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薄紫色の栞  作者: 夏川圭
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プロローグ

障子窓から月の光が射し込む。

僕は優しい光で目を覚ます。

まるで光の主に誘われるように窓辺に寄った。

銀色の光に照らされ、紅く染まる桜の花びらが舞う。

その桜の樹の下で君は泣いていた。

それが葵との初めての出逢いだった。




この学校の美術室は3階の最南端に位置し、音楽室の隣にある。 それは同時に1階の職員室から最も遠い場所にあるということだった。 それが唯一の特権であり、隠れ宿としての機能を持っていた。

高校3年の春の放課後、僕はその隠れ宿に呼び出された。古風にも下駄箱に手紙が遺され、見慣れない丸びを帯びた文字で記されている。

『神野先輩、5時30分に美術室で待ってます』

手紙の封筒の右下にA.Kより、と宛名が記されている。イニシャルを見てもピンとこない。ピンとこないが、1、2年の女子であることは間違いないだろう。腕時計を見ると6時を回っている。流石に誰とも存じない相手にこれ以上待たせるのも忍びないと思い、3階の孤島へと向かった。2階の階段を登る途中、聞きなれた声が上から降ってきた。少しハスキーでゆったりした話し方。こっちはピンとくる。間違いなく幼馴染の唯の声だ。一緒にいるのは生徒会長の吉川昇。インテリメガネの秀才で少し苦手なタイプ。唯はようやく俺に気づき話しかけてきた。


『アレ、リョウそんなに急いでどこいくの?』

『美術室。ちょっと野暮用で。そういや後で、園田家顔出すわ』

『えー美術室!えっうん、えーと、そしたらお菓子準備しとくねー』



あまり状況を理解してない唯を尻目に、先を急ぐ。3階に階段を登り始めると、フルートの演奏が聴こえてきた。フロアまで登ると、一年生らしき女の子が美しい音色を奏でている。そんな甘い雰囲気を遺して、図書室の前を通り、ようやく美術室についた。









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