星弓
私の名前はイミホ、以前はルノワール王国の王宮魔術師見習いとして働いていました。
現在では1年前に復活した魔王を討伐するために異世界から召喚されし勇者、ムタ・イチロウ様の従者として共に旅をしています。
今日も勇者様の駄々やわがままに困って――。
「勇者様、行きましょうよ行きましょうよ。星までも射抜くと呼ばれる伝説の弓、セプティマスの弓を取り行きましょうよ〜」
違いました。今日だけは違いました。私でした、私がわがままを言っておりました。
「えぇぇ〜、だってそのなんちゃらの弓を取りに行くのには、この村の外れにある洞窟の最奥部までイカないといけないんでしょ? いいよいいよ行かなくて。それにだ、洞窟とかこの間、行ったばかりじゃないか。村人達は口をそろえて「魔女は美女だ、魔女は美女だ」っていうからだ、期待に胸膨らませて言ってみれば居たのは腰の曲がった醜いババアだよ。もうホント最悪だったよ」
あれは、ああでも言わないと勇者様が動こうとしなかったので村人たちの嘘ですから。村人たちにウソを言うようにと吹き込んだのは私なのですが――。
「だから俺はもう二度と洞窟には行かないんだからねっ! 絶対ぜっ~たいに行かないんだからねっ!」
「なぜですか勇者様!? セプティマスの弓があれば、今後の魔王軍との戦いに必ず役に立つはずですよ!」
「いやそもそもさ、誰が使うんだよそのセ・・・なんとかの弓? 言っておくけど俺、弓とか使わないよ」
「そ、それは私が――」
「魔法使いさんは魔法使いじゃん。無理して武器を使うより魔法だけ使ってればいいのでない?」
「魔力が底を尽きた時や魔力の節約にもですね――」
「んな状況になったこと一度もないでしょ? そもそも魔法使わないくらいの弱い敵だったら俺一人で事足りる事じゃん? いいかい、m魔法使いさんは無理に戦闘に参加しないでさ、戦況を見て適切な指示を出してくれたほうが――」
「ああああああもう!! とにかく行くと言ったら行くのです!! これは決定事項なのです!!!」
例のごとくムカつくような正論を振りかざしてきたので私は強引に話を打ち切って強引に連れて行こうという作戦に切り替えました!
「どうしたの魔法使い使さん? 今日はやけに機嫌が悪いみたいだけど――あっ、もしかして女性の日ってやつ? 俺、男だからよくわからいけどさ、そういう日なら安静にしておくべき――」
「ち、違いますから!!」
なんでこの人は往来でそのような恥ずかしい事を言うのでしょうか。本当に繊細さが欠落していますよ! ほら、現にそんな大声で話すものだから村人たちが私達をジロジロと見ているではありませんか。しかも、噂好きの老人ばかりの小さな村ですから明日にでも噂が広がるかもしれませんよ。勿論、悪い噂がです。
「じゃあどうしたの? 貴方のお悩みをこの勇者に打ち明けてご覧よ?」
珍しく――訂正、この旅が始まっていらい初めて勇者様が私のことを戦闘以外で心配をしてくくれました。私は思わず目頭が――――――まったく熱くなりませんでしたが、ほんのわずかにちょっぴ微妙にですが嬉しくなりました。
「実は最近、私って役に立っているのかなぁと思いまして・・・。なにもかんも勇者様に任せっきりで私だけ高みの見物っていうのは・・・」
そうなのです。最近、私は戦闘は疎か魔法で攻撃・回復・補助すらもしていないのです。理由は簡単です、勇者様がルノワール王国を出た頃よりも遥かに力を付けているからです。
最初の頃は勇者様も戦闘に慣れていないせいもあり私の助力が必要不可欠でした。だがしかし、今の勇者様は剣を一振りするだけて大勢の敵をなぎ払うことが出来るほどに強くなってしまったので私の出番は殆どなくなってしまいました。もはや畑に佇む一人寂しいカカシみたいです。
納得行かなかった私は一回、勇者様の戦闘に混じり戦ってみました。――みましたが、結果は最悪でした。足手まといになった私を庇った勇者様が負傷するという最悪の結果になりました。やはり、カカシはカカシらしく突っ立ていたほうがマシなのでした。
以来、私は勇者様の戦いに参加することなく万が一勇者様が負傷した時に備えて待機するだけなのでした。
だが、そのような現状に甘んじている私ではありません! 私は勇者様の名に恥じぬ相応な従者になるにはどうすれば良いのかと毎日考えていました。
そんな時のことでした。いつもの勇者様の気まぐれで立ち寄った村で伝説の弓の噂を聞いたのは。
――これです。と私は思いました。魔法がダメなら武器を使えばよいのだと。近接の武器ではなく遠距離のならば決して足手まといにはならないと。
「セプティマスの弓は『天高く届き、星をも砕く』とまで言われる伝説の武器です、これを入手すれば私はもう足手まといの名を返上出来ます! 故にセプティマスの弓が是が非でも欲しいのです!」
「・・・そうかそうか。魔法使いさんはそれほど悩んでいたのか・・・」
勇者様がうんうんと頷いて真剣な目で私を見ました。いつものふざけた顔ではなく本気の顔をしていました。
「わかったよ魔法使いさん。そこまで言うなら取りに行こうじゃないか! センテンス・・・セプティヌスの弓を!」
「勇者様・・・」
ありがとうがざいます! 私――私――勇者様を見ていると・・・・・・
ドクン。
あれ? 何故でしょうか突然、胸の動悸が――。あれ? あれれ? 不思議です?
「どうしたの?」
「いいい、いえなんでもありません。早く出発しましょう! 今直ぐにも出発しましょう!」
「おっおう、そうだな」
勇者様と私、二人並んで歩く道。不思議な胸のモヤモヤと一緒に歩いていきます。