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気が付けばもう10月…どうしてこうなった!
恵さんが廿楽さんに連行されたのと入れ違いで茉莉姉達が運動場に来た。
「あれ、恵は?」
「いや、いつものヤツで翔君の保護官に連れてかれたぞ。」
「あ~…」
茉莉姉もいつものヤツで通じたのか呆れた様な顔をしていた。
「一三く~んこの子だれぇ?」
「ね~、一三くんほどじゃないけどこの子もカッコよくない?」
「カッコ良いって言うより可愛いって感じでしょ。」
あっという間に一三さんのクラスの女子達に囲まれてしまった。
「おいおい、そんな一気に取り囲んだら恐がるだろ。
お前達と違って翔君は繊細なんだからな。」
「そんな恐がるだなんて…別に襲う訳じゃないし、それに一三くん以外の男に手を出すわけないでしょ~。」
一三さんのプライドのメンバーと思われる女子達が不満そうな顔をするが、他の女子達は一三さんの方を見ながらもチラチラとこちらを見ている。
そんな中、俺は茉莉姉に抱えられ女子達から遠ざけられた。
「あっ!
ちょっと茉莉、ちょっと何してんのさ!!」
「何って、大切な弟を飢えた獣から遠ざけてるんだよ。
怖かったな~もう大丈夫だからな~。」
床には降ろされたが、後ろから茉莉姉に抱き締められ頬擦りされるのは正直恥ずかしい。
色々と柔らかいものが背中や頬に当たるのは嬉しいが、茉莉姉に向けられている嫉妬に満ちた視線は自分に対してじゃなくても非常に恐ろしい。
「その子が噂の…、成る程ねぇ~。
さっき囲まれた時も怯えよりも恥ずかしそうにしてたし、噂も嘘じゃなさそうね。」
「噂って?」
「一三くんと同じで女好きとか。」
「美少年の皮を被った奇跡とか。」
「虚弱詐欺とかも聞いたよ。」
「その噂の出所は…」
「さぁ?
どれも他の子が話してるのを聞いただけだし。」
ちなみに、元々の噂は
「見たこともない程可憐な美男子が自分を追い掛けてきた一年生達から逃げ切り保護官達に保護されたが追い掛けてきた一年生達を退学に追い込まずに許したらしい。
しかも、その後に歌枕様と一緒にお昼を食べたらしい。」
というものだった。
「とりあえず、噂は後で俺が訂正しておくからそろそろストレッチから始めるぞ。
翔君は…俺とじゃ体格差的に厳しいか。
かと言ってお前等に任せたらどうせセクハラ紛いのストレッチしかやらなさそうだし…」
「それでしたら、私がサポートさせていただいてよろしいですか?」
いつの間にか俺から少し離れた場所に居た黛さんが立候補してきた。
「だ…そうだが、どうする。」
「黛さんが良いなら僕は大丈夫ですけど…、いつの間に居たんですか。」
「廿楽さんと入れ替わりで来ましたよ。」
全く気が付かなかった、他の人は驚いてないから俺が気が付かなかっただけだろうか。
「決まりだな、俺は…昨日勝ったのは誘華だったな。」
「待ってました!!」
プライドの女子の中から俺より少し大きい位の女の子が飛び出して来た。
「じゃあ、他の奴もペア組んで始めろよ。」
「翔様、私達は少し離れた場所でしましょうか。
万が一、怪我でもしたら大変ですから。」
「はははっそんな、ストレッチ程度で怪我なんてしませんよ。」
そう考えていた時期が俺にもありました。
それぞれペアを組んでストレッチを始めてから数分後…
「よし、そろそろアップ始めるぞ!」
一三さんがそう声をかけた途端、今まで前の世界と大差ないストレッチから一変。
いたるところから鋭い破裂音や鈍い打撃音が聞こえてきた。
「ねぇ…、黛さん?」
「どうかなさいましたか?」
「なんか、何名か凄い速さで殴り合いしてませんか?」
「そうですか?
私からしたら大分ゆっくりに感じますし、殴り合いと言うよりは組手の方が正しいかと。」
「アッハイ…」
先程まで、虚弱詐欺の言葉を聞いて身体能力的にもチートなのかな?頭良くて運動神経抜群とか最強じゃね?とか考えていたが。
この人達に比べたら虚弱ですわ。
「私的には歌枕様の身体能力に驚きですね、男性でありながらあれほどの動きを出来るとは。」
一三さんの方を見ると、確かに凄い身体能力だと思わされた。
と言うか、ペアを組んだ女の子も凄いと言うか恐ろしい。
「くっそ~、そんな避けなくても良いじゃないかぁ!!」
「授業中に発情してんじゃねぇぞ誘華ァ!!」
三人に増えた様に見える女の子が次々と一三さんに抱き着こうと飛び掛かる、それを紙一重で全て避け続けている。
前後左右だけではなく上下からも立体的な動きで飛び掛かり続けているのに、何故避けれるのだろう。
「どうなってるんですかアレ。」
「どうと言われましても、普通に飛び掛かってくる少女を普通に避けているとしか。」
「普通にって…」
とてもじゃないが、あれほどの速さに普通についていける気がしない…そう思いながら俺はいつの間にか胡座をかいた黛さんの膝の上に座らせられていた。
一体いつの間に…
「よっと!」
「んにゃあ~、捕まったぁ~!」
アップが始まって8分程たった頃に一三さんは一瞬の隙を突いて抱き着こうと飛び掛かってきた女の子を逆に脇に抱える様にして捕まえた。
一三さんは汗だくになっているが、抱えられている女の子はあまり汗をかいている様には見えず非常に満足気な顔をしている。
「それじゃあいつも通り総当たり戦をしたいところだが…」
だが…なんだろうか、一三さんがこちらの方を向きながら非常に嫌な予感がする笑顔をしている。
「一三さん…なんですかその顔は…」
「いやなに、せっかくアイアンメイデンの筆頭保護官の黛さんが居るんだから。
それに翔君も個人契約したんだし、実力は見ておきたいだろ?」
「そう言われればそうですけど…」
確かに一三さんの言う通りではあるが…、既に何回か気が付かないうちに接近されていたり、膝に座らされていたりしてる時点でかなりの実力はありそうだが…。
「そこでだ…、俺以外の女子全員対黛さんで翔君を護りながら戦ってみるってのは楽しそうだろ?」
まさか、常識人だと思っていた一三さんがとんでもない事を言い出した。
「いや、流石に全い「私は全く問題ないですよ。」…えぇ…」
それに問題ないと答える黛さんもどうなんだろうか…
「一応確認させていただきたいのですが、武器の使用は。」
普通に考えれば使用は禁止と言うか、そもそもその発想はどうなんだろうか…(二回目)
「まぁ、万が一翔君が怪我するとまずいから無しだな。」
逆に言えば、俺を護りながらでなければ使用しても良いと?
「わかりました、よろしいですか翔様。」
「よろしいですかって…、戦っても黛さんに良いことなんて無いじゃないですか。」
「そんな事はないですよ、先程は弘原海さんが全員片付けてしまいましたからね…」
すると急に黛さんが密着してきた為、背中に押し当てられた胸の柔らかさに若干ドキッとしてしまったタイミングで
「私も少しは翔様に格好いいところを見せたいんですよ。」と囁いた。
囁かれた方の耳を押さえながら振り向くと、満面の笑みを浮かべた黛さんと目が合う。
その目は自分以外には決して触らせるつもりは無いし逃がすつもりも無い…、とても保護官がするべき目ではなく捕食者の目だった。
しかしそんな目に見つめられたからか自分でも顔がどんどん熱くなるのがわかる、きっと耳まで真っ赤になってしまっているだろう。
ふと、黛さんが目線をそらすと満面の笑みが若干勝ち誇った様な笑みに変わった。
恐る恐る前を向くと、黛さんへ向けられる多くの羨望の眼差しと嫉妬の眼差し、そして茉莉姉が明らかに不機嫌になっている。
「じゃあ、翔君も同意してくれた事だし早速ルールを決めようか。
こっちは翔君に触れたら勝ち、そっちは全員を倒したら勝ちで良いかな?」
黛さんによって熱せられた気持ちが茉莉姉によって急激に冷まされたと思った矢先、一三さんがとんでもなく不利な勝利条件を提示してきた事によって再び別の意味で熱くなる。
「一三さん!
いくらなんでもそれは流石に黛さんが不利過ぎませんか!」
「だ、そうだが?」
「そうですね、私としては翔様のお心遣いは非常に嬉しいですが…。
見込みがありそうなのは…3…いえ5人程ですかね、それでも私に勝つにはまだまだ未熟ですので心配無いかと。」
そう言うと、俺を抱えて立ち上がってから女子達に背を向けて俺を降ろすと女子達の方を向く。
「元アイアンメイデン筆頭保護官としての実力…しっかりと見ててくださいね翔様。」
バトル描写って苦手なんですよねぇ…。
とりあえず、感想ください!