第6話 俺の役目
「………ゃん…」
あ?なんか声が…
俺、何してたんだっけ?
「お兄……!」
あれ?シルヴィア?シルヴィアが俺を起こしにくるなんて、よくクソジジイが許したな……あ、そっか、俺、自由になったんだっけ…自由?敷地内だけなのに?
ははっ、俺って、何なんだろうな…
「お兄ちゃん‼︎」
どうしたんだよシルヴィア、俺はお前がいてくれるだけで幸せだぞ。外に出れなくたって、街を見れなくたって、俺は幸せだ、そうだ幸せなんだ…
街?アレ、燃えて…
「お兄ちゃんっ‼︎」
じゃなくて!そうだ、俺たち逃げてたんだ!
「シルヴィア!」
俺は素早く体を起こす、何とも幸運な事に潰されてはいなかった様だ。
家はペシャンコになっている様だけど、俺とシルヴィアが転がり込んだ場所は丁度潰されないだけの空間が出来ていた。
神様ありがとう…本当にありがとう……
「お兄ちゃん!良かった…」
「シルヴィア、どれ位経ったか分からるか?」
「ううん、私も今起きたばかりだから分からない…」
「そうか…仕方ない、とにかく抜け道を探そう」
あまり時間が経っていなければいいんだけどな…と言うか街はどうなったんだ?全部おわっててうんよく見つかりませんでした。なんて状況ならいいんだが…いや良くないか。
とにかく俺とシルヴィアは外へ出られそうな抜け道を探す、迂闊に動かない方がいいのかも知れないけど、じっとしてても魔王軍に殺されるか、餓死するのがオチだしな。
「おっ⁉︎」
ふと、風を感じ、板を1枚どかすと、そこから光が差し込む。光力は弱いが、この真っ暗闇よか明るい。外に繋がってる!
でも…
「ったく…穴はあるけど、俺は通れそうに無いな、シルヴィアなら通れそうだ」
ダメか、最悪シルヴィアだけ外に出すか?いや、外がどんな状況なのかも分からず出すのは危険だ。それに、外は酷い惨状だろうし…待てよ?風?風があるって事は、どっかにその通り道も…
「お兄ちゃん!ここからなら外に……あ…」
「どうした……⁉︎」
遅かった!
シルヴィアが抜け道を見つけた様だ、だが突然声が消え入る。って事は…
俺は何事かとシルヴィアの側へ屈んで近づく。
そこからは外が見えた。
やっぱり…
外だ。家々は焼け、潰れ、壊れ、原型を留めてはいなかった。一面荒地、まるで災害だ。
そしてなにより、そこらに中に死体が転がっている。
転んで踏み潰されたのか、全身青くなっている死体。
引火したんだろう、中途半端に焼け爛れた死体。
何が起こったのか、手足が可笑しな方向へ向いた死体。
混乱に乗じて暴行に会ったのだろう死体。
死体、死体死体。
死体。
とてもじゃないが、見ていられる物ではない。まだ亡者がここらに居ついて、こちらを恨めしく睨んでいる気がする。
肉を焼くいやな匂いと排泄物のにおいがそこから入って来て、息をする事すら辛い。
死人と目が合い、吐き気が一気に込み上げてくる。
「うっ……‼︎」
吐くな!吐くな!吐くな‼︎
俺がしっかりしないで如何する!お前以外誰がシルヴィアを守るんだ‼︎
俺は咄嗟にシルヴィアの目を手で塞ぐ。もう遅いだろうが、塞ぐ。
しっかりしろ!しっかりしろ!しっかりしろ!
同様するな!混乱するな!昏倒するな!狂うな!戦くな!錯乱するんじゃない‼︎
シャンとしろッ‼︎
「ハァ…ハァ…大丈夫か?シルヴィア…シルヴィア?」
シルヴィアは俺にめをかくされたまま、固まっていた。泣くでもなく、声を上げる事もなく、ただただ固まっていた。恐らく許容範囲を超えてしまったのだろう…きっとトラウマになる。
このまま逃げよう、シルヴィアの目を塞いだまま、逃げよう。
そう思った時だった。
「ふむ、何かいるな……」
ははっ…ふざけんなよ、如何なってんだクソッたれ…絶対魔王軍じゃん。
咄嗟に空いたほうの手でシルヴィアの口も塞いだ。
どうする?
投降するか?
逃げるか?
ここで縮こまってるか?
どれも死ぬ運命しか見えないな。
「王よ、下がってください、貴方様に何かあってはいけませぬ」
しかも魔王直々かよ、笑うしかねぇな。ハハッ、詰んだわ。
詰んだな。
詰んだ。
あぁ詰んだ。
俺はな…
丁度俺で外が見えなくなるような位置にシルヴィアを移動させ、その肩を掴む。
「シルヴィア、あの穴から外へ逃げろ。お前なら通れる筈だ」
「え?…でもお兄ちゃんは?」
指差すは俺の見つけた小さな抜け穴だ、あそこからなら外へ出ても家の瓦礫で目に入る事は無いだろう。
後は家の残骸でも伝って上手く逃げてくれればそれでいい。
「小さい気配ですな、よく分かりませぬ。恐らく虫の息かと」
しかもラッキーな事に俺たちの気配はよく分からないらしい、つか気配読むとかマジで出来んのな。
笑える。
「穴を抜けたら身を隠しながら逃げるんだ、いいな?」
「お兄ちゃんは?ねぇ!お兄ちゃ…」
「いいな!」
シルヴィアが強く言いそうになるけど、俺はそれを遮った。本当、酷い兄だよ、この地獄の中を一人で行かせようってんだからさ…
「…うん」
「よし、強い子だ……」
さて、俺の役割はよぉく分かった。
兄の死を越え、勇者は強く〜ってな。
そう言う事だろ?神様よぉ。
はははっ!出来れば生きたかったが、本来なら就職祝いで死んでたんだ。余分に10年生きれただけでも幸運よ。それに、やっぱどこか客観的だしな。
これが覚悟なのか慣れなのかは知らないけど、死ぬ事への抵抗はそんなに無い、怖いっちゃ怖いけど、それこそシルヴィアと心中するくらいなら俺だけ死ぬ。
さて!父さん母さん、あ、前世のな。もう一回転生ってのがあるなら、また俺を産んでくれや、今回の人生で如何にあんたらがいい親か思い知ったよ。次は親孝行させてくれ。
「私が見て参りましょうか?」
「そうじゃな、ヴァリエンテ王、よろしいですかな?」
さて、もうすぐタイムリミットだ。
「なぁに、心配するなよ。お兄ちゃんはとっても強いんだぞ!魔王なんてぶっ飛ばしてやる!そしたらまた遊ぼう。な?」
「うん…約束だよ?」
「あぁ約束だ。だから先に行け、きっと宗教の連中がお前を助けてくれる。さぁ、早く」
「……早く…来てね」
「……あぁ、勿論だとも!」
シルヴィアは何度も振り返りながら外へと向かう。
さて、お決まりみたいなセリフも言った。
ゲームやアニメみたいな面白い世界も体験出来た。
可愛い妹にも想われた。
もう十分だろう。
これ以上望むのは欲張りってもんだぜ。
二回目の死くらいカッコよく死んでやらぁ!
俺はこの詰まらない人生に最高の終止符を打つ‼︎
俺は外へと歩き出す。不思議と足取りは軽い。
映るは大通りを埋め尽くす軍勢。転がる死体には焦点を合わせなかった。
「む…子供か……」
声からしてコイツが魔王様か。服は黒を基調とし、赤の刺繍やラインが入っている。背にははためく漆黒のマント、その手には黒い剣身を持つ大剣が握られてる。
髪は黒、背中から生えてる蝙蝠の羽みたいな羽も黒、肌はディムグレー。見事に黒尽くしの二枚目がそこにはいた。
あ、目は赤だわ。結膜は黒いけどな。
恐ろしい程冷たい目をしている。いかにもって感じだ。
その後ろには様々な人種?が見える。あ〜、エルフとかドワーフとか呼ばれるのも混ざってるな、最後の最後でファンタジーの盛り合わせか、悪くない。
さて、俺がコイツらの注意を少しでも受けないとな。
だからって飛びかかってもすぐに殺されるだろう。
俺が出てきた瞬間殺さなかったところを見ると、人間には1ミリの慈悲もやらん!って訳でも無さそうだな。
となると、話術でどうにかするしかないか。
少しでも時間を稼ごう。
「あんたが魔王様?」
そう問えば魔王の部下らしき人物が前に出ようとした。それは魔王が手で静止したけど、多分、無礼な!とかそんなんだろう、ヒヤッとしたわ。
「お前達人間はそう呼んでいるな」
「随分派手にやったね、街が滅茶苦茶だ」
「我が憎いか?」
「なんとも思わないか、と言われれば嘘になるけど、俺はちょっと訳ありでね、憎む程ではないかな」
冷たいと思われるかも知れないが、実際なんとも思ってない。人の死自体には嫌悪感を抱くが、知り合いでもなんでもないんだ。事故で死んだ人がいても、それに騒ぐのはその人の周りだけの様に、俺にとってはシルヴィア以外他人に等しい。誰が死んだところで可哀想止まりだ。ま、それが俺でも周りの反応は同じだろうけどよ。
「ほう?面白い、同族が死んだのだぞ?それも我々の手によってだ」
「それでもさ、あんたは知りもしないヤツが死んだからって泣き叫ぶかい?」
「ふふっ、せぬなぁ。確かにせぬぞ」
どうやら興味を持って頂けた様だ。
「ならば小僧、お前は何故出てきた?憎しみも無しに我へ向かってくるとはおかしなものだろう。逃げればよかったのではないか?」
「なぁに、逃げれるとは思わなかったんでね。それに、死ぬのは怖くない」
「そうか。それは何故だ?」
「俺はさぁ、一回死んでるんだよ。前世の記憶を引き継いだままこの世界に生まれ落ちた。だからもう慣れた」
「ははははっ!これは面白い事を言う!なるほど、どうにも大人びた子供だとは思ったが、生れ変わりとな?」
随分気に入ってもらえた様で。順調に時間稼ぎ出来てるからいいけど。
「そう言う事だ、だから下手に逃げるよりも、こうして堂々と出てきたほうがまだ捕虜とか生きる道があるかと思ってな」
「なるほど、なるほど。しかし小僧、王国攻略の要となるこの都市が落ちた今、捕虜が必要だと思うか?それもなんの力もないお前の様な小僧を、だ」
「まぁ、ねぇわなぁ。だが、俺を捕虜とした場合の利点もあるぜ?」
「なに?」
「俺には知識がある、前世の知識だ。俺の前世の世界は随分と発達していてな、仮に俺の前世の世界とこの世界が戦争をしたら、年をかけずに勝利が出来る位の差がある。その技術の一端が俺にもある訳だ」
ハッタリだ、精々一般知識くらいしか持ち合わせてない。
けど今はそれでいい。
「小僧、その与太話を我が本気にすると思うか?」
不味いか?魔王の顔があからさまに不機嫌な感じになった。
まぁな、いきなりガキが出てきて『俺の前世はあんたの軍を簡単に滅せるぜ?』みたいなわけ分からん自慢してるようなもんだしな。
と言っても、今までこの与太話としか思えん会話に付き合ってくれて、尚且つ未だに俺は殺されていない。
つまり、これはコイツにも大なり小なり俺に興味があるって事だろう。それを逃さないようにしないとな。
「正直思わん、俺も、前世が〜、なんて言ってる奴いたら正気を疑うね」
「ならば何故語る?」
「賭けだよ」
「賭け?」
「今の俺に前世の技術を披露する術も力もない、手ぶらだしな。だからこそ、面と向かってこんな酔狂な話をするんだ。普通この状況で言うと思うか?生死がかかってるこの状況でだ、この局面でた。もう少しましな言葉を言うだろうよ、それをあえてこんな話をする。それは逆に信憑性が出るってもんだろ。それも俺の様な小僧が、だ!」
ドヤ顔で言い放つ俺、対して魔王は!
「ふははっ!確かにそうだ!今の話すら我を欺く為の物だと言うのなら、最早我らは人間に勝てないだろうな!何せ子供でコレでは手のつけようがない!面白い、面白いぞ!はははっ!」
爆笑、そんなに面白い話したか?流石に俺もビックリなんですけど…まぁ、いいさ、この間にもシルヴィアは遠くへ逃げている筈だ。
さぁ、次はどうくるよ魔王様?俺の覚悟は決まってるんだ、遠慮する事はない。持てる知識と演技力で時間稼ぎしてやんよ!
「随分気に入ってくれた様で」
「あぁ、気に入った!小僧、貴様を捕虜としよう!」
…
……
………
あるぇ〜?散々折角格好付けて出てきたのに、殺されない系ですか〜?
いやまぁ、幸運な事だけども、なんか…ねぇ?
「王、よろしいので?」
「うむ」
あ、エルフのじいさんが喋った。つか、子供とは言え敵と喋ってるのに口一つ開かないって、スゲェな。コレが忠誠の表れなのか?
ん?気の所為か、魔王の目が少し、温かみを帯びた様な気がする…
「では此度の都市攻略戦、これにて完勝とする!全軍急ぎラシュフォンドへ帰還せよ!宴だ‼︎」
「「「オォォォオオオオ!!!」」」
まぁ、とりあえず、捕虜になった。