22
まだ明るくなる前に目が覚めてしまった。
スマホで時間を確認すると6時だった、二度寝も考えたがすっきり起きれたのでこのまま起きることにした。
ベランダに出て風にあたる、やはりまだ肌寒いが爽やかな春の香りがして心地良い。
ベランダの片隅に花が一輪落ちていた、茎の切り口がきれいに切られている。
「誰が置いたんだろう…」
その瞬間、複数の視線を感じる。
こちらを観察するような視線、ねっとりと絡み付くような視線。
視線の主を探して周囲を見渡していると、ベランダに鳥が一羽とまった。
何故だかわからないが、この鳥から嫌な雰囲気というか無性にむかつく視線を感じる…。
スマホに着信が入る、見覚えのある番号から着信。
正直出たくはないが出ないと何度でもかかってきそうだ。
「もしもし…、朝っぱらからなんの用だよ。」
『も゛じも゛じ、白羽君?』
片喰は完全に寝起きの声だった。
『早起き過ぎだよ…』
「そっちが勝手に電話してきたくせに、何で文句言われなきゃいけないんだよ。」
『君が起きたら知らせるように設定しといたんだよ、ふぁあ…。
とりあえず、目の前に鳥が居るでしょ、手出して。』
しぶしぶ鳥に手を出すと、鳥が掌に小さなボタンの様な物を吐いた。
「…、なにこれ。」
『それは僕が造った超小型通信機だよ、骨伝導スピーカー内蔵だから周りに僕の声は聞こえにくいはずさ。』
「それもだけど、この鳥は。」
『それも僕が造ったロボットだよ、外の様子とか見るために造ったんだよ。
まぁ、これからは君を観察する為に使うけど。』
瞬間、即座に鳥型ロボットを捕まえようとしたが、予想していたのか逃げられてしまった。
「…良い趣味してるぜ。」
『まぁまぁ、君に危険が及びそうになったら教えてあげるよ。
それを耳の裏の辺りに着けて、耳たぶじゃなくちゃんと骨がある部分ね。』
片喰の指示通り左耳の裏に貼り付ける。
「つけたぞ。」
『そしたらぁ~、今から通信機の方に連絡するから、コールが鳴ったら通信機を押さえてね、そうすれば出れるから。
あ、通信してる間は離さないでね、離すと切れちゃうから。』
「出たくない場合は。」
『ん~、どうだろねぇ?』
「まぁ、押してすぐに離せば切れるんだろうけど。」
『そんな…、ひどい!!』
電話が切れた、そしてすかさず通信機からコール。
通信機を押してすぐに離す、やはり切れたか…。
が、すぐにコールが鳴った。
「なんだよ、あんまりしつこくコールするんだったら通信機外すぞ。」
『いやいや!白羽君の為でもあるんだぞ!!』
「俺の為って何だよ。」
『さっきの鳥型ロボットで周囲を監視して不審者がいたらこっそり教えられるじゃないか、てか既に何人かに見られてるよ?』
確かに、未だに複数の視線は感じている。
「具体的に何処から。」
『えっとね、家の近くに何名か居るね。』
ベランダから周囲を確認するが、誰も見当たらない。
「居ないじゃないか。」
『そりゃ、君に見つかったら通報されるじゃん。』
「いまいち信用できないなぁ、今までがなぁ。」
『しょうがないなぁ、そこら辺に花が落ちてるでしょ。
その花の香りを嗅いだ後、ベランダから道路に投げて、出来るだけ離れた位置に投げてね。』
しぶしぶ片喰の指示に従う、花は金木犀に似た甘い香りだった。
好きな香りだったので名残惜しいがベランダから道路に投げる、ダーツの様に投げたおかげで緩やかに回転しながら飛んでいく花。
すると何処に隠れていたのか、女性達がその花に殺到する。
だいたいの人はジャージだが、三名ほどスーツの女性が居た。
というか…、あれは本当に俺が知っている女性だろうか。
ひえぇ、若干目が紅く光ってない?
三階といってもアレが本気を出したら簡単に登ってくるんじゃ…、戸締まりしとこ…。
『ねっ、女性って恐いよね~僕が把握してた人数より多かったよ。』
「俺も、感じてた視線以上だった…、だけどなんであんな花を奪い合ってたんだ?
もしかして、男性から受け取ると結婚出来るとかじゃないだろうな!」
『あはははは、違うよぉ。
さっき匂い嗅いだじゃん、アレさぁ下から見ると君が花にキスした様に見えるから。』
つまり、あの女性達は俺がキスをした様に見えた花を奪い合ってるのか…
窓からそっと道路の様子を伺う、既に誰も居なかったが服の切れ端や血溜まりだけが残っていた。