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また彼は消えた。

まだ夜中の一時だ。

 夢見が悪い。もう今夜は寝付けないだろう。

 でも三時間は眠れたので少し体がスッキリしている。朝までどう暇を潰そうか……。

 スマホを見ると、着信が一件あった。綾辻――父だ。

 遅くなっても構わないので電話をくれ、と留守電が入っている。こんな時間でもいいのだろうか……迷ったが、知りたい気持ちに勝てず、発信してしまった。

 綾辻はすぐに出た。

「昼過ぎに春哉から電話があった。ホテルで待っているはずのきみがいないから、慌てふためいて私の所に電話を寄越したんだ。役には立てなかったが」

「そうだったんですか……すみません」

 綾辻に助けを求めたって、どうしようもないのに……坊ちゃんめ。

「そんなことはいい。夜、また電話であらましは聞いた。今日は大変だったそうだな」

「いえ……」

「きみの行動力に春哉が驚いていたよ。まさか本当に探し当てるとは思ってもいなかったとな。――雑談はここまでにしておこう。きみに、話したいことがある」

「……なんでしょう?」

 深夜の電話も厭わないほどだ。大事な話だとは予測出来たが、一瞬緊張した。スマホを持つ手に力がこもる。

「――昊の面倒をみたい」

「…………え?」

「引き取って面倒みる、という意味ではない。ただ、彼がこの先進みたい道の、手助けが出来ればいいと思っているんだ」

「え……、どうして、急に」

 こんな事実は、綾辻にとって一番の迷惑だと思っていたのに。

「責任の一端は私にもある。もし人目を忍んで北海道の病院に行かなければ、こんなことにはならなかっただろう。音羽さんには無駄に神経を使わせて迷惑を掛けた。彼女の子だ。きっと聡明な子だろう。きみと同じ遺伝子を持っているしね」

「じゃあ、あの……戸籍とかも?」

「そんなものはどうにでもなる」

 すごい。知恵のある大人って素敵。

「ありがとうございます。助かります」

 嬉しくて、思わず夜中に大きな声を出してしまった。「昊も喜びます。自分の力で生きていけること」

「これは親切だけではない。私のためでもあるからいいんだ。あらゆる噂が回るのは止めようがないが、先手を打つことは出来るから」

 よくわからないが、任せておけば大丈夫だ。宇野あたりは、そんなうまい話信用出来るか? と言いそうだけどその時はその時だ。そもそも私を隠し子だと認めた時点で、危険物質を一つ抱えたようなものだし。認めず突っぱねることだって出来たはずだけれど、彼はそれをしなかった。正面から昊にも向き合ってくれるつもりがあると、信じたい。

 電話を切ると、さっき見た夢のことなんか吹き飛んで気分が明るくなった。早く朝になって昊に教えてやりたい。窓からまだ真っ暗なホテルの庭を眺めていたが、なんだかそわそわして落ち着かない。やっぱり朝まで待てない。部屋を出て三階の、昊の部屋に向かう。

 控えめにノックしてみた。反応はない。

 寝ているのか……。

 勝手にがっかりしながら、なんとなく今度は部屋のチャイムを鳴らしてみる。が、やはり反応はない。

 怪我しているし、それでなくても今日は疲れているはずだ。だから今夜は引き返すべきだとわかっているのに、未練たらしく、部屋のノブを回してみた。ガチャリ、と音がして、ドアは難なく開いた。

 寒い。

 風が入ってきているのは、窓が開いているせいだ。夜の風は身を切るように冷たい。東京ではこの季節に経験したことのない冷たさ。こんなところで寝ていたら風邪をひく、どころじゃない。

 ドアを開けて電気を点けると部屋全体が見渡せるので、ベッドにもどこにも、昊がいないのはすぐにわかった。念のため、バスルームやトイレを確認したが、期待はしなかった。

 昊が消えた――どこに? 窓から顔を出して探したが、何も見えない。振り返るとサイドテーブルの上に、この部屋の鍵が置いてある。

 黙って出て行った――。

 私は部屋を飛び出し、同じ階の宇野の部屋のチャイムを鳴らした。返答はない。ドアに耳をつけて様子を窺うと、中から大きないびきの音がする。これはダメだ。夕食の時も久しぶりだと嬉しそうにワインをがぶ飲みしていた。別れ際にやっぱりビールも飲みたいなどと言っていたから、きっと部屋に戻って、飲み直しながら寝たに違いない。こうなると朝まで何をしても起きないのを知っている。

 二階に戻り、春哉に声を掛けたが、やはり無反応だった。

 部屋に戻り、上着を着込みながらせわしく考えた。どこに行ったの? ちょっと散歩、くらいならいいけれど、わざわざ窓から出ていく必要はない。誰にも目撃されないように出たかったのだ。

 まるきり一人で生きていこうとしているのか? でもどうやって? 何も持たずに、無計画に生きていけるはずがないということくらい、いくら世間知らずでもわかるはずだ。

 何も持たず……。

 フロントで引き留められると面倒なので、私も窓から出ることにした。昊が登っていた木を伝って降りる。

 行先は、紫永の家だ。

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