第十五話
満月は読ませ字で「みつづき」と読んでください。
――誰か助けて
その姿は誰も求めていない。
満月の次期当主として強くあれ、弱みは見せるな。
口にはださねど家の人間はすべからくそう思っているだろう。
――誰か助けて
大好きな友を殺さなければならない。
この状況から助けてくれる人は誰もいない。
満月の血故か、棗との殺し合いを歓喜している自分もいる。
矛盾を抱えた心の叫びは生まれては消えていく。
小夜と朝月以外の人間はすでに倒していた。
家までは後少し、感じる気配はかなりの数だ。
距離からして三十秒かけずに倒さなければならない。
普通の敵なら逃げながら仕掛けている罠によって既に振り切れているはずなのだが、朝月の存在がそれを邪魔している。
『犬神』
犬を頭部のみを出して生き埋めにし、または支柱につなぎ、その前に食物を見せて置き、餓死しようとするときにその頸を切ると、頭部は飛んで食物に食いつく。
これを焼いて骨とし、器に入れて祀ったものだ。
犬神である朝月は、触れたものを食べることができる。
その力を使って罠を食い破っているのだ。
(きっちり三十秒でかたすか、何かにやらせるか……)
幻想によって棗の頭に納められている伝説。
伝説上の存在など大抵が異形退治か劣勢を覆すためにある。それを使えるものが手段がないはずがない。
家の方から小さな小さな白い影が飛び出してきた。
それは美里の管狐。その中でもリーダー格の白と呼ばれている管狐だった。
「白! お前も戦ってくれるのか?」
「キュィッ」
何かにやらせる方向に決まった。
「後何匹か呼んでもらえるか?」
「――」
白が人間には聞こえない音域の音を出すと、新たに十匹の狐が寄ってきた。
さぁ準備は整った。後は二十メートルほど先の塀を越えるだけだ。
傷は少ない。
体力もまだまだ余っている。
一人は心臓を掴み出して殺した。
一人は首をねじ切ってやった。
一人は舌を引き抜いてやった。
だが、数は一向に減らない。
ゴールの見えないマラソンは精神を犯し始めていた。
そんなときだ、待ちに待った声が聞こえたのは。
「秋人。伏せとけよ」
「『花狐貂』」
棗の肩に乗っていた管狐が敵に飛び掛かっていくのと同時、管狐達は象サイズまで巨大化した。
近くにいるものは猫パンチ、遠くにいるものには尻尾で凪ぎ払いをくらわせる。
猫パンチといえば可愛いがサイズがサイズである。
既に白い毛の管狐の手は赤く染まり始めていた。
「ありがとうございます。助かりました」
「いや、すまないがまだ終わりじゃないんだ」
は? と秋人は思わず間抜けた声を出す。
「襲撃者の中に小夜と朝月がいた」
「ということは今回の襲撃は満月家ですか」
ここは大切な家族の居場所なのだ。
何をされるのかもわからないが三大家にでも勝手にはさせはしい。
「おう。雑魚は片付いたみたいだ。もう来る」
管狐達がまた元のサイズまで戻った。
他人にかける幻想は触れていなければ一分保たず解けてしまうのだ。
続けて管狐達に美里を呼んでくるように頼む。
「『夜想曲第八番』」
二人の間に電気の刄が飛んでくる。
それぞれ左右に避け、アイコンタクトで指示を出す。
(秋人は朝月の能力止められるか?)
(大丈夫です。まかせてください)
(わかった)
一瞬の間に会話を完了しそれぞれの相手に向かっていった。




