ハレー族
21世紀の半ば。地球の人口は遂に100億人以上になった。
急激に人口が増えたことにより、住むところが狭くなった人類は、過去の人が残そうと努力してきた自然を破壊し、住処を広げた。森林は伐採。沿岸の海を埋めたり、海の真ん中に人口の島を作り上げたり、領土を増やした。
そのせいか、地球の環境は更に悪化した。ゲリラ豪雨、そして洪水。各地で起こる異常気象。気温上昇による環境の変化、人間ではなく、生息地を増やした熱帯の虫がもたらす病原体が、世界で流行する。
増加の一途をたどっていたが、一時期は数千万人の死者が出て、減少の一途もたどったが、目まぐるしい発展を遂げた人類の科学力によって、すぐに病は終息し、再び人類は増加の一途をたどって行った。
そんな人類の危機的な状況を乗り越えた、数十年後の8月15日の日本。
その日は終戦記念日。首都東京で戦争で亡くなった人たちを弔う集会が行われていた。
集会は順調に進み、皆で黙祷を捧げているとき、出席していた大臣が急に、胸から血を流して、間もなく死亡。
集会場はざわめき、混乱している中、会場のステージに一人の少年がマイクを握った。
「やあ。人間共」
闇のような黒くて長い髪に、血のような赤い瞳を光らせ、ざわめく会場を黙らせた。
「その人間を殺したのは、僕。証拠は、この赤く輝く手が証拠だ」
この少年は、手で大臣の胸を突き刺した。手をナイフのように鋭く、そして相当の力でやらないと、普通は体を貫く事は出来ないだろう。だが、この少年はやって見せた。
真っ赤に染まった手を見た人々は絶叫し、そして大混乱。多くの人は会場から逃げようとしたが、出口付近にいる警備員には、人々を避難させるどころが、いきなり銃で発砲し、更に犠牲者を増やしていた。
「国民を差し置いて、自分の命の方が優先なのかな? 内閣総理大臣?」
この国のトップ、藤原総理大臣は、多くのSPに厳重に警備されながら、集会の参加者よりも先に会場を出ようとしていた。これが国の上に立つ者の行動だろうか。
「平気に敵前逃亡する君と話しても、無駄のようだ」
少年は指をパチンと鳴らし、そしてSPは守っていたはずの総理大臣に銃口を向け、そして一斉に総理大臣は銃で撃たれ、蜂の巣のように体中はたくさんの穴が開き、体中の血を出して倒れた。
「ご苦労」
少年は、総理大臣の首をむしり取り、片手で総理大臣の生首を持って会場を出た。
「初めにしては、少し物足りないかもしれない」
右の人差し指を会場に向け、人差し指から一筋の光を放つと、会場は大爆発を起こし、そして黒煙と炎が立ち上がった。
「やあ。歓迎するよ」
少年が立ち上がる炎を眺めながら、しばらく待っていると、大爆発の騒ぎに駆けつけた、警察や消防署員ではなく、テレビ局や新聞などのマスコミが、少年に向けてカメラや写真を撮っていた。
「まず、これを君たちに返すよ」
そう言ってマスコミに向けて投げつけたのは、総理大臣の生首だった。多くのマスコミは、一瞬悲鳴を上げたが、すぐにカメラを回し、写真を撮っていた。
「日本国にいる人間に告げる。僕たちはハレー族。君たちで言うと宇宙人に当たる」
そしてハレー族の少年は、再び指をパチンと鳴らすと、少年に操られた警察官がマスコミに銃口を向けていた。
「そして僕たちが、地球に住む人間を一人残らず殺す。まずはこの日本国民、全員を抹殺する」
そして警察官は、マスコミに向けて銃を乱射して、そしてマスコミの人々を殺すと、警察官は自分を銃で撃ち抜き、自ら命を絶った。
この警察官、そして会場にいた警備員、SPはハレー族が作り上げたスライム状の生物兵器で、人の中に寄生し、人間を操っていた。人間を殺すには、これが最適だと、ハレー族は考えた。
日本にハレー族と言う宇宙人が総理大臣を殺し、ハレー族が日本人を無差別に殺害されていることは、すぐに世界中に知れ渡った。
総理大臣が殺されたことにより、すぐに副総理が指揮を執って、ハレー族に立ち向かったが、ことごとくやられて、自衛隊も全滅。他の国から派遣された軍隊も、全く歯が立たず、すぐに全滅してしまった。
最新の武器や、戦車。戦闘機でハレー族を攻撃したが、それらは全く通用せず、ことごとくやられた。国連では、ハレー族を倒すために、核兵器を使用しようという話も出たが、それはすぐに取りやめになり、空爆や地上戦で戦ったが、それでも勝つことは出来なかった。
しかし殺されるのは、日本人や、戦闘に来た海外の軍人のみ。
日本以外の国が攻撃されることもなく、日本と関われば殺されないと。変な思想も出来てしまい、数週間で世界中の人は、ハレー族と戦うことを諦めた。
どうせ殺されないなら、大人しく静観して見過ごしていた方が良いと。世界は日本人を見殺しにすることにした。
8月15日から、平和だった日本がハレー族が来たことによって、一瞬で地獄と化した。その日から毎日のように、日本人は大量に殺されて、町中は血に染まり、死体が転がっている国になった。
それを見た人類は、ハレー族を『ヒューマンキラー』と呼ぶようになった。
ヒューマンキラーは老若男女問わず、小さい子供、赤ん坊、高齢者も容赦なく殺し、あっという間に人口は減っていった。
「……おかあさん。……まだ、あるくの?」
「……疲れたなら、おんぶする?」
「……ううん。……がんばってあるく」
ヒューマンキラーの殺戮活動が始まって、数ヶ月。東京から命からがら逃げてきて、そして血に染まった里中の風景で、とある少女と母親が会話をしていた。
「美花。腹減ったか?」
「うん……」
「なら、家から持ってきた、ビスケット食べるか?割れているが、味はそのまんまだ。どうする?」
「……うんっ!」
美花は、嬉しそうに割れたビスケットを父親からもらい、大事そうにちびちびとビスケットを齧っていた。
彼女の名前は華原美花。
この時、まだ4歳で、日本がどういった状況が分からないまま、ヒューマンキラーに襲われて以降、日本各地を逃げ回っていた。
「……もうなくなっちゃった」
美花がしょ気ていると、美花の父親は美花を肩車をした。
「大丈夫だ。次の安全な町に着いたら、何枚でもビスケットをやるよ。まだたくさんあるからな。だから、もう少し頑張れるか?」
「……うん!
このような過酷な状況でも、父親の肩車をうれしく思い、現実を知らず、無邪気に笑っていたが、父親は日々やつれ、疲れを隠せなくなってきた時、父親は襲われかけた母親をかばって、スライムに寄生された人間によって殺された。
父親が殺されても、美花と母親は、全国各地を逃げ回ったが、心身ともに限界が達していた。
食事もまともに出来ない。いつ殺されるか分からない状況、そして父親を殺された2人が、もう限界だった時、突如ヒューマンキラーは、約1年近く続いた日本人の殺戮活動を中止した。
当時、日本の人口は8000万人いたが、今回の出来事により、遂に5千人を割り、その殆んどがヒューマンキラーに殺されてしまった。
「僕たち、ハレー族はこれによって、人間の殺戮活動を終了する。そしてまだ生き残っている日本人は日本列島から追放し、日本は僕たちの住処にし、僕たちはこれからは人間を殺さない」
その発表は再び世界を震撼させた。
なぜ殺戮活動を止めたのか、なぜ日本人を追放するのか。いろんな疑問が上がったが、世界中の人はその宣言を鵜呑みにするしかなかった。
反論したら、今度は自分の国が滅ぼされるを恐れ、世界中はハレー族が日本を支配することを認めた。
そしてヒューマンキラーたちは、日本をサフィルアという地名に変更した。ハレー族の言葉で、新世界と言う意味で、これによって日本という国は滅亡した。
そして今まで指揮を執っていた、あの総理大臣を殺した少年は、トップとしてハレー一世と名乗った。
残った日本人を国外に追放し、それから数十年。宣言通りにヒューマンキラーは何もせず、他国に踏み入って人を殺すこともせず、不気味なぐらいに大人しくなった。