかしら?」
「時間跳躍はなしでお願いします」
「了解。じゃあ始めましょう」
そう美里姉さんが言うと、スタート合図役の春日がコインを投げた。
3・2・1……
地面に着いた瞬間にバックステップで移動する。もといた場所を抉りとるような勢いで斬撃が通過した。
一瞬遅ければ確実に上半身と下半身がお別れしていた。
「あらあら。反応早くなったわねぇ」
「おかげさまですよ」
美里姉さんがかまえているのは2メートル以上ある太刀だ。
当然身長よりはるかにでかい。
そんな長いものどうやって扱ってるのかはわからない。曰く『乙女の秘密』だそうだ。
乙女って歳でもないだろうに……。
瞬間、美里姉さんの姿が消える。
勘だけを頼りに大きく回避。やばい全く太刀筋が見えない。
「なっちゃ〜ん? なんか失礼なこと考えてなかったかな〜?」
「いえ、全く」
冷や汗を流しながら答える。うちの女性陣はなんか暴力的じゃあるまいか?
そんなことを思いながら、符を取り出し、和傘を出す。
「『真柄斬り』」
そう言葉を発すると、傘が日本刀に変わる。二尺三寸三分、反りが四分強、三本杉刃紋の刀だ。
変えると同時に接敵。上段から振り下ろされた太刀の腹を蹴って軌道を変え、回し蹴りを放つ。
「…チッ」
が、蹴はかすりもせず、まるで何年も前から知ってましたってくらい当然のように回避される。
「成長しましたね。嬉しいわ」
「未耶の手前ですから、少しはいいとこ見せないと」
そう言い終わると美里は五メートルほどの高さまで駆け上がっていった。
―能力『跳躍』
虚空跳躍によって道無き道、地面のないところでさえ悠々と歩ける。実際身一つで地上三千メートルから落とされたとしても、何一つ怪我することなく生還する。物理の法則なんてくそ食らえと言わんばかりの能力だ。
上をとられれば一方的に攻撃される。
そうなれば、ジリ貧だ。
即座に結界を足場においすがる。
が、既に攻撃手段を整えられていた。美里の後ろには数百の白い影が蠢いている。
「美里姉さんご自慢の管狐か」
「そうよ。戦いで見せるのは初めてかしら。まぁそれだけなっちゃんのレベルが上がったってことよね」
「そりゃどうもッ!」
言い終わった瞬間、管狐達は突進を始めた。
本来管狐は諜報等に使われることが多く、下の上程の力しかない。だが、数百ともなれば話は別だ。圧倒的な数の暴力によって相手を蹂躙する。
ガトリングのように突っ込んでくるそれを避けるが、ここは空中。移動には先の予測→結界をはる→避けるの3工程必要になる。
よって回避は次第に追い付かなくなる。
「終わりよ」
「なッ!」
足下の結界を壊され、体勢が崩れた棗を見たとき美里は初めて隙を見せた。
棗の体は明らかに不自然な体勢で止まった。
「なんてね。奥伝『疎雨』」
棗が放ったのは美里の周囲を覆う360度の超斬撃。逃げ場はない。
――はずだった。
「やるわね。今日はなっちゃんに感心させられっぱなしだわ。管狐も半分もっていかれたし」
とっさに首をまわし視界の端に美里をとらえた瞬間。
棗の首はとんだ。
「んーあれは決まったと思ったんですけどねぇ」
「実際ギリギリだったわよ? 管狐半分ももっていかれるとは思わなかったし。ああ私の可愛い管狐達かわいそうだわ」
「いや、俺は首とばされたんですが……っと」
と訓練終わりに話していると、今までじっとしていた未耶が飛び付いてきた。しっかりと抱き留めてやると、首の辺りをペタペタと触っている。
「……首、切れた…くっついてる?」
「あぁ、あの結界の中ならお互いが同意すれば、どんな傷も現実に影響しないんだ。コンピューターシュミレーションみたいなものだと思ってくれればいいよ」
「兄〜さ〜ん!!」
声がした方を向くと未耶と同じように、春日が飛び込んできていた。
「ぐはっ!春日ちょっとおm「ん〜?何かな兄さん」いやー羽根みたいに軽いなぁ。軽いからその刃物はしまって下さい」
手が空いてたら土下座してた。やっぱりうちの女性陣は暴力的だ。
「とゆうか、春日は大丈夫だって知ってんのに何で飛び付いてくんだよ」
「未耶ちゃんがやってたから、つい」
「ついじゃねぇだろ」
「テヘッ♪」
「……いやテヘッ♪とかやったら可愛くてもイラッとくるからな?」
あっ固まった。
まぁ放っておけばそのうち戻ってくるだろう。
「退魔士同士の戦闘はさっきみたいな感じだ。また妖怪相手だったり、一対多だったりすると変わってくるんだが基本は同じだから。明日から肉体強化した状態で戦い方を教える。いいね?」
「……はい」
「妖怪相手はまた中位ぐらいのやつの仕事が入った時に教えるから」
ちゃんと見ていたものを吸収してるみたいだ。
と、その時美里姉さんがパンパンと手を叩いた。
「はい。じゃあ今日の鍛練は終わりよ。各自ちゃんと課題を消化しておきましょうね」
そういうことになった。
本文にでてくる、管狐等は現実とは全く異なる場合があるので注意してください。
それでは、また次話も読んでいただけると嬉しいです。