私は起き上がる。
彼はあたし以上にあたしなの。魂が何で作られているとしても。彼の魂とあたしの魂は同じなのよ――。
同じなわけはない。そんなことはわかっている。
でも、同じ所へ行きたいと強く強く願ってしまう。
連れて行って欲しい。昊のいる、深淵へ。
真っ白な天井がまず目に入った。壁も床もすべて真っ白。見覚えがある部屋とベッド。
「――早いお目覚めだな」
ベッドのすぐ傍に、松葉杖片手に、宇野が立っていた。
身じろぎしただけなのに全身に痛みが走って呻いた。頭もガンガンする。なにこれ。聞きたいことがたくさんあるのに、喉まで痛くて咳き込んでしまう。
「煙の吸い過ぎだ。あと体が痛むのは打ち身と火傷だよ」
「ここは……ダメ」
征木の病院だ。警察が来るかもしれない。ここにいてはいけない。
「ああ、春哉から聞いた。でも応急手当するのにはここが好都合だったからな。まだ早朝だから大丈夫だろ。ってか征木さんはもういなかったぞ。部屋を覗いてみたが荷物をまとめた跡があったから、今頃逃亡中じゃないか?」
そんなことはどうでもいい。
「火傷は心配すんな。軽度だから跡も残らないだろうよ。俺の病院で薬を出してやるからさっさと東京に帰ろう。痛いだろうが頑張って動いてくれよ、俺はお前を運んでやれないからな」
時計を見ると朝の七時過ぎだった。あれから数時間しか経っていないのに雨はすっかりやんで、薄明るい空が窓越しに見える。
「火事……どうなったの」
「俺は見てないからわからないが、消えたんじゃないか? あの雨だっただろ。あんな山奥、消防車も入れないし、燃えてても多分ほったらかしだろ」
とっても適当な答え。でも今のところ山火事情報も入ってないらしいし、小屋が燃え切ったところでおさまったのかもしれない。別にあんな山が燃えようが、これもどうでもいいことだ。
「春哉は……?」
宇野と会ったということは無事なんだろうけど、ここにはいないのだろうか。
「帰ったよ」宇野は水の入ったコップを私に差し出しながら言った。まだ寝てるんですけど。「ええっと……あいつが爆破のボタンを押したんだったよな? それからぼけっとへたりこんでたんだけど、ちゃんと見届けなければという義務感が湧きおこり、小屋に向かったそうだ。でも着いたころには小屋はほとんど燃えていて、近くにお前が倒れていた。それでお前をおぶって山を下りて、麓に停めておいた車で一旦ホテルに戻って、俺を無理矢理起こしてここまで連れてきて、治療させて心配ないということがわかると、もう東京に帰るって。さっさと出て行っちまった」
「それは……災難だったね」
酔って気持ちよく寝てたのに。
「いや明け方だったからなんとか起きれたよ。夜中だったらヤバかった。携帯の着信に気づかなかっただろうな。しかしあいつ、大分やつれてたぞ。無事に帰れたか後で確認しとけよ」
わかった、と頷いた。質問したいことがまだある。でも宇野に聞いてもわかるはずがない。気を失っていたことが悔やまれた。春哉だったら答えられるかもしれないのに……。
「……あいつは?」
宇野が遠慮がちに聞いてきた。私は首を振る。わからない、と言ったが掠れて声にならなかった。
「小屋の中に……入って行った。すぐ小屋は燃えて……何かが上から落ちてきて……あとはどうなったの? 小屋は本当に全部燃えたの?」
「そう聞いてる。でも、昊のことは何も喋らなかった。会ったのはお前が最後だと言って」
「…………」
突然、説明のつかない色んな感情が噴き出した。息が出来ず、胸を押さえて歯を食いしばった。
しばらくそうやってうずくまっていた。ふと顔を上げる。窓から入って来る朝の陽で目が痛んだ。水色の空に白い雲。いかにも爽やかな風景に、不思議と気持ちが落ち着いてきた。
「――帰ろうか」
心配そうに見下ろしている宇野にそう言って、体を起こした。




