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学校案内が予定より時間がかかってしまったので、先にお昼を食べることにした。
校内には男女共用と男子専用の食堂がある。
男女共用の方は主に女子生徒が利用しているようで一部の男子は自分のプライドの女子達と一緒に利用するそうだ、男子専用の方は別館の先にある男子棟の中にあるそうだ。
共用の学食ほど広くはないが充分な広さがあり、こちらはプライドを持たない男子かプライドを持っていても男子だけで食事をしたい男子が利用するらしい。
ちなみに男子棟はプライドを持たない男子の教室があり、それ以外にも男子用体育館や男子用プールなど男子専用の教室があった。
俺達は男女共用の食堂の一角、窓際の日当たりの良いテーブルで姉さん達の到着を待っていた。
お母さんと保護官達に囲まれているおかげか、近くのテーブルに座る女子はいないが少し離れたテーブルの壮絶な争奪戦が行われていた。
「まったく…、学生だからってはしゃぎすぎじゃないか?」
弘原海さんが争奪戦をしている女子達を見ながら呆れたように呟いた。
「そうかしら、私は翔ちゃんに危害が加わらなければあの位は良いと思うわよ~。」
お母さんはその光景を微笑みながら眺めていた、争奪戦が落ち着いた頃になってようやく來未姉さんと桜ちゃんがやってきた。
争奪戦のラインを超えてこちらに来る時、周りの女子達から凄い睨まれていたが大丈夫だろうか…
「ごめんね、クラスの友達達が翔を紹介しろってうるさくて。」
來未姉さんと同じ状況だったのか桜ちゃんも頷いている。
「あれ、茉莉姉は?」
「あぁ、茉莉なら…」
その時、食堂の入り口の方が騒がしくなった。
「ん、噂をすればかな。」
入口の方を見ると茉莉姉と一緒に一人の男子が一緒にこちらに向かってきていた、こちらに気が付いたのか茉莉姉がこちらに手を振っている。
「ごめんごめん、おまたせ~。」
「お待たせしました。」
「あら、歌枕くんこんにちは。」
「茉莉のお母さんご無沙汰してます。」
「お母さんこの人は?」
「君が翔くんか、茉莉から話は聞いてるよ。
俺の名前は歌枕 一三、歌に枕でかつらぎで漢字の一と三でかずみと読む。
茉莉と同じ二年生だ。」
燃えるような緋色の逆毛に鋭い目付き、身長は180㎝以上はありそうだ。
制服を着ていても分かるガタイの良さ、今の俺とは真逆のスポーツ選手の様な体つき。
「はじめまして…」
「こちらこそはじめまして。」
「茉莉姉とはどの様なご関係で…。」
「ふむ…」
歌枕さんが顔を赤くしながら頬をかきながら茉莉姉の方を見る、茉莉姉も顔を赤くして視線をそらしてしまった。
「ほら翔ちゃん、校長先生が言ってた茉莉が所属してるプライドの…」
「もしかして…、彼氏…なの…?」
「うん…えへへぇ。」
茉莉姉が恥ずかしそうにうなずく、歌枕さんは耳まで赤くしている。
「へぇ…。」
「何か困った事があったら何でも言ってくれ、あと歌枕じゃなく気軽に一三と呼んでくれ。」
ぐいぐい近付いてきて手まで握られてしまった。
「じゃあ…一三…さん。」
「なんだい翔くん…」
気のせいだろうか、一瞬先輩の周りをバラの花弁が舞っていたような気がした。
遠くから女子の黄色い悲鳴と不穏な単語が聞こえてくる。
〈マジ…生薔薇を見れるとか…ヤバい…無理………〉
〈尊い…〉〈わかる…〉
〈どっちが受けかなぁ…、やっぱり歌枕様が攻めかな!〉〈いやいや、あの子が攻めの方が萌えるでしょ…〉
お母さん達には聞こえてなさそうだが、歌枕さんにも聞こえてた様で苦笑いをしながら手を離した。
「ははは、女子の妄想力の高さには驚かせられるね。」
「そうですね、俺はそういう趣味はないですし。」
「俺は翔くんなら大丈夫だぞ。」
予想外の返答に身の危険を感じ、若干お母さんの方へ離れる。
「…遠慮します。」
「ふはは、冗談に決まってるだろ!」
「ですよね。(この人苦手だなぁ…)」
「さてと、皆揃ったんだしご飯選びに行きましょ♪」
お母さんに促され券売機に向かう為に席を立つ。
歌枕さんは茉莉姉を連れて普通に向かったが、俺は校内見学と同じ様にお母さんと保護官達に囲まれ更に來未姉さんと桜ちゃんがお母さんの前に行き女子達が不用意に俺に近付かない様に道を作っていた。
「ふわぁ~、すごい量のメニューだねお母さん!!」
券売機の隣にタ○ンペ○ジより分厚いメニューが置いてあり、券売機の画面にも和洋中の他にイタリアン.フレンチ.アジアなど様々な料理のジャンル毎に選べる様になっていた。
「ん~、逆にメニューが多すぎて決められない…」
「好きなの選んで良いよ翔ちゃん、食べきれなかったらお母さんが食べてあげるから♪」
「それなら、今日は俺と同じのを注文するか?」
「一三さんは何を頼むんですか?」
歌枕さんが馴れた手つきで券売機を操作していく、何故かメニュー一覧の端にあった男子なるジャンルを選び歌枕を選択する。
何故そんなメニューがあるのだろうかと覗いていると歌枕セットと書かれた券を手渡される。
「何ですか、歌枕セットって…」
「これは男子がいつも頼むメニューを簡単に注文出来るようにって食堂の人達が作ってくれたんだ、まぁ男子限定って訳じゃないからな女子も頼む奴が多いらしいが…俺のを頼んでる奴は見たこと無いんだよな。」
「それって…、茉莉姉大丈夫なの?」
「ん~、一三のはちょっとね~女子が見てもかなり量があるからね。」
「そうか?
これぐらい喰えなきゃ茉莉達の相手が出来ねぇだろ。」
「僕からしたら、僕達を相手に出来る方が不思議だと思うけどね。」
「まぁ、出てきてからのお楽しみってのも良いだろカッカッカッカ!」
一三さんは高らかに笑いながら食堂のおばちゃんに食券を渡して席に戻っていった。
「それじゃあ、僕もいつものハンバーグセットで良いかな。」
「じゃあ、私は翔が食べきれないだろうからお母さんと余ったの貰おうかな。」
「桜ちゃんは何にしたの?」
「私はハンバーガーセット!!」
「ハンバーガーセットもあるのか…」
保護官三人も俺の保護官という事で特別に食堂の利用を許可されていた様で、黛さんはミートソーススパゲッティセット、廿楽さんは鮭の塩焼き定食、弘原海さんはランプステーキセットを頼んでいた。
「あんら!
初めて見る子だね!!」
「はじめまして!
コレお願いします!」
「はいよ!!
って、一三ちゃんのセットかい!?
あぁ~、だから珍しく一三ちゃんがご機嫌だったんだねぇ…
料理は席まで持ってくから席で待っててね、一緒に居る子達の分も持ってくから券預かるわよ。」
それぞれ食堂のおばちゃんに食券を渡して席に戻る、もちろん来たときと同じ様に帰る。
何名か食堂のおばちゃんに俺と一三さんが何を頼んだのか聞きに行ったが驚いた様に俺と一三さんを何度も見比べていた。
そして、3~4人ほどで何グループかに別れて券売機で注文してから席に戻る女子達も居た。
一三さん一人で食べる量のはずなのに何故…女子達が3~4人でグループを組んでいるのか…理由は明白だが、いったいどれ程の量が運ばれてくるのだろうか。
一番最初に出てきた医者以外で初めての男性キャラですよ~。
茉莉が翔の下着姿を見ても耐えられたのはこの人のおかげなのです、まぁ…夕食シーンではデレデレだったじゃないかって言われたら色々と理由があるんですよとしか言えない…