序章『祭日の事』(ディスクA面)
「あんた、部屋にこもって飯時にしか出てこないで、ちゃんと顔を見せなさい。」
と言う。しかし、と言って。
「あんた、一日中視界の隅でゴロゴロしてないで、外に出なさい。」
と言う。しかし、と言って。
「あんた、飯時も顔を見せないで、寝るときだけ帰ってきて、何してるんだか知らないけど働き口でも探しなさい。」
と言う。じゃあ、どうすればいい。言われた通りに何かをしたところで、すべて完全否定だ。ああ、そうか考えるまでもなかった。「行動」ではなく「存在」が否定されているのか。なるほどそうか、いや納得。
ここで悲観して、命を絶つなどと言う勇気など、持ち合わせてはいない。最初は痛いが…?最初は苦しいが…?その後はない?死んだら終わり?そりゃそうだ。命だのなんだの…まぁ、動力が切れたら終わりだ。死後の世界とか、そんな「神話」とか「経典」とか「聖書」とかなんとかと、格好つけた呼称で呼ばれているだけの、大昔の人間が書いたライトノベルに感化されて、真に受けているわけがない。とにかく、死ぬのが怖い、腰抜けってだけ…。
あー、と言っても、資格もない、学歴も悪い。自業自得だが、それにしたがって、大人しく、やりたくもない顔色伺いなんかして、働きアリとして、搾取される側に大人しくなるか?と言われれば、そんなつもりは微塵もない。冗談じゃない!チャンスはあるんだ。だから少し時間をくれ、猶予をくれ、少し金をくれ、それだけでいい。好きなことをやって、それが自身のステータス覧の職業に堂々と刻めて、給料がもらえる。そうなるはずだ。いや、そうなる。そうする。絶対に…。でなきゃやってらんねぇ。
――そら、チャンスは目の前だ。あの時、否定してくれた事を後悔しても遅い。見ろ!この一歩が、アクティブでファンな日常を確実に手にするものになったんだ。謝罪しろ!土下座しろ!その可能性をてぇめぇの物差しで妨げたことに!…なぁに、今じゃなくていい。戻るまでの間に、己の行動の愚かさと、相手の心にしみる謝罪の言葉をじっくりと考えておくんだな。
さて、時間がない。最終確認なんてしてる暇はない…か。ま、別に大丈夫だろうけど?とにかくだ。この一歩が、正当性の証明になるんだ。そんなことくらいで落ちるなら、もう、とっくに落ちてるしな。しっかし、へへ、今日はいい天気だ。それにどうやら今日は祭りっぽいな。「上」を失礼するぜ。しかし、まるでこれは俺の成功を祝ってくれてるみたいだなぁ。おい?
「絶好の飛ばし日和ってな。」
絶え間ない爆音の中で、眼下の群衆を眺めながらつぶやいた…。