第十二話
現在六限目世界史の授業中だ。
要領を得ない教師の解説を耳に通すだけ通して無意識に書き写す。
こうして書かれたノートは俺しか読めないが問題ないだろう。
その間に周りを観察する。
席が一番後ろの窓側とあってこういうことをするには最適だ。
秋人は真面目に授業を受けている。
対照的に春日はすごく幸せそうな顔をして寝ている。
今が至福の時といわんばかりだ。涎がたれて制服に付きそうになっている。きっと後で秋人に泣き付くことになるだろう。
――横からジリジリとした視線を感じる。
朝月は眠気に完全敗北宣言している春日と違い、頭をコクコクとしながらもなんとか眠気に耐えているようだ。
たまに、ハッと目を覚まし頭をフルフルと左右にふる姿がまた子犬のようでかわいらしい。
――視線に質量があれば押し潰されそうだ。
そろそろ耐えきれないのでそっと隣を窺と
――般若のごとき顔をした小夜がいた。
その視線は話を聞け、ちゃんと授業をうけろ、と力強く主張している。
春日はいいのかよ?
とその時小夜の携帯が鳴った。
授業中にもかかわらずすぐに出て、二三話した後立ち上がった。
「教諭、仕事なので失礼する。朝月いくぞ」
朝月もその声に一気に目を覚まし立ち上がる。
「それと……」
小夜は付け足すように言った。
「授業はちゃんと受けるべきだと思うぞ?棗」
「何? 諏訪! 放課後職員室に来なさい」
そう言い残して朝月を引きつれ出ていった。
純度百パーセント忠告のつもりで言ってるので尚更質が悪い。
呼び出しが俺じゃない諏訪であることを祈りたかったがそれもないだろう。
こうして居残りは確定した。
なぜ俺だけ?
「う〜秋人〜ハンカチぷりーず」
「はいはい。ダメですよ授業中に寝てたら」
うんうん。麗しき姉弟愛だな。
「兄さん、そんな目で見ないでくださいよ」
少しぐったりしたように秋人が言う。
「そういえば、呼び出しされたんでしたね。待ってましょうか?」
「えっ! いつ?」
お前が寝てたときだ春日よ。
「いや、先に帰っててくれ。今日は美里姉さんと鈴が出掛けて未耶が一人で留守番してるから」
管理組織への申請があるらしい。
「ついでに夕飯の買い物も俺がしてくよ。なんかリクエストあるか?」
「親子丼!」
「秋人は?」
「春日にあわせます」
こいつも人のこと言えないぐらいにシスコンだと思うんだ。
「了解。じゃあな」
「また後でね」
と軽く手を挙げて別々の方向に歩いていった。