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第二十二話

新年明けましておめでとうございます。

月夜は手刀で空気を切る。

その延長線上、美里に向かって、超重力が迫る。

その近付いてくる破壊の塊を、空間跳躍によって避ける。


「相変わらず嫌な能力ね」

「逃げるだけのお前には、言われたくないな」


あらあら、怖いわぁ。と、余裕の表情を見せる。

その間にも、飛んでくる攻撃を空間跳躍をフルに使って避けていく。

おそらくは既に相手の能力の中なのだろう、美里には通常の三倍近い重力がかかっている。

「本当に嫌ね。なんだか太ってしまった気がしてしまうもの」


そんなことで憂鬱そうな顔を見せる。

「やめてもらえないかしらね。特位二位の満月月夜さん?」

「お前が死んだら考えてやらなくも無いな。特位四位の諏訪美里」

特位の最上位、日本のトップ同士の戦い。

特位一位は永久欠番なので、実質月夜は組織から日本で一番強いと認められた人物。

そんな人物に余裕の表情でついていく美里。

棗との模擬戦の時のような陰りは一切無い。


「どうした。その程度ならば興醒めだぞ」

「そうかしら?」

そう問うた美里の声は、月夜の頭上。

自由落下に勢いを任せ、突き刺すように太刀を構える。

重力場の穴。

自分の戦闘範囲において、重力場を敷き、自分に有利に戦闘を続ける月夜。

月夜に近づくにつれ、力を増す重力場の唯一の穴。

月夜の周り、完全なるゼロ距離の領域、及びその上空だ。


月夜は左足を後ろに下げ、それを無効化する。

地面に突き刺さった太刀を捨て、素手による格闘戦を挑む。

美里の目論みは、ゼロ距離での打ち合い、強力すぎる重力という能力が格闘戦の腕を落とさせている、そういう読みだ。


足を止めるために、リバーブローを打つ。

どんな武器もその威力を発揮できない距離。

腰のひねりを利用して、打ち込む。

ガードされ、飛んでくる肘をこめかみに擦らせながら首を捻ることで避け、更に顎に向けて左で掌底を放つ。



だが、そこまでだ。

顎を狙ったそれは、簡単に親指をとられ、人体としては聞こえてはいけない音と共に折れた。

反射的に美里が蹴を放ち、一歩の距離を空けてしまう。

その一歩は、月夜の間合いであった。

振り下ろした右足の踵が、左の鎖骨に決まり、その勢いのベクトルを横に向け放たれた後ろ回し蹴りを二の腕にモロに受け、さらに二ヶ所の骨が砕かれた。

左腕はこの戦闘中にはもう使い物にはならないだろう。


間合いは再びゼロ距離。

今度は、月夜が詰めたゼロ距離だ。

両手を添えるように美里の腹におく。


「暗頸」

美里の身体は風に舞い上がるビニール袋のように、吹き飛ばされた。


近場にあったビルの壁に突っ込み、大黒柱でも砕いたのだろうか、そのビルは、崩壊した。


「ゼロ距離ならば、自分が有利とでも思ったか? 見え見えの弱点を放っておくほど、愚かだと。

 ならば、改めておくといい。近接戦は最も得意とするところだ」

尊大に月夜が告げる。


一方ビルの中、美里は瓦礫が降り注ぐ中動いていなかった。

「ごめんね、白。痛かったでしょう」

暗頸によるダメージは殆ど無かった。

待機していた管狐たちが、自らクッション代わりになり、美里が衝撃を受けないようにしたのだ。

それによって、ビルが崩壊するような衝撃を受けても、美里は然したるダメージもなく、立っているのだった。

気にするな、と言うように流れる血を舐める白。

「ふふ、ありがとう、白。今日はもう少し、お世話になっちゃうわね」

置いてきてしまった太刀を思い出して、溜め息を吐く。

左腕は中々に無残な状況。

このままでは使い様が無い。

美里の意志を感じ取ったように、白がそっと左手に乗る。

その痛みにうっと息を漏らすが、歯を食い縛り耐える。

最近、平穏に慣れてしまっているのかもしれない。

そう思わせるには十分な痛みだ。

悪いことじゃない。

そう思う美里がいる。

それだけ、平穏な自分の居場所ができた、ということなのだから。

戦うことしかできなかった自分の、目指した場所だから。


――倒すのだ。

自らの居場所を脅かす者を


美里の中でスイッチは完全に切り替わった。

「換装『白亜の鎧』」

白が光の粒子に変わり、左腕を包み込んだ。










「死んだか」

いや、この程度で死ぬはずが無い。

自ら言葉に出しながら、心で否定する。

「あら、酷いこと言うのね」

空間跳躍で現れた美里が言った。

間合い上、重力三倍の範囲だ。

腕は砲身、弾は魔力。

突き出した形で動いていない左腕から、白き光条がほとばしった。


月夜の顔の横を通り外れたそれは、一瞬視界を奪うには十分だった。

さらに距離を縮めた美里を迎撃するように、重力をかけようと腕を振るう。

美里は、それを振らせないため、止めるように管狐を打ち出す。

中途半端な位置で止まってしまった腕に向かい、

「さっきのお返しですよ」

と、後ろ回し蹴りをくらわせた。


軽く飛ぶ月夜に、もう一度光条を叩きつけるように放つ。

辛くも態勢を立て直した月夜は、間一髪、袴に擦るだけで済ませ、前進を試みる。

だが、美里は許さず、管狐によって阻止する。

更に出そうとする重力を阻止し、今度は二発。

内一発が着弾。

後ろに飛ばされ、仰向けに倒れた。尚も美里の攻撃の手は弛まない。

倒れている月夜に、管狐を掃射。

月夜は腕だけで跳ね起き、難を逃れる。

先の着弾をカードしたときにできたのだろうか、額に大きな傷を負い、ダラダラととめどなく血が流れている。



左手は大砲、右手は機関銃。

大威力攻撃で発生する隙を消すこと、相手の動きを止めること。

右手が巧く二役をこなし、右手に足りない威力を左手が補う。

単純な戦術がピタリとはまっていた。


強く踏み込むことでゼロ距離まで持ち込み、腹に右手で射撃。

小さく振るった腕で美里にかかる重力を重くし、若干遅くなったところで一度離脱した。

そして、今度は止められない勢いで腕を振り下ろす。

先ほどまでの比にならないほどの重力場が辺りを襲い、物が自重により崩れていく。

しかし、その中に美里の姿は無く。

後ろに空間跳躍で移動した美里には擦りもしない。



――『六華』

六本の白い光条が、取り囲むように月夜に殺到した。



視界が白く染まる中、月夜は思った。


――負けるのか


長年の恨み。


――この私が


自らの立場故に、自由に動けないことを呪った。


――不様に醜態を晒し


ようやく迎えた好機。


――負けるのか


増援を阻止する策を練り。



――恨みを晴らせぬまま


万全に臨んだ戦い。


――負けるのか


負けるか。






「この私をなめるな!!」

あらんかぎりにあげられた叫び声は、まるで、獅子の咆哮。

上に掲げた右手の上に、バスケットボールほどの黒球が出現した。

いや、黒という表現は適切ではない。

闇。

そう呼ぶに相応しい、破壊の因子が出現したのだ。


『六華』の軌道はねじ曲げられ、闇に引き込まれる。

戦闘跡の瓦礫やひび割れたコンクリート、耐久性の下がったものから順に呑み込み、ねじ曲げ、消滅させていく。


闇の正体は、光さえもねじ曲げる超重力。

小さなブラックホールだ。


何故ブラックホールの一番近くにいる月夜は呑み込まれないのか。

愚問だ。

得てして能力とはそういうものだ。

既存の物理法則など何一つ通用せぬ舞台。

そんな世界を。


――美里が止めた











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