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片喰との通信を終えた、朝からどっと疲れた。
気分を変えるために歯を磨いてシャワーを浴びる。
さっぱりしたところでキッチンに向かい、冷蔵庫の中をチェックする。
とりあえず朝食用に食パンを取り出す。
食パンはサンドイッチとトーストのどちらで食べようかと考えたが、サンドイッチを作るには具材を作るのに少し時間がかかりそうなので今日はトーストにすることにした。
サラダはカット済みのがあったのでそれをボールに盛り付ける。
「おかずは何にしようか…。」
チルド室を確認するとポテトサラダが入っていた、これがあるならサンドイッチでも良かったが、既に俺の腹はトーストを求めていた。
卵もあったので、おかずはスクランブルエッグとポテトサラダで決まりだ。
目玉焼きは個人的にあまり好きではない。
ポテトサラダを人数分開け、お皿盛り付けていく。
後はスクランブルエッグとトーストを作るだけだが。
まだ、お母さん達は起きてくる様子はなかった。
時間は七時を少し過ぎたくらい、普段は朝御飯は食べないのだろうか…。
だが、せっかく準備したのだから今日くらいは食べてもらおう。
「しょうがないから起こしてくるか…。」
一階のお母さんの部屋に向かう、一応ノックをして声をかけるが反応はない。
そっとドアを開けて中を覗く、やはりまだ寝ているようだ。
とりあえずカーテンを勢い良く開けお母さんの反応を伺う、少し眩しそうにして寝返りをうっただけだった。
ここで俺の中で二つの選択肢が浮かぶ。
1・やさしく起こす、肩をゆするなりして目を覚まさせる。
2・イタズラして起こす、具体的にはボディープレス。
迷わず2を選択、すぐさま行動。
お母さんをそっと上向きにする、起きそうになったが問題はない。
「お母さん朝だよぉ、起きてぇ!!」
お母さんの胸に向かって飛び込む、しかし予想以上に俺の体重は軽かった。
ポフッと軽い音で受け止められてしまった、そしてやはりお母さんの胸は柔らか…ではなく目を覚まさなかった。
仕方ないので胸に挟まる様に顔を置いてお母さんの頬をムニムニして遊ぶ、するとお母さんが目を覚ました。
「お母さんおはよう。」
「えっ…、おっおはよう…?」
「朝御飯作ったから早く起きてきてね。」
「朝御飯…?
えっ!? 翔ちゃんが朝御飯作った!?」
「早く来ないと冷めちゃうからね~。」
まだ状況が理解できてなかった様だが目はばっちり覚めたはず、そのままお母さんを残して部屋を出る。
次は來未姉さんだ、二階に上がり來未姉さんの部屋をノックする。
やはり反応はない、みんな朝に弱いのだろうか?
そっと部屋に入る、先ほどと同じようにカーテンを勢い良く開ける。
やはり起きそうにない。
やはり、お母さんと同じように起こすか。
しょうがないよね、起きないのだからしょうがない。
既に上向きで寝ている來未姉さんの胸めがけてダイブする。
「來未姉さん、朝だよぉおお!?」
飛んだ瞬間、寝ていたはずの來未姉さんの目がカッと開かれ掛け布団が中を舞う。
空中で逃げ場のない俺はそのまま來未姉さんの腕の中へ、そして俺を受け止め(捕まえた)た來未姉さんの上に再び掛け布団がかかる。
「しょうきゅんは悪い子だなぁ~、寝ているお姉ちゃんにイタズラするなんてぇ~。」
「あわわわ…」
「ん~、しょうきゅんは柔らかいし良い香りがするなぁ~。」
「あっ、はっ…ダメだって…ちょっ…く…來未…姉さん…」
掛け布団で視界が遮られた状態で來未姉さんの手が触手の様に身体をまさぐる、逃げようにも足でガッチリ捕まえられているので逃げられない。
このままでは色々とまずい、R18な展開になってしまう!!
個人的には歓迎だが、時と場合を考えると今じゃないと本能が告げている。
「來…未姉さん…あっ…朝……ご飯が…冷めちゃう…よ…」
冷めるものはまだ作ってない。
「んふふ…、しょうきゅんが朝御飯でしょ~、ほら…ここは冷めるどころか熱々に…」
本格的にまずい、來未姉さんの手がさわさわと下腹部に伸びていく。
本気で脱出しようともがく、が凄まじい力で押さえつけられて逃げられない。
もう駄目だと思った瞬間、掛け布団がめくられる。
そこには呆れ顔の茉莉姉が立っていた。
「朝から何やってるのさ、來未姉さん…」
「あれぇ…、何で茉莉が夢に…?」
「夢じゃないよ來未姉さん、早く翔を離して起きて。」
「え…夢じゃ…な…い…。」
來未姉さんは恐る恐る俺を解放して起き上がり、真っ青な顔で俺を見た。
「お…おはよう翔くん…」
俺は必死の抵抗の代償でベッドに倒れこんでいたが、來未姉さんの方を向いて一言。
「ひどいよ來未姉さん…、優しくするって言ったのに…」
「カハァッ!!」
來未姉さんが膝から崩れ落ち、茉莉姉が冷ややかな視線を向けていた。
このまま來未姉さんのベッドで休んでても良いが、俺には朝御飯を作るという使命があるのだ…
まだ手足に力が入りにくいが、なんとか立ち上がりふらつきながらドアまで辿り着く、來未姉さんはまだ呆然としていた。
「來未姉さん。」
名前を呼ばれてビクッとする來未姉さん、恐る恐る青い顔をこちらに向けてくる。
「朝御飯、來未姉さんの分もあるからね。」
俺は笑顔で言った、イタズラするつもりで飛び込んだのだ、逆にイタズラされたから不機嫌になるのは理不尽だ。
「翔くん…」
若干泣きそうになってたが、それでも明るい顔に戻ってくれた。
茉莉姉は不満そうだったのでフォローしておこう。
「茉莉姉も一緒に行こ?」
茉莉姉に手を繋ぎたいとアピールする、恥ずかしそうに出してきた手を引っ張り腕にしがみつく。
「なっ!?」
「ねっ、桜ちゃんも起こしてご飯食べちゃお。」
予想外の行動に顔を紅くした茉莉姉を連れて桜ちゃんの部屋に行ったが、既に桜ちゃんは起きて着替えも終えていた。
「おはよう桜ちゃん。」
「桜ちゃんおはよう。」
「おはようお兄ちゃん、茉莉ちゃん。」
「朝御飯、桜ちゃんの分も出来てるからね。」
「えっ、お兄ちゃんの手作り!」
「そうだよ~!」
手作りと言っても今から作るスクランブルエッグだけだが。
「一緒に行こうか。」
「うん!!」
茉莉姉の腕にしがみついたまま桜ちゃんと手をつなぐ、階段ではさすがに三人は並べないので仕方なく一人ずつ降りた。
「それじゃあ、今からスクランブルエッグ作るからテーブルに座ってて。」
既にお母さんは座って待っていたので、茉莉姉と桜ちゃんも席に座って待っててもらう。
俺はトーストを焼いてる間にスクランブルエッグを作り始めた。
「まさか、翔ちゃんが料理出来るなんてね…。」
「本当だよね、記憶喪失になる前は料理なんてやらなかったのに。」
痛い所を突かれた、確かに奴が料理などするはずが無い。
どうやって誤魔化すか…。
「キッチンに立ったら浮かんできたんだよ、だからお母さん達に食べてほしくて。」
我ながら苦しい言い訳だ、しかし思ったより効いた様でお母さんは少し涙を浮かべて。
「まさか、翔ちゃんがそこまでお母さん達の事を大切に思ってくれていたなんて…」
お母さんが喜んでくれて嬉しいが、奴の株も上がるのは気にくわなかった。
実際に奴はお母さん達対して何の感情も抱いてなかったのだから。
「ほら、出来上がり!!
來未姉さんが来てないけど冷める前に食べて!!」
スクランブルエッグを盛り付けトーストと一緒に配る。
「「「いただきます!」」」
「どうぞめしあがれ。」
お母さん達が食べはじめてしばらくしたら來未姉さんも降りてきた、少し気まずそうに俺を見ていたが來未姉さんの分も盛り付けて手招きすると嬉しそうに席についた。
トーストも良い焼き加減でスクランブルエッグも味付けは塩とバターだけだが好評だった。