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ひとしきり泣いて落ち着いた…、涙脆い方だとは思っていたがここまでとは…
泣き出してからずっとお母さんと桜ちゃんはオロオロしていたし、來未姉さんと茉莉姉はお母さんを責めるような視線を送っていた。
「ごめんなさい翔ちゃん…」
「なんで謝るの、お母さん…」
「だって、翔ちゃんの気持ちも考えないであんなこと…」
「違うよお母さん、嬉しくて泣いちゃったんだよ。」
「本当に?」
「本当だよ、だから敬語使ってないでしょ?」
「あっ…」
今度はお母さんが泣き出してしまった…。
このままではお寿司が乾いてしまう…、恥ずかしいがここは切り札を使うか。
「お母さんお母さん、こっち向いて。」
「ふぇ?」
まだ泣きながらもこっちを見たお母さんの顔をぎゅっと抱きしめる、この時点でお母さんは驚きで泣き止んだがまだ離さない。
そっと、右手でお母さんの頭を撫でてお母さんが今の状況を理解してきた頃に。
お母さんの頭を撫でる手を左手に変え、頭を撫でながら姉さん達から見えないように右耳元で「ママ、大好き…」と小声で言った。
「はわわわ…、翔ちゃん…」
お母さんの頭が抱いていられない位熱くなる。
お母さんを解放して椅子に座り直す、お母さんの顔を見ると耳まで真っ赤になっていた。
若干、身の危険を感じる目付きになっていたが理性が勝ったようだ。
姉さん達も少し頬を赤くして俺を見ていた、桜ちゃんは羨ましそうに俺を見ながら裾を握っていたのでとりあえず頭を撫でておく、うん…可愛い。
その様子を見ながらモジモジしていた來未姉さんとそわそわしている茉莉姉。
「ほらほら、お寿司食べようよ!」
あえて、スルー。
二人とも明らかに落ち込んでいる、だがスルーしたのには訳がある。
「來未姉さん、お寿司取ろうか?
届かないのもあるでしょ、何が良い?」
「じゃあ、玉子と…」
「玉子だね、はいあ~ん。」
「へぇっ!?」
「ほらあ~ん。」
「あ~ん…」
「美味しい?」
「凄く美味しい…」
「茉莉姉どうしたの?」
「いっ、いや…僕にもお寿司取ってほしいなぁ~なんて…」
「いいよ、お皿貸して。」
「えっ!?あっ、うん…」
更にがっかりする茉莉姉。
それを気にせずに適当に何貫かお皿に乗せていき、茉莉姉の所まで運んでいく。
「ありがとう…」
「ほら、茉莉姉もあ~ん。」
「んぇ!! って…、手で!?」
「ほらほら茉莉姉、早く食べないと崩れちゃうよ!」
「でっ、でも…手でなんて…。」
「いらないなら桜ちゃん食べ「あ~ん」、はいどうぞ♪」
お寿司を摘まんだ指ごと茉莉姉の口の中に入れる、なかなか口を閉じようとしない茉莉姉。
「茉莉姉、ん」
「へっ…へも…」
「いいから。」
「んっ…」
指に付いた米粒もしっかり舐め取った茉莉姉は真っ白に燃え尽きていた。
でもせっかくなのでお皿に取った分だけは食べさせてあげた。
その後は、茉莉姉以外にあ~んをしたりねだったりしながら食べた。
食べ終わる頃には俺以外が放心状態だったので寿司桶を軽く流して玄関前に待機していた配送君に渡した。
受け取りは自動なのか電子音声で『またのご利用をお待ちしてます。』と言って飛んでいった。
リビングに戻ると全員が正気に戻っていたのでとりあえず自室に戻ることに。
そして、先ほどまでの自分でも信じられない恥ずかしい行動を思いだしベッドで悶えるのだった…。