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第二十一話

「おそらく、あちらさんの狙いは美里姉さん。魔力研究室から出された依頼に脅しかけて戦滅を加えさせたんだろ」

満月家の当主ともなれば、勝手に他の退魔家に気軽に手を出したりはできない。

他の三大家から弾劾されるのは決まりきっているし、パワーバランスを崩すことにもなりかねない。

手を出すには理由が必要だ。

今回の依頼は渡りに船だったのだろう。

「こっちに大量の退魔士を送り込んだのは、依頼達成の意味もあるんだろうが、たぶん小夜たちが来てっから救援阻止の意味合いだろう」

もっとも救援など送る気はないのだが、

「ちょっと! じゃあ早く美里を助けに行かなきゃいけないじゃない!」

「まぁ落ち着け」

「これが落ち着ける状況!?」

「いいから。美里姉さんは助けはいらないって言ったんだろ?」

「でも」

「あの人がいらないっていったらいらないんだ。いるなら鈴をこっちに送ったりしないだろ。行くだけ無駄だし、むしろ邪魔になりかねない」

美里姉さんは能力の性質上、一人で戦った方が強い。

それだけ能力が特殊なのだ。


「大丈夫ですよ、鈴さん。美里姉さんは強いですから」

未だ不安そうにしている鈴に、秋人が言う。

その一言は、棗、春日、秋人の態度の全てを表していた。

美里をどうこうするのではなく、今家に降り掛かっている問題を解決する。

全てがその一点に掌握されている。

負けるわけが無い。根拠もなく、ただそう盲信させるだけの力が、美里にはある。

「美里姉さんは負けないもの」

と、春日も言う。

渋々ながら、鈴はそれに従うことにした。


「よし、じゃあ次だ」

棗が話を続ける。

「先ずは、魔力研究室を潰そうと思う。目標は研究施設の全壊と、研究資料の抹消。当然、研究員の頭ん中の記憶も抹消対象だ」

つまり、この研究を潰し、同時に他の研究機関が引き継ぐことを牽制する、ということだ。


「役割分担するぞ。

 まず、研究資料の抹消は春日に任せる」

「はいよ!」

春日が元気に答える。

「次に、施設を全壊させるんだが、これは小夜に頼みたい」

「私がやるのか?」

自分が何かするとは思ってなかった小夜が尋ねる。

「当たり前だろ? 忘れたか? 敗者は勝者の言うことを聞く約束」

それは、初めて模擬戦をしたときの約束。

それから恒例になった、いつもは簡単なパシリなどで終えてしまう約束。小夜はいつも通りなのが嬉しかった。

だから、

「わかった。任されよう」

問いには、とろけるような笑みで答えた。

若干、棗がときめいてしまったのは内緒だ。


「直接潜入するのは、俺と鈴。秋人には、小夜の準備が終わるまでの護衛を任せる。未耶は小夜についていけ」

「ちょっと待ってください」

秋人が発言する。

「なんだ?」

「兄さんは、さっきの戦いでの消費が大きいと思います。僕の方が、いいのでは?」秋人は、肋骨が折れたが、既に鬼の力で修復は終了している。

対して、棗は何度か電撃を受け、かつ、肌が焼け焦げるような怪我もしている。

さらに激しい戦闘だっただけに、失われた体力も多いだろう。

春日の力で傷は癒えているが、体力は戻らない。

「そうしたいのは山々なんだが、秋人は鈴と連携とったことないだろ?」

つい昨日、会ったばかりの二人だ。

連携などとれるはずが無い。

「別々に侵入すれば」

「いや、中には何があるかわからんし、それに」

鈴の方をちらりと見る。

「なによ」

棗は声を潜めて、秋人にだけ聞こえるように言った。

「あれは、たまに見境無くなるからな。止められる奴がいなきゃ」

そう言われて秋人の脳裏に浮かんだのは、昨日の鈴の大火球。

あれは、明らかに致死レベルの力だった。

それを思い出せば、秋人に鈴を止める自信はなかった。

「わかりました。そちらは兄さんに任せます」

「ああ、そっちも未耶と小夜を頼むな」

互いにすべきことを確認し、頷きあった。


そうしてやることが決まると五人は歩きだした。







「それで、満月の当主様がこんなところにどのような用事ですか?」

美里は慇懃無礼に問う。

「言うまでもなかろう」

満月の当主、満月月夜(つきや)は答える。

「まあ、どれのことかしら。これ見よがしに、近くに家を設けたことかしら? それとも、貴方以外の満月の特位番号持ちを蹴落としたことかしら? あらあら、色々ありすぎてどれのことだかわからないわ」

まったりと話す美里。

「その全てと言えばいいだろう」

月夜が怒りを顕にする。

「長い月日だったが、一秒たりともお前への恨みは、忘れることはなかった。この瞬間を待ちわびた」

月夜が無造作に腕を横にないだ。

とっさに飛び退くと数瞬前まで立っていたコンクリートが、妙な音を立ててへこんだ。

月夜の能力「重力」が発動したのだ。

縁石がひしゃげ、バキンっと音を立てて割れる。


そんなとき、美里に向かって走ってくる小さな白い影があった。

「あら、白。どうしたの?」

白は、棗に任された役目を果たした。

「ん〜こっちも中々強敵なのよね」

と呟きながら、攻撃を避けていく。

「そうねぇ。こっちに当主が来てるってことは、小夜ちゃん以上の増援は無さそうよね」

撃退だけならば、棗たちだけで十分だろう、と美里は判断する。

だが、

「なっちゃんなんか別のことにも首突っ込みそうなのよね」

まさにその通りなのだが、美里はまだ知らない。

それでも美里は、まぁ大丈夫かと思う。

気付けば、棗たちの強さを信頼している自分がいた。


(私も歳をとったのかしらね)


ついこの間まで、ひよっこだった気がしていた子達が、いつの間にか強くなっていたのだ。

時の流れを感じるというものである。

小さく美里は苦笑し、

「私は、私のやるべきことをやらなきゃね」

と、どこからともなく太刀を取り出し、白に声をかける。

「白も手伝ってくれるわね?」

「キュイ!」

白が、元気よく答えると、呼応するように白い軍勢が姿を現す。

二三匹を打ち出すと、それに合わせて駆け出した。

今年の更新は、これが最後だと思います。

九月に始め、四ヶ月とちょっと。

ここまで続けられたのは、読者さんたちのおかげです。

ありがとうございました。

来年もよろしくお願いします。

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