私は夢を見る。
千代香の夢を見た。
赤ん坊を抱いている。千代香の顔は晴れ晴れしい。
無事、出産出来た。研究の実質的な成果を上げたのだ。
これで、彼の心は私のものだ。
だが彼は苦り顔だ。性別が違ってしまったから。
あの女優の子どもと同じ遺伝子さえあれば喜んでくれると思っていたのに――彼はそれからもずっと研究に没頭している。せっかく出産した赤ん坊にも、あまり興味がないようだ。千代香は仕事休みのたびに『昊』と名付けられた赤ん坊の世話をしに訪れる。ミルクをやり、オムツを変え。初めは死なれたら寝覚めが悪いので、機械的にこなしていただけだった。それが歩くようになり、千代香の顔を認識し、笑うようになると少しずつ情も湧いてくる。
健やかに成長する昊。それは誰にも言うことは出来ないが、密かな、唯一の楽しみになっていく。
反対に、紫永への愛情はどんどん薄れていった。一度成功したのなら、すぐに次のクローンが出来ると息巻いていたが、結局二人目は出来なかった。研究費のため、臓器移植の勧誘にまで協力しているのに――情けない、という思いが去来する。別れたいが、昊がいるために離れることが出来ない。
宗教の勧誘を疑われて病院を辞めさせられると、正直、安堵した。本当はあんなこと、したくなかったのだ。長い間紫永に協力してやったのだから、これからの生活を少しくらいみて貰ってもいいだろう。
それに、これで昊とずっと一緒にいられる――。
初めは母親のような感情だった。でも成長するにつれて、彼は不思議な魅力を纏うようになる。無邪気な、幼さの残る笑顔を向けたかと思えば、突然表情がなくなったり、遠くをぼんやり眺めているかと思えば、皮肉な微笑みで覗き込んできたりする。そのたびに瞳の色が違う。一体、どれが本当の色なんだろう? 端正な顔つき、というだけでは表現しきれない美しさは、しなやかな体で森を駆けてゆき、そのまま消えてなくなってしまうんじゃないか、と不安にさせられる。
私が引き戻さないといけない。放っておけばいずれ彼は、何か見えない力で連れ去られてしまう――。
不安はどんどん増大し、手の届く範囲にいないと居ても立ってもいられない。
どうしてこの子は、こんなに私を振り回すのだろう。私のことなど見ていないくせに。
私がこんなに愛しているのをわかっていて、わざと無視をする。いないものとして扱っている。そうすれば、私が追いかけるのをわかっていて。
追いかけて掴まえるのに、またすり抜ける。いなくなれば私が動揺するのをわかっていて。この子は私を弄ぶ。私の頭が混乱し、おかしくなっていくのを知っていて。
この子は笑う。




