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お母さんと共にインターホンに映っていた女性がリビングに入ってくる。
姉妹は入ってきた女性を見て驚いた表情をしている一方、保護官の三人は顔を真っ青にして小さく縮こまっている。
入ってきた女性と目が合うと何故か優しく微笑んできた。
「紗季から翔ちゃんが事故にあったとか記憶喪失になったとか言われた時は目の前が真っ暗になったが、元気そうで安心したよ。」
そう言いながら俺のそばまで来たと思ったら、優しく抱きしめてきた。
突然の抱きしめられた事と顔で感じる柔らかさで俺は腕の中で混乱していたが、女性の温もりと香りに何故か安心してしまい、無意識の内に目を閉じて女性の胸に顔を埋めていた。
「ちょっと舞姉さん!!翔ちゃんから離れて!!」
「なんでよ~、珍しく翔ちゃんが抱き締められたのに暴れないんだぞ~。」
お母さんが女性の事を舞姉さんと呼んだ。
それと同時に抱き締める力が強くなる。
「今日はお仕事で来たんだから部下の前で保護対象にそんなに接触しちゃダメでしょ~!!」
「いいの~、翔ちゃんは特別なの~!!」
「(マズイ、このままじゃおっぱいに埋もれて窒息するっ!!)」
そう思った俺は必死で脱出を試みる、柔らかさと香りは名残惜しいが…。
と思ったらあっさり解放された。
「ごめんね翔ちゃん、紗季が意地悪言ってきたからつい力が入っちゃったよ。」
「翔ちゃん大丈夫?」
「大丈夫お母さん、舞さんも大丈夫ですよ。」
その言葉でお母さんは安心したようだが、舞さんは悲しいような嬉しいような微妙な表情になった。
「記憶喪失ってのは本当なんだね。」
「電話でも言ったじゃない、それより聞いてないわよ再テストがあるなんて。」
「再テスト? なんの事?」
三人が滝のように汗を流し始めた。
「七御さん「はい!」植野さん「ひゃい!」梅井さん「はい。」
再テストとはどういう事かな?」
舞さんは笑顔だが目が笑ってない。
七御さんが恐る恐る話始める。
「一度は保護指定を拒否または対象から外れた場合、再度保護を受けるには再テストを受けなければならないと…」
「そうね、だけど翔ちゃんはまだ対象から外れてない。」
「聞いてません。」
「担当から外れた保護官に伝える必要はないよね?」
「ですが!!」
「それに、本部から再テストの要請は受けてないはずでしょ。」
「それは…」
「舞さん俺は気にしてませんから。」
「翔ちゃんがそう言うなら…
それで貴女達、再テストは行った結果は?」
「それが…」
七御さんの手元に転がった解きかけのスパイキューブに視線が集まる。
「なんで七御さんの手元にスパイキューブがあるのかな?」
七御さんが泣きそうな顔になり、再び舞さんの尋問が再開され同じ様なやり取りが始まった…
一応、この三人が保護官の偉い人です。
ただし、舞さんはもっと偉い人です。
その辺の話もいつか出来れば良いなぁ。