第六話
「兄さーん。未耶ちゃんの戸籍見つかんないから適当に偽造していい?」
「その辺は任せる」
「はいはい〜」
春日が結構なこと言ってるが、まぁいい。変にツッコミいれて拗ねられても困るし。
とりあえず、修行のほうだ。
始めてからは四時間強。
だがすでに、未耶は魔力を精製できている。
はっきり言って異常なまでの早さだ。
もしかして、元々半ば開花しかけてたのか?
一瞬考えてすぐさまそれを否定する。
さすがにそうなら俺でも気付けるはずだから。
とにかくすごい才能だ。
『ただいまー』
そんなことを考えていると、出かけていた二人が帰宅した。
「美里姉さん」
「あら、どうしたのなっちゃん?」
「なっちゃん言わんでください」
軽くうなだれる。
真剣な話以外はこう呼ばれる。正直なっちゃんは勘弁してほしい(柄でもないし)のだが、何度言っても直してくれない。
まぁ美里姉さんにかかれば秋人も秋ちゃんだし、春日も春ちゃんなので最近はあきらめ気味だ。
未耶もみっちゃん辺りになるんじゃないか?
「妖怪避けの結界がいらなくなりました」
「あらあら、ずいぶん早いのねぇ」
「あんまり驚かないんですね」
「いずれできるようになることよ。早いか遅いかの違いだけ。
それに、才能豊富なのは嬉しいことだわ」
「まぁ、そうですけど」
「未耶。少しこちらに来なさい」
修行中の未耶が反応してこちらを見る。
頷くと、トテトテという擬音が似合う小走りでやってくる。
「……」
「あなたは今日から諏訪家の名字を名乗りなさい。
諏訪未耶。それが今日からのあなたの名です」
「……諏訪…未耶…?」
「そうです。諏訪家の名に恥じぬよう精進なさい」
「……はい!」
小さく名前をつぶやいた後、また小さくだけど、しっかりと意志のこもった返事をした。
「よし! じゃあ夜はみっちゃんの歓迎会やりましょう! どのみちやるつもりだったから、材料はたくさんあるわ。」
そういう事になった。
「春日、肉ばっかり食べてないで他のものも食べてください。兄さんもですよ。
……ああっ! 姉さんそんな一気に入れたら鍋の温度が下がってしまいます!」
鍋奉行が降臨していた。
「なぁ春日。あれはどうしたんだ?」
「なんか、兄さん達が修行してる間ずっと鍋のこと調べてたみたい。秋人も家族が増えて嬉しかったんだね」
「げっそれじゃあこれから鍋するたびにアレか?勘弁してほしいな。嬉しいのは同感だが」
「私も嬉しいよ」
諏訪家はかなり新しい退魔家で、なかなか新しい人は来ない。
勢力の大きいところにとられてしまうのだ。
その分、うちは精鋭なのだが、精鋭とはいっても、4人ではやはり少ない。
1人多くなれば大助かりだ。
もちろん、純粋に家族が増えるっていうのも嬉しい。妹だしな。
そんな話をしていれば、クイクイっと袖をひっぱられる。
「どうした未耶?」
「……」
そんな無言で茶碗をつきださないでくれ。
「あのな、未耶。おかわりの3杯目はそっと出すのが礼儀だぞ?」
「いやいや、3杯どころか片手じゃ足りないし」
すかさず春日からツッコミがはいる。
実に7杯目だ。決してちっちゃい茶碗じゃない。と言うかうちの茶碗は小丼くらいある。みんなそのぐらい食べるから。
その小さいからだのどこに入るんだ?あれか?俺の胃袋は宇宙だとか言いたげなのか?
と、いいつつもごはんをついできてやり、未耶に渡す。
「ほら、あじわってくえよ?」
「…………………………ありがと」
長い沈黙の後、下を俯き少し頬を染めながらつぶやいた。
「かっかわいい〜〜! 未耶ちゃん君はなんてかわいいんだ! は〜いよくお礼言えたね〜お姉さんがよしよししてあげよう!」
といいながら、頬擦りする春日。
「あら春ちゃんそれはよしよしではないわよ」
とやんわり言い、美里姉さんもなぜか頬擦りを始める。
なんだこのカオス空間は。
対処しきれん。
「あれ? なあに兄さん、そんなにこっち見つめて。もしかしてまざりたい?仕方ないなぁ。おいで、未耶ちゃんのお肌スベスベで気持ちいいよ」
それは是非に……っていくか!!
ここは秋人にヘルプを……
「……」
なにやら鍋を見つめてブツブツと呟いている。
ヤバイ、アレは危険だ。アレをこちらに投入したら、更にカオスが深まる気がする。混ぜるな危険、だ。
「ほらほら〜」
「そんなに引っ張るな! 例え家族といっても、俺が未耶にやるのは犯罪だろ!」
「まあまあ、堅いこと言わずに〜」
まぁなんだ、未耶の肌はスベスベだった、とだけ記しておこう。