第2話 神の子
「ねぇねぇお兄ちゃん!」
「ん〜?」
「それ楽しいの?」
「まぁそこそこかな?」
アレから1年、俺は8歳、シルヴィアは5歳になった。
で、どうしてシルヴィアが俺の部屋にいるかと言うとだ、アレはシルヴィアと初めて会った次の日の事だ。
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俺はその日、いつもの様に反復横跳びを狂った様にやっていた。すると、後方からカコン…と言う軽い音がして、何かと振り迎えるとそこには窓しかない。何かと首を傾げていると、細い木の枝が飛んで来て窓に当たった。
「はい?」
明らかに誰かが投げた物だ、その投げた人物を確認する為、ベッドに上がって窓を開けてみると。
「クライお兄ちゃん!」
シルヴィアが居た。
「…何、してるのかな?」
「あそびにきたよ!」
「遊びに来たってお前…」
まだ純真無垢な子供なんだな、俺を気味悪がらないや。でも、俺とふれあうのはこの子の為にも俺の為にもなりそうにないんだか……分かるわけないか。
「どうしたの〜?」
「いや、なんでもないよ」
「じゃぁおへや入れて!」
「ダメだ、見つかったら怒られるだろう?」
「え〜!い〜れ〜て〜よ〜!」
「ダメだって。お兄ちゃんは忙しいの」
「きのういるだけっていったじゃん!」
うは!余計な事言った俺。
「……と、とにかくダメなの!」
「ヤダヤダヤダ!クライお兄ちゃんとあそぶもん!」
「いや、だから…」
「ひっく…お兄ちゃんが、いじわるするよぅ…」
あ、泣きそう。ヤバイ、ここで騒がれたらマズイ。
「わ、分かったから!入れるから!ホラ泣かない!俺の手掴んで」
「…うん」
とりあえず手を掴んで引っ張り上げて部屋に入れた。入れてしまった…大丈夫だろうか?
ま、まぁ泣き止んだし、今はよしとするか。
「よし、泣かなかったな、強い子だ」
「えへへ…」
頭を撫でてやったら嬉しそうにしてる。可愛いなコイツ。
「じゃぁなにしてあそぶ?」
「う〜ん…壁薄いからなるべく静かな遊びがいいかな?」
「かべうすい?」
「外にいる人に声が聞こえちゃうってこと」
「きこえないよ?」
「え?」
「きこえないの」
何を持ってそんな事を…あ、昨日扉に耳当ててたな。もしかして、アレでもあんまり聞こえなかったのか?シルヴィアは耳が悪い?
いやいやいや、よくよく考えたらこの部屋に来たとき、メチャクチャ静かだった。普通風の音とか鳥の鳴き声とか聞こえる筈なのに、それも殆ど聞こえなかったよな?それに、あのクソジジイが俺の声なんて聞きたい訳がないし、なるべく存在も隠したい筈だ。更に言えば、俺が運動とか称して暴れ回ってるのに、見張りもそれについて何か言っていたのを聞いた事がない。
でも、今では風の音も鳥の鳴き声も聞こえるし、話し声だって聞き取れる。
つまり、壁が薄いんじゃなくて、俺の聴力が変に発達してたって事か?
「なるほど、そう言う事か」
「じゃぁ何して遊ぶ?」
「シルヴィアが決めていいよ」
コレなら遊んでも大丈夫そうだな。後は前の二の舞にならないよう、クソジジイに注意しよう。
そんなこんなでこの日はシルヴィアと遊んで、1日を終えたのだが…
「おはようクライお兄ちゃん」
「……シルヴィアお前、また来たのか…」
「うん!」
それからシルヴィアはクソジジイがいない時間帯を見計らって毎日の様に押しかけてきた。
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そして現在に至る。
最近はシルヴィアと遊び過ぎて、運動が疎かになっていたので、シルヴィアが居ても体を動かしたりしてる。我が妹はそれが何してるのかサッパリ分からない様だ。
俺もうろ覚えで型やってるだけだからよく分からん。合ってんのかなコレ?
ただ、体を動かしてると『コッチの方がいいんじゃね?』と思って動きやすいやり方に気付けるから、何となく上達している気はする。
武術の開祖とかもこんな気分だったんだろうか?普段使わない筋肉を鍛えれば、その分動きの幅は広がる。そうなれば、次の動きをやるには何処を鍛えればいいのか分かって、そこを鍛えれば更に幅は広がる。
そうして様々な動きを身に付け、その中で自分の思った物を淘汰し、極め、技とするのだろう。
時間はかかるけど、こうして出来る事が増えたり、ちょっと違った世界が見えるのは面白い。
と言っても、どれだけ言葉を並べたところでうろ覚えはうろ覚え、恐らく間違った動きもしてるだろうし、色々な武術が混ざりすぎて可笑しな事になってる事だろう。
つまり我流。
聞こえは格好良いかも知れないけど、先人の技術がない分弱いだろうなぁ…でも、無ではない。後は俺1人でそれを昇華させられるかどうかだ。
「わたしもやる!」
「えぇ…」
シルヴィアがなんか言い出したぞ…俺は将来戦う事を前提に鍛えてるんだ、可愛い妹にそんな野蛮な事覚えさせられるかよ。
「遊びじゃないんだぞ。ほ〜ら、こ〜んなに柔らかくなくちゃいけないんだぞ〜」
諦めさせようとY字バランスを見せつける。
「はい!」
しかし、シルヴィアは簡単に真似て見せた。
おいおい…俺がこんだけ柔らかくなるのに一体どれだけ苦労したと思ってるんだ…
「な、ならコレならどうだ!」
と、腕で無理やり股を開かせ、ほぼ棒の様に痛だだだだだだ‼︎あ、足が‼︎ま、股が砕けるぅ‼︎
「はい!」
マジかコイツ⁉︎バレエでも習ってんの⁉︎ちょくちょく抜け出すのはそう言う事なの⁉︎
「これでいい?」
「うん…もう、いいや…」
そんなこんなで妹に武術を教える事になった。どうしてこうなった?
まぁ、直ぐに根を上げるか飽きるだろうし、大丈夫だろう。
と、思ってた時期が僕にもありました。
「もっと足腰使って!ホラ!脇を締める!」
「は〜い!」
「引け腰にならない!重心を落とす!」
「はいは〜い!」
気の抜ける様な返事だが、上達スピードが尋常じゃない。アレか?天才ってヤツなのか?それとも俺が非才?
つか、俺より上手くね?なんか言ってるだけ感が凄いんだけど…
教えて直ぐに極まった状態になってる気がする。こんな事ありえるのか?達人の動見てる様な気分になる。なにこの子怖い。
「次は?」
「う、うん。そ、そうだな、剣術でもやるかぁ…」
そんなこんなで1年も経つ頃には、教える事がないどころか、逆に動きを見て教えられるレベルになっていた。
「それでだな、俺が教えてやるのは抜刀と言って……」
「あ、時間だ。じゃぁねお兄ちゃん!」
「えぇ〜…」
日の傾きで時刻を確認したんだろう、シルヴィアが窓からピューっと出て行ってしまう。まだ説明もしてないのに…自由な子だなぁ。
「だ、旦那様⁉︎どうされたんですか⁉︎」
「邪魔だ!退け‼︎」
入れ違う様にして外が騒がしくなる。と言うかクソジジイだなコレ。
遂にバレたか。
そりゃ2年も通ってればバレるってもんだよなぁ、寧ろ今までバレなかったたのが奇跡。シルヴィアは本当に頭がいい様で、叱られるのを見越して言ってなかったみたいだしな。
バァンと扉が開かれ、クソジジイが入ってくる。
「ど、どうしたんですかお父様⁉︎」
一応演技、どうせ無駄だろうけどね。
「とぼけるなぁ‼︎」
「ぶッ…‼︎」
早速顔面に一発か…!相変わらず容赦ねぇ…
このクソジジイがデブじゃなかったのがせめてもの救いか、体重が軽い分筋肉も少ない。
「ガキィ!シルヴィアに何を吹き込んだ⁉︎何時から会っていた⁉︎」
「がっ…!ぎ…!や、止めてお父様‼︎」
「私を父と呼ぶな化け物がぁ‼︎」
クッソ、マジで容赦なしかよ…息子どころか人間と思ってねぇ…!ボカスカ殴りやがって!
つーか親父って呼んじゃダメならなんて呼べってんだ、俺は9年生きてるのにお前の名前知らねぇんだそクソが!
「答えろォ‼︎悪魔ァ‼︎」
「ゔ…⁉︎」
ヤベ…腹に重いの喰らっちまった…吐く……
「うゔぁあ…おゔぇ…」
「床を汚すなゴミめが‼︎」
倒れ込んでる所に鋭い蹴りとか、キチガイだろコイツ…普通ここまでやるか?ははっ、壁まで滑ったわ…畜生。
「ふぅん‼︎」
「あ゛…」
今のはマズイ…頭が床と拳で挟まれた……し、死ぬ…あぁ、しかし、こんなにボコられてるのに冷静だな俺、スゲェや…死ぬわ……
死ぬ。
「ダメーーー‼︎」
あ…この声……シルヴィアか?どうして?戻れよ、お前も叱られるぞ?
「シ、シルヴィア⁉︎何故此処に⁉︎」
「お父さん入って行くの見えたもん!クライお兄ちゃん虐めたらダメだもん‼︎」
「な、何を言っているんだシルヴィア!こんなヤツはお前の兄ではない、汚らわしい悪魔なのだぞ⁉︎」
「そんな事ない!お兄ちゃんとっても優しいもん!悪魔なんかじゃないもん‼︎」
「ぐっ!聞き分けのない子だなぁ!後でお仕置きだ‼︎おい見張り‼︎突っ立ってないでシルヴィアを捕まえろ‼︎」
「は、はいぃ!」
あー。そら、言わんこっちゃない……ボヤけてるけど、シルヴィアが見張りに捕まってジタバタしてるのが見える…俺に出来ることは…そうだな、精々殴られてシルヴィアが怒られるまで、コイツの鬱憤を晴らさせて置く事かな…はは。
「いやいやいや!」
「お嬢様!暴れない……⁉︎」
「いーーー‼︎やーーーーー‼︎」
「な⁉︎身体強化まぐっほぉッ⁉︎」
は?なんだありゃ?シルヴィアが見張りをアッパーの一撃でのしちまいやがった…身体強化?シルヴィアは魔法が使えたのか?
「な、何だ⁉︎何が起こった⁉︎シ、シルヴィア⁉︎何をしたんだお前⁉︎」
「お兄ちゃん虐めたら!ダメーーーーッ‼︎」
「ぬおぉ⁉︎」
ははっ、クソジジイがボールみたいに飛んでいったぞ、何だ今の投げ技…
「ぐ…シルヴィアぁぁあ‼︎親に手を挙げるとは‼︎例えお前でも許さんぞぉ‼︎」
「コッチ来ないで‼︎」
「ガッ…⁉︎な、何⁉︎魔力障壁だとッ⁉︎」
あ〜、ただでさえ意識朦朧としてんのに、次から次へと訳分からんぞ……今度は変な魔法陣が出現してクソジジイを阻んでらぁ。
「お兄ちゃん‼︎大丈夫?」
大丈夫に見えるか?
あ、ダメだ、返事が出来ない。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん…」
泣くなよ……泣くのは弱い子だぞ?
「お兄ちゃん……死んじゃ……」
あ?何だ?シルヴィアが…光ってる?
「ヤーーーーーーーーーッ!!!!」
絶叫と共に、眩いばかりの閃光がシルヴィアを中心として放たれた。
それは一度広がると、今度は俺へ向かい集束し、暖かい光に包まれる。
「こ、これは⁉︎あ、ありえん…奇跡だ……何と言う事か!我が娘は神の子だったぞ‼︎」
クソジジイが騒ぐ中、俺は意識を失うギリギリで腕を動かし、手をシルヴィアの頭に置く。
「泣かなかったな……強い子だ」
そして気を失ったのだった。