プロローグ
力が欲しい。
僕は瓦礫に埋もれた下半身を動かそうと焦る一方で淡々と冷徹に力を欲していた。
今この場で助かる術を模索していた。
しかし既に下半身には力が入らないどころか感覚すら感じない。
早く逃げないと魔獣たちに囲まれて殺されてしまう……そんな危機的状況に陥った時、僕はいつも力を欲した。
過去にも僕は何度か願った事がある。
学校の帰りに超大型魔獣と遭遇した時、目の前で両親が死んだ時……
いくら願っても現実は残酷だった。
無能な僕には現実を変えることは出来なかった。それどころか力のない僕には魔導士たちのお荷物でしかないのだろう。
力さえあれば……僕の目の前で泣いている女の子を救うこともできる……妹をずっと守ってあげることも出来るはず。
何だって良いんだ。
人を救うことが出来るなら強化能力でも隠蔽能力でも治癒能力でも……なのに……なのに………
「なんで僕には力がないんだよ!」
僕は血で赤く染まった右手で硬い地面に思いっきり叩きつける。
今だけで良い……誰かを守れるだけの……誰かを救えるだけの力が欲しい。
ドス…ドス…ドス……身体中で何かがこちらに歩いてくる振動が伝わってくる。
身体中に悪寒が走る。
今までにない恐怖を感じる。
このままここで瓦礫の下敷きになっていると間違えなく喰われる。
しかし僕の身体ではもう逃げることが出来ない。
今の僕に出来ることは目の前で泣き叫んでいる女の子を逃がす時間を稼ぐことぐらいが精一杯だろう。
「君、今すぐここから離れるんだ!何かが近づいてきてる」
僕は腹の底から声を出す。
しかし女の子に僕の声が届くことはなかった。
女の子は地面にうずくまり恐怖に手で耳を塞いでいた。
怯えてないで早く逃げろよ!
そう思う僕と女の子の気持ちが痛いほど理解していた僕がいた。
それもそうだろう。
僕もこんな状況に陥ったら両手で耳を塞いで目を閉じて、現実から目を背けたい。
いっそのことさっきの街の崩壊で死んでしまえたら楽だったのかもしれない。
そうも考えてしまう。
僕に力があればこんな残酷な状況から誰かを救えるのに……
『諦めるのかい?』
どこからだろうか……ふと聞き覚えのない声が僕の頭に響いた気がした。
いや諦めてない。
ただ神に能力を欲して懇願しているだけだ。
『懇願するだけで何も努力をしないでワガママな奴だなぁ……』
ワガママって言われても力のない常人は努力したって魔獣を倒せるようになることはない。
剣術や武術を極めて人を救えるのなんてどれだけの歳月を要すると考えてるんだ。
『力ならもうあるじゃないか?そんなのも気づかない凡人に僕は力を与えたつもりはないんだけどなぁ……』
力ならもうある?そんなはずない……高校に入学した後の能力測定検査では能力は「なし」って打たれてたはず……
その短期間に能力覚醒の予兆もなしに覚醒するなんて……ありえない。
『君は何か勘違いをしている』
僕が勘違いしている?
何を?どのように?
『君の力は君が生まれた頃からずっと君に備わっていたんだよ』
僕の力?
『そう君の力……けど君は使い方を理解していないのか?』
僕の力の使い方?
僕が神に願ったのは人を救うための力だ。
『自分の魂に問いかけてみろよ。君は何が出来て、何をするために生まれてきたのか?そして今、何を願っているのか?』
僕には何ができるか……何をするために生まれてきたのか……そして今、何を願っているのか……そんなの……
「そんな言われ方でわかるわけないだろ!」
僕は謎の声に苛立ちを感じて怒りの声とともに思いっきり地面に握り拳を叩きつける。
自分の幻聴だと思って素直に聞いてればなんか仏教的な思想を提案してきやがって!
んなのわかるわけないだろ。
僕に何が出来て、何をするために生まれてきたのか?
そんなのが15年の人生でわかってたまるか!
「ハァ……ついに僕も死ぬ間際になって走馬灯ではなく、幻聴が聞こえてくるようになるとは自分にあっぱれ……」
溜息をついた時に今、息が白くなっていた気がする。
あれ、今って春から夏にかけて徐々に気温が上がっている時期なはず。
そんな時期に冬みたいに寒くて息が白くなるなんてありえるのか?
それは否だ。
ありえるわけないだろ、僕?幻聴の次は幻覚だなんて辞めてくれよぉ。
これで確信した。
僕の頭は恐怖でどうにかしてしまったんだと……
じゃないと握り拳が氷にくっついて離れない幻覚とすごい冷たい感覚を感じるはずがない。
これはもしかしてもしかしなくても死んだやつじゃん。
妹の喜菜香に家族全員早死にしてごめんなさいと土下座で謝罪したい。
だって家族の4人中3人が魔獣災害によって死亡ってどんな不幸な家族なんだよ。
まぁ、次の人生があるなら超強い能力が欲しい。
例えばありとあらゆるものを跳ね返す反射能力とか剣を錬成できる能力とかそういうかっこいい能力欲しいな。
あと望むなら……
「……最後に喜菜香のオムライスが食べたかったよ」
この時の僕はまだ自分が何をしたのか気づいていなかった。
ここからは後から聞いた話なんだが、この時ニュースでは『東京都新宿区全域が一瞬のうちに凍結した!』と大騒ぎだったらしい。
新宿区には厚みにして2センチほどの氷がはり、気温は25度から約3度ほどにまで低下したらしい。
幸い新宿区には逃げ遅れた僕と目の前の女の子しかいなかったため被害は最小限で済んだらしい。
女の子の周りには何故か氷が張らなかったため女の子は無事だったらしい。
新宿区が凍結して少し経つと東京都新宿区の氷が徐々に周りの区を侵食し始めたから、それはもう大騒ぎだったらしい。
僕の方はその後、意識を失ってしまった。
この小説の投稿ペース等について
この小説は一回に投稿する量が少し多いと思うので、週1投稿を心がけていこうと思っています。
投稿日は小説が出来次第?基本月曜日の朝7時に投稿します。
小説が出来たら投稿って感じがほとんどだと思うので気長に待っていただけると嬉しいです。