新・新人類
第129回フリーワンライ
お題:
触れた甘さに酔いしれる
キスして、溢れた、涙と想い
フレーバーティーの香りで酔わせて
死と苦しみが渦巻く地
とある男女の邂逅
フリーワンライ企画概要
http://privatter.net/p/271257
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
かつて、完全な人類を創造する試みがあった。
*
白を基調とした建物に、砂埃にまみれたハンヴィーが乗り付けた。軍用車からフル装備の歩兵が降車する。
ラスベガスの外れにある結婚式場。金と欲にまみれた男女が、一夜の情欲の果てに人生を踏み外す場所である。
「生」の始まりの式場に、「死」の匂いが染みついた男たちが詰め寄る。
兵士がホールを横切る前に、黒服のスタッフたちが飛び出してきた。一瞬兵隊を見たスタッフは、ぎょっとして立ち止まるが、職務を遂行するために前に出て、
「今日は特別なお客様の貸し切りです。お引き取りください」
と慇懃に告げた。
歩兵の視線が一人に集まる。隊長。
「こいつらは知らん。だが時間がない。なんとしても結婚を阻止しなければならない――やれ」
号令一下、轟音と共にスタッフが蜂の巣になる。
隊長のサインで十数名の男たちが三手に別れた。A班が先行し、B班はホール及びセキュリティの制圧。C班はそれらのバックアップだ。
A班の行く手に黒服が現れる。だがその手には、要人警護用のケース型短機関銃があった。ケースの銃口から曳光弾が放たれる。A班は素早く散開し、物陰で体勢を立て直した。黒服の後ろから防弾チョッキと軍用ライフルを手にした増援が迫ってくるのが見えた。
隊長、と歩兵の一人が無線に呼びかける。
『発砲許可。立ち塞がる脅威を全て排除しろ』
「了解」
小隊の構えたFN SCAR-Hが連続して無慈悲な咆哮を上げる。7.62mm NATO弾の雨が防弾チョッキのごと敵対勢力を薙ぎ倒した。
敷地を制圧した全班は、最奥にある白亜の教会に集合した。完全防音の施されたチャペルに外の様子を察知した気配はない。閉め切ったそれは、外敵に対して殻を閉じる砦のようでもあった。
「A、B班は正面から、C班は裏口に回れ。ゴーゴーゴー!」
素早く展開する。
各所の扉は固く閉じられていたが、“マスターキー”の前では用をなさない。蝶番を吹き飛ばして中に飛び込む。
教会内は、今まさにフィナーレの瞬間が訪れようとしていた。
誓いの口付け。
「そのキス待て!」
遅かった。
二人の完璧な男女が、互いの唇に甘く触れ合う。
*
かつて、完全な人類を創造する試みがあった。
遺伝子操作で完璧なつがいの男女を生み出す計画だ。
完璧な肉体、至高の知性、最高の環境。
二人は互いを知らないまま離れて生育させる。十八年経過した時、劇的な出会いの演出がなされ、恋に落ちて結ばれるプログラム。
もちろん賛否があった。
二人を別々の環境に置くのは、過激な反対派から守るためでもあった。
計画は順調に推移し、予定通り完全な二人は、ラスベガス郊外で式を挙げることとなった。
だが計画は完璧ではなかった。
抜け穴があったのだ。外向きの防備ばかり気にして、内側の警戒を怠ったのだ。
過激な賛成派、つまり計画の原理主義者の存在。
彼らは考えた。完全なる人類が唯一無二となるための方法を。
*
感極まった二人の目から、涙がこぼれ落ちる。キスを介して、完璧な男女の唾液交換が行われた。
それが引き金だった。
制止した隊長の視界の端で、参列者や隊員がバタバタと倒れていく。
教会の一番奥で、白い二人だけが立っている。
隊長は不意に何かの香りを嗅ぎ取った。男女の方からふわりと漂ってくる。ベルガモットの香り。そのせいか、飲酒したように天地が揺れるのを感じた。
いや、違う。ベルガモットではない。もっと、温かな、お茶――アールグレイ……
隊長の思考は最後まで続かなかった。
――彼らさえいれば、人類など必要ない。
それは、ほとんど狂信的な原理主義者が密かに組み込んだ、旧・新人類を抹殺するウィルスだった。
『新・新人類』了
うーん。なんかいまひとつ文章が熟れてないな。どうした俺。久しぶりのまともなワンライで勘が鈍ったか。
いや、一応、なろうに投稿してないだけで、ツイッター140字でワンライ参加とかしてたんですけどね。