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第十四話

仕事が入ったと言われたので少し遠い家まで帰ってきたところだ。


「失礼します、父上」


扉を開けて書斎に入る。


「今回の仕事だ」

口数少なく満月の当主は紙の束を投げてよこした。


ざっと目を通す。

始めには仕事内容が書いてある。


――実験ナンバー38の奪還、及び匿っている者の殲滅


依頼機関は研究施設のようだ。

顔写真も付いている。


現在の居場所は……


「待ってください! 諏訪家に攻め込むと言うのですか!」

「そうだ」

「あそこには美里が」

「今は管理機関にいる。連絡はとれまい」

「しかし……」

「小夜」

起こったのは生物としての反射的な反応だった。

根源的な恐怖。

膝は震え、歯は噛み合わず、ガクガクと震えているのに冷や汗が止まらない。

小夜は完全に飲まれてしまっていた。

「いけ」

「は……はい……」

小夜は無意識のうちに返事をしてしまっていた。










ここは昨日鈴と戦った場所だ。狐火によってできた小さなクレーターがある。

その広い庭の周り、塀の上にはたくさんの退魔士が集結していた。


「……」


中心に一人秋人は立つ。


春日と秋人は双子の姉弟であった。

だが、春日には退魔士の素養があり、秋人にはなかった。


生まれつきの才能を持たない体。

春日は自分の知らないところで戦い、知らないところで死んでいく。

それを知ったとき、秋人は純粋な人間であることをやめた。



何かを食べ、その力を自分の物にするという考えがあるのを知っているだろうか。

例えば、すっぽんの生き血を飲んで、自身の精力を増強するように。


その考えに沿って鬼を喰らった。

腕の肉を噛み砕き、腹をかっ捌いて内蔵に喰らい付いた。

顎が砕けても食べ続け、頭の先から眼球などの器官まですべてを喰い付くし、体に合わぬ肉を食べた故の拒否反応に耐え、そうしてようやく春日と同じステージに至った。

しかし、そうしてできた人形(ひとがた)は既に人間でも、妖怪ですらなく、受け入れてくれる退魔家はなかった。


春日と途方に暮れ、そんな自分達を拾ってくれたのは美里であり、受け入れてくれたのは諏訪家であった。


故に秋人の決意は固く、何百の敵を目の前に一分たりとも揺るがない。

考えることは唯一ついかにここを守るか。

秋人は一撃で百人単位の大群を戦滅するような攻撃手段をもたない。

一斉に飛び掛かられたらその時点で負けである。


幸い単騎で同格の相手はいない。

逆に言えば全員での特攻以外の手段なら大抵抵抗できるということだ。

敵は対軍用の攻撃を持ってないことを知らない。

一ヶ所に集まらず散開しているのが証拠だ。

ならば、殲滅はできずとも棗が来るまでもたすことなら可能だろう。


秋人は異能を少し解放する。

すると、両腕が赤く染まり鎧でも着けたかのように太くなった。


それを合図に相手陣営も動きだした。


まずは三人。

その中で一番先行している奴に接近、頭をわしずかみにしそのまま握力で握り潰す。


トマトのように弾けた頭。

頭を失った体は数歩進んで倒れ、動かなくなった。

そのあまりにも無惨な死に方に動きが止まる二人の腹を指で引き裂き、内臓を引きずりだして絶命させる。


恐怖で戦いの主導権を握る。

そうして綱渡りの時間稼ぎは始まった。

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