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案内の最中、別館へ移動中に俺はとある物を発見する。
「あっ…あれは…、そんなまさか…普通は学校なんかには居ないハズ…」
別館へ向かうお母さん達からフラフラと離れ、ソレに近付いていく。
「やっぱり…見間違いじゃない…」
向かっていく先には巨大なケージがある、そしてそこには…
「ハシビロコウ…、ハシビロコウさんじゃないか!
なんで学校に…、しかも…ケージにネットがかかってない…脱走しないのか…?」
目の前にはハシビロコウが1羽悠然と佇んでいる、こちらは見ておらず視線の先を見ると別の校舎があった。
視線を戻すとハシビロコウはこちらを向いていた。
「おぉう…」
まるでこちらを値踏みしている様に見つめ、ゆっくりと近付いてくる。
プレッシャーを感じながらも視線をそらさずに近付いてくるハシビロコウを見つめる。
手を伸ばせば触れられる程の距離まで近付いてきた、ハシビロコウとの間には柵があるが…、ソレもハシビロコウが飛べば簡単に越えられてしまう程度の高さしかない。
ハシビロコウの美しい金色の瞳に見つめられ金縛りになったかの様に動けなくなる。
しばらく見つめ合うと、ハシビロコウが首を振りながらゆっくりとおじぎをした。
「は…?」
ハシビロコウの予想外の行動に驚く。
その行動の意味は知っていたが普通は初対面の相手にすると思わなかったからだ。
二、三歩後ろに下がりハシビロコウから視線をそらすとケージの柵に名札が取り付けられているのを発見した。
「ハシビロコウのコウさん…」
このハシビロコウの名前だろうか、ハシビロコウの絵も描いてあった。
ココココ…
ハシビロコウが名前に反応したのか、嘴を鳴らす。
しかし次の瞬間、ハシビロコウは別の場所を睨み羽を膨らませた。
視線の先を見ると体操着姿の女子生徒の集団がグラウンドを走っていた、かなり距離があって見えにくいが胸を揺らしながら走る姿はかなりグッとくるものがある。
しかし、ハシビロコウは女子達を発見して喜んでいると言うよりも警戒している様子だった。
不思議に思い様子を観察していると突然ハシビロコウから殺気を感じた、それは俺ではなく女子達に向けられているとわかり振り返る。
走っていた女子達が立ち止まり何人かがこちらを指差している。
何か話している様だ、もしや不審者と思われているのだろうかと思い笑顔で手を振ってみる。
すると後ろから激しく嘴を鳴らす音が聞こえてきた、先ほどと比べて焦りや警告してきているようだ。
まるで
『なにやってるんだバカ野郎!
女子に手なんか振ってないでさっさと逃げやがれ!!』
と言われているようだった…。
そして思い出す…ここは
貞操観念逆転世界
※※※※
「あ~、もう疲れたよぉ…」
「まだ一周もしてないでしょ。」
「ランニングよりバスケかサッカーの方が良かったなぁ~。」
「それは先生に…って、何止まってるの。」
「ねぇ…、あそこに居るの誰?」
クラスメイトが指差す方を向くとコウさんの近くに誰かが立っていた。
「えっ?
誰だろ…ってコウさんがあんなに近くに居るってことは…」
「男子!?」
「えっ嘘!!」
「でもあんな白髪の子うちには居ないでしょ?」
「でもあの制服ってうちのだよね。」
「ちょっと聞いてみる?」
先頭を走っていた女子達がどうしようかと悩んでいると、美少年(予想)が手を振ってきた。
「ねぇ、あの子…私に手を振ったよ!」
「違うしアタシにだし!!」
「はぁ!?なに言ってるのさ!」
「あんたみたいなのが近付くと逃げちゃうでしょ!!」
「だったら捕まえれば良いでしょ、もちろん早い者勝ち!」
※※※※
一気に冷や汗が吹き出す、女子を刺激しないようにゆっくりと別館に向かおうとする。
しかし、女子達もゆっくりと俺に向かってくる。
次の瞬間、ハシビロコウが羽を広げたタイミングで女子達が走り出した。
「やばい…やばいやばいやばい!!」
俺も全力でお母さん達に合流する為に別館へ走り出す、しかし"運悪く"別館の入口にも女子が5人ほど居た。
「くっ!」
助けを求める選択肢もあったが、後ろから追ってきている人数には勝てないだ。
それに、助ける(意味深)な事になる可能性の方が高い。
「(何処か避難出来る場所は!)」
走りながら回りを見渡すが見つからない、後ろを見ると女子達はもうすぐそこまで近付いてきていた。
チラッとしか見えなかったが、体操着が汗で肌に張り付きブラが透けている姿はとても魅力的だっただろう、こんな状態でなければ!!
サービスカットのはずがピクリともしない…、そんなフレーズが一瞬浮かんだがすぐさま思考を切り替える。
「もう…限界だぞ…。」
避難場所が見付からず女子達も振り切れていない状態でついに覚悟を決めようとした瞬間、視界の端にハシビロコウが見えた。
ハシビロコウは巨大な木を囲むようにベンチが置かれた中庭に降り立ち、俺と目が合った後に木を見つめた。
「(あの木に登れって事か?
しかし、もう迷っている暇は…ない!)」
最後の力を振り絞り木に向かって走り出す、ハシビロコウを横目に通り過ぎてベンチを踏み台に木へと跳ぶ。
木に届くかは賭けだったが、見事に木の枝に着地した。
「(跳んだ瞬間、羽のはばたく音が聞こえたが…)」
慎重に木を登りながらハシビロコウの方を見ると…
「(こっ…コウさん!!)」
ハシビロコウのコウさんは女子達に立ち塞がる様に翼を広げていた、おそらく先ほどの音はコウさんが威嚇の為にはばたいたのだろう。
女子達がコウさんに接近する…、俺はコウさんの覚悟を無駄にしないためになるべく上の安定しそうな枝を目指す。
※※※
「コウさん!?」
「動物委員、またコウさんが逃げてるよ!」
※※※
登りながら、コウさんの様子を確認すると…
「(えぇ…コウさん…)」
女子達はコウさんの広げた羽を避けるように回り込む子や羽の下を潜り抜ける子ばかりで、足止めの意味は無さそうだった。
「はぁ…、とりあえずここまで登れば大丈夫かな…」
かなりの高さまで登った、だいたい校舎の二階より少し高い位だろうか。
下を見ると女子達が木の下で俺を見上げていた。
「どうしようか…、とりあえずお母さんに連絡を…って!!」
ポケットからスマホを取り出すのに失敗して落としてしまった。
その結果、女子の一人が見事にキャッチして周りの女子と取り合いになっていた。
俺は一人頭を抱え、現実逃避の為にコウさんの方を見ると…。
「・・・・・」
女子数名に簀巻きにされていた。
日常茶飯事だとでも言うように馴れた手つきでコウさんを簀巻きにしていく女子。
『へへっ…、わりぃな兄弟…シクッちまったぜ…』
コウさんの目がそう語りかけてきている気がするが、まんざらでも無い気がするのは何故だろう…。