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下を見ると女子達がこちらを見上げている、餓えた獣の様な目がギラギラと光っている…
全力疾走したせいで手足が重い、そして酸欠のせいか頭がぼーっとする。
「どうしてこうなった…」
木にもたれ掛かり考える、今の状態になった原因は完全に自業自得だ。
しかし、このまま降りていって女子達に凌辱よろしく貪られるのはとてもじゃないが耐えられるとは思えなかった。
「非常に不本意だが…」
心の中で神に嫌々だが祈りを捧げる。
『えっ、居ないよりかはマシな神よ助けさせてやるって…、それは祈りとは言わないよね!?』
ッチ…、祈りの内容まで届くのか…。
「そんな事言うはずないじゃないか、俺を祝福してくれてるんだから、この状況何とかしろ。」
『うわぁ~、嫌な奴だな君は!!
もぅ、面倒だなぁ~。
って、結構な信仰集めてるじゃん…だったら歌で何とか出来るでしょ。』
「はっ?
歌でこの状態が何とかなるとでも?」
『まぁまぁ、君の知ってる歌とはちょっと違うから。
大丈夫だって、君"には"害は無いから!』
「ふぅん…」
頼ったのは良いが、やはりこの神は信用出来ない。
新しい祝福の歌を試しに歌うか悩んでいると…
『えっあ、なに?
あぁ、歌うのちょっと待って。
もうすぐその状況が解決するらしいから待ってて。』
「待っててって…誰と話してるんだよ。」
『僕の可愛い可愛いペットだよ♪』
「ペットねぇ…」
この神が飼っているペットなんてろくなものじゃないだろうと考えていると。
「ウォオォォォォ、白羽様ァアアアァア!!」
獣の様な咆哮が聞こえた、この声はおそらく弘原海さんだろうか…。
「これがさっき言ってた事か?」
『・・・・』
「おい?」
「誰と話してるんですか?」
「ひぅえ!?」
背後から突然声をかけられ、下にいた女子だと思って振り返ると少し離れた枝に黛さんが立っていた。
「ま、黛さん…いつからそこに…?」
「葵って呼んでくださいよぉ、来たのはたった今です!」
「そうですか…、独り言なんで気にしないでください。」
「はぁい♪(嘘ついてるのはわかるけど…)
それより、助けに来るのが遅くなってごめんなさい!」
「むしろ、よくこんな状況になってるってわかりましたね?」
「翔様のお母様から翔様が居なくなったと連絡があったんです!」
何故か得意気な黛さん
『あの子といい、この子といい…凄い子に護られてるんだね…』
弘原海さんの様子を見ると、弘原海さんに襲い掛かった女子達が宙を舞っていた…
逃げ出そうとした女子も弘原海さんに頭を捕まれ投げ飛ばされている…
「うわぁ~、弘原海さんも学生相手に容赦ないなぁ。」
と黛さんは言っているが、女子達を心配している様子はなかった。
しかし、こちらとしては非常に見たくない光景だった。
口から泡を出して瀕死の虫の様に手足がピクピクしている子や、頭を抱えて泣きながら失禁してしまっている子が既に何人も居た。
「のんきに言ってる場合じゃないでしょ、弘原海さんを止めないと!!」
急いで木から降りようとした時、"うっかり"手を滑らせてしまった。
「翔様!?」
黛さんが手を伸ばしたが届かない。
俺はそのまま座っていた枝から落ちてしまった、しかし地面に激突する寸前に弘原海さんに受け止められる。
「さっきから何やってんだアンタは!!」
弘原海さんにお姫さま抱っこをされた状態で睨まれる。
「…ごめんなさい。」
「怪我してるじゃねぇか!!」
落下した時に枝がかすったのか頬が少し切れていた、傷からは血が垂れる。
「てめぇら、男の顔に傷を付けた落とし前はきっちりつけてもらうからなオラァ!!」
「その傷はあたし達のせいじゃないじゃん!」
「そうよ!」
「てめぇらが白羽様を木の上に追い詰めなきゃ出来なかった傷だろ、つまりてめぇらの責任だよなぁ?」
弘原海さん雰囲気が変わると同時に、ミシリと何かが軋む音がした。
怒気と殺意を向けられた女子達はその場から逃げる事も出来ず、ほとんどが頭を抱えて涙や唾液と共に謝罪の言葉を垂れ流していた。
『あ~、もしもし?』
脳内に能天気な声が響く。
『その子止めないと血の海になるよ。
その子、黄泉の鬼の血が混ざってるみたいだから男を護るのは本能としての行動だから。
君を護ってるなら、君を傷付けた相手は絶対に許さないハズだから。
止める方法のイメージは送るから頑張ってね~、せっかく増えた信者だから減らさないでね♪』
神からイメージが送られてくる。
「弘原海さん!!」
俺は弘原海さんの首に腕を伸ばし、頭をこちらに引き寄せようとする。
しかし、力一杯引き寄せてるハズなのにピクリとも動かない。
「邪魔すんなよ、俺はコイツらからアンタを護るんだ…」
そう言って弘原海さんは俺を抱えたまま女子達へとゆっくり近づく。
「くっ!」
全力で腕に力を込めて弘原海さんの首を引き、自分の身体を弘原海さんの顔に近付ける。
そして、弘原海さんの頭を抱きしめた。
「大丈夫…、もう大丈夫だから…」
子供をあやす様に頭を撫でながら囁く。
弘原海さんの身体が1度大きく跳ね、俺を引き剥がそうと服を引っ張る。
「や…めろぉ…おれ…からはな…れ…ろぉ…」
しかし、頭を撫でる度に力が抜けていくのか。
最初は激しかった呼吸も、今は喘ぐように息をしている。
「大丈夫…、汐惠のおかげで助かったから…ありがとう…」
この言葉で弘原海さんは俺を抱えたまま膝から崩れ落ちた。
「もう大丈夫か…、なっ?」
弘原海さんの頭を解放して離れようとしたが…、ぎゅっと弘原海さんが俺を抱えたまま離さないのだ。
「弘原海さん、そろそろ降ろしてもらっても…いいかな?」
弘原海さんはハッとした顔で俺を解放して立ち上がり俺をキッと睨む。
「邪魔をするなと言ったのに、なんで邪魔をした!!」
「どう見てもやり過ぎだと思ったからだよ。」
「だからアンタは!!」
「は~いストップ、ストップ~!」
黛さんが俺と弘原海さんの側に降りてきた。
「そろそろ翔様のお母様がいらっしゃるハズですから、弘原海さんもその位にしておいてくださいね。
それに、彼女達も何とかしないとですし…。」
黛さんに言われ女子達を見ると…、全員が土下座をしていた…
「えぇ…」
その光景にドン引きしながら、廿楽さんに連れられこちらに走ってきているお母さんの姿を見てしまい、この状況の説明をどうしようか考え、どっと疲れが噴き出した気分になった。
おかしいなぁ…、まだ作品内では2日目なのに話が全然進まないぞ…。
もう少し話を短くするべきなのか…、3話で1日位の長さにするべきなのか?