第1話 忌み子
うん、数年たった。
正確には3年位かな?
分かった事と言えば、どうやらココは日本どころか地球じゃないみたいです。でも宇宙広いからな〜、別惑星って可能性も…むむむ。
そんな事考え出したらキリないからいいや。とりあえず別世界に産まれましたとさ。どうやら剣と魔法でヒヤッハー!する世界みたいだな、アレだよ、アレ、中世ヨーロッパに魔法ぶち込んだヤツ、ゲームとかで良くある世界観。
んでもってここじゃ基本マンガ的な人が多くてね、髪も目もカラフルカラフル、まぁ、金髪の割合が一番多いかな?どっちにしろ街に繰り出したら目が回りそうだ。
そん中で俺は黒髪黒眼。最高にカッコいいだろ?って思うんだが、どうも感覚が違うらしい。まぁ、黒は陰気って言うのはあるけども、とにかく俺はなんか嫌われてる、悪魔が産まれたとばかりに嫌われてる。黒は縁起が悪いとさ。
そんでもって名前はクライ。かけてるのかな?”暗い”に?やかましいわ‼︎
そんな俺がここまで育ったのは他でもない、親が金持ちだからだッ‼︎
両親共に明らか俺のこと避けてるけど、そこだけは感謝してるよ、いや、金の偉大さに感謝しよう。
にしても今の親は最悪だ、前世で親孝行できなかったからコッチでは親孝行しようかとも思ってたんだが、私利私欲しか頭にないみたいでね。そんな気にはなれない。
一応兄がいるんだが、ソイツは金髪で、両親から溺愛されてる。その理由は兄が優秀だからだ、優秀な人材は金をもたらすからねぇ。その兄も俺を見て「ケッ、気持ちの悪いガキだ」とか言ってたらからクソムカつく。精神的にはオメェより歳上だっての!精神だけだけどなッ‼︎
まぁ、そんだけ嫌われてても子供は子供、どうやら親が結構な貴族らしく、最早忌子扱いな俺でも簡単に殺すと問題があるらしい。だからメイドとかが世話してくれる訳で、今日も元気です。
しかも、両親は俺を貴族のパーティーとかに出席させる気はゼロらしく、家も離れで孤立状態の放置プレイ、お世話は全部使用人がやってます。
酷いよね。
でも俺は思うんだよね、コレって、自由じゃね?うん、自由だよね?どうせ何も期待されてないんだから何しても興味を持たれない訳だ。いや、流石に悪い事は出来んけど、兎に角、家に金もあるし、外には出れないけど割とやりたい放題な訳だ。
ならば!自由に生きようではないか‼︎折角アニメ、ゲーム的な世界に生まれたんだ、冒険しようぜ‼︎目指すは勇者だ‼︎
と言う事で先ずは強くなろうと1歳半くらいからこっそり庭に繰り出して走り回る。前世の感覚残りで、上手く動かない体に違和感はあるし、よちよちな感じだが、正しい姿勢を意識出来る分、アドバンテージは多い。
とにかく走り回って足腰を鍛える。と言うより感覚を掴む為の基礎作りになるのかな?ただ、現在の親父(以後クソジジイ)に見つかるとなんか面倒臭そうなので、ヤツが仕事をしている間に見つからないようやる。メイドとか執事も離れにはあんまり来ないしな。
いつか武器を持つようになる筈だ、手の皮を固くしておこうと、庭の木の枝を毟ってはマメができて、薄皮が剥けるくらい振り回し、応急処置をして治るまで放置、その間走り回る。足にもマメが出来たら室内で適当に運動をする。疲れたら飯食って寝る。起きればまた運動。
辛くないかって?
愛されず、好奇の目で見られ、隔離されている子供。確かに状況だけ見ると、相当酷いけど、実際体験してる側の俺は大してなんとも思ってない。
だって前世の感覚丸残りだから、今辛い思いしてもどこか客観的で「あっそ」としか思わないんだよなぁ。
運動にしたって疲れるだけ、痛いだけ、休めば治るし、それしかやる事がないんだもん。誰も離れにいる俺を構う事なんてない。まるでゲームでもしているかの様な気分だ。周りの反応なんて知るか、NPCだNPC。
本当に、全く持って、辛くもない。こんなに不遇な状況なのにな、どうしちまったってんだよ、俺は。
まぁ、そんな事はどうでもいいか。今は運動だ、折角面白い世界に産まれたんだから、やっぱり楽しまないとな、これはその下準備。俺は今日も運動をする。
はてさてどうしたものだろう?使用人の雑談から得た情報だが、知らぬ内に妹が産まれていたらしい。まぁ、半隔離状態の俺にはどうしようもないんだが、兄があんなんだからな、妹には人を差別しないいい子に育って欲しい物だ。
と言っても、親父が金と権力でハーレム状態だから、腹違いの妹なんだけどね。
名前はシルヴィア。外国にいそうな名前だよね。え?兄貴?知らね。
そんな事を思いつつ、今日も今日とて走る。最近は離れの周りをグルグル回るのがマイブームなんだよね、あの角を曲がればノルマたっせ…
「む?」
「あ」
マズイな、クソジジイに遭遇した。この時間帯は部屋に引きこもってるかどっか出掛けてる筈なんだけど…どうしよう、なんて言う?と言うかコイツは俺に対してなんて言うんだろ…
「走り回るなクソガキがぁぁあ‼︎」
「ごっ……⁉︎」
嘘だろ⁉︎蹴りやがった⁉︎
「うぁぁぁあああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ
‼︎」
「誰かいるか‼︎」
「だ、旦那様⁉︎如何されましたか!」
「どうしたもこうしたもない!このガキを部屋から出したのは誰だぁ‼︎」
「も、申し訳ありません‼︎」
「ぁぁああ゛あ゛あ゛‼︎」
「煩いぞガキがッ‼︎早くコイツを連れて行け‼︎」
「か、かしこまりました!」
「明日から見張りを立てておけ‼︎」
「は、はいぃっ!」
い、痛い‼︎痛い‼︎じ、尋常じゃない!コイツ正気かよ⁉︎幾ら魂は俺とは言え、器はお前の息子なんだぞ⁉︎しかも3歳の!大人の力で蹴ったりしたら、死ぬかも知れねぇんだぞ⁉︎
イカれてやがる…ありえねぇ…クソッタレ…
おはようございます、生きてます。
今は監視付きの自室……いや、ここに置かれてるだけで、ここ俺の部屋じゃないんじゃね?まぁ、そこにいます。
しかし…正直ナメてた、いくら俺が忌み子でも、親なら多少の愛はあるかと思ったけど、そんな事はなかった。マジで死ぬかと思ったわ、と言うかこの世界に治癒魔法なんて便利なものがなかったら確実に死んでただろ。そんなレベルの蹴りだったぞ。
お陰で暫くは安静だった。運動も室内でしか出来そうにないや、ま、この閉鎖空間なら本気で暇だし、捗りそうかな。
腹筋、背筋、スクワット、腕立て伏せ。あ、家具とか使えば逆立ちとか懸垂とかも出来るか。適当なもの使えばダンベルの代わりになるかもな。
早速試してみる。
歩くのは…うん問題ない、走るのも…様になって来たか?それとも俺がよちよち走りに慣れただけだろうか?基本はコレでいいかな?毎日やろう。あ、静かにやらないとまたキレられそうだな。腹筋は、まぁ疲れるまでやればいいか、背筋や腕立て伏せ、スクワットも同様。
物使っての運動、と言うか筋トレはまだ良しとこう、小さい時に筋肉つけ過ぎると身長伸びないらしいしね。
動いて、疲れて、食って、寝るか、前と変わらなかったな。ただの体力作り、運動だ。ガキの体力なんてたかが知れてるけど、ずっと続ければ話は別の筈、頑張ろう。
それから俺は室内での運動を始めた。あまり広い部屋ではないので、走るのはやめ、反復横跳びを。スクワットで足が震え始めたら腕立て伏せに変え、それも腕が震え始めたら腹筋、以後ループ。
とにかく無理はせず、少しづつ体力を伸ばす。少しづつ体を慣らしていく。
そんな事を続けて4年。俺は今、三点倒立をしている。両手と頭の3点ではない、右手親指、人差し指、中指の3点だ。
うん、なんて言うか…すごいね人体。
運動してて気づいたけど、この世界、強さの上限が地球とはかなり違うらしい。よって7歳の子供でも鍛えればこんな芸当が出来るって訳なのだ(謎)。
体力は十分ついた、筋肉が無くともこのパワー、今の肉体には完全に慣れたといっていいだろう。
これは面白くなって来たな、鍛えれば鍛えるだけ強くなっていくや、後は動きの問題かな?格闘技とかスポーツを真似して、イメージして…他にも色々出来そうだ、剣を持ったイメージトレーニングとか……
「お嬢様様!お待ち下さいませ!」
「やーだー!」
ん?なんか騒がしいぞ?誰か居るんだろうか?
「ちょっと!そこのあなた!お嬢様を捕まえて!」
「え?あ、はい!」
「おっそいよ〜!」
「あ⁉︎お、お待ちを‼︎」
「お嬢様!」
ドタドタドタドタ…おい、今、見張りも付いて行っただろ。いいのかお前それで…
にしても、お嬢様って、もしかして妹かな?屋敷から離れまで逃げ回ってるのか?随分おてんばだな。ま、会う機会なんてあるかどうか…
「あ…」
「え?」
突然女の子が部屋に入って来た、白い肌に白い髪を持つ、青色の瞳の女の子だ。十中八九妹だろう。どうやったか知らんが、追っ手を巻いてこの部屋に逃げ込んだみたい。
片手逆立ちの俺と、逃げ込んで来た妹(仮)は、その場で固まった。
コレが俺とシルヴィアの初めての出会いである。
しかし、2人して固まっていると、次第に足音が聞こえてくる。
「あ!」
それだけいって妹(仮)は部屋の扉をバタンと閉め、耳を当てる。
「あ、アレ?一体何処へ行ってしまわれたのでしょう?」
「と、とにかく手分けして探しましょう!私はこっちを、貴女は向こうをお願いします!」
「はい!」
おーい、耳当てる必要皆無だぞ、壁薄いから聞こえるもの。
「はぁ〜…」
どうやら行ったみたいだ。ホッと一息、と言った感じかな?妹(仮)が振り返って此方を見る。俺は逆立ちを止める。
「あなただぁれ?」
「俺はクライ。君は?」
「わたしシルヴィア!」
うん、元気が良くてよろしい。そして予想通り妹だった。
「しようにんの子?」
「いや、俺のフルネームはクライ・ベルガンド。君のお兄ちゃんだよ」
「お兄ちゃん?アドベルお兄ちゃんじゃなくて?」
「違うよ、アドベル兄さんは俺の兄でもあるんだ。俺はその弟で、君の3つ上の兄なんだよ」
まぁ、あの生意気なガキがアドベルって言うのは初めて知ったけどな。
「う〜ん…よくわかんない!」
素直でよろしい!
「クライお兄ちゃんはこんなところで何してるの〜?」
「な〜んにもしてないよ、ただいるだけ」
「ふ〜ん、へんなの〜」
「お、おう」
随分喋れるなこの子、4歳児って意外とそんなもんなのか?
「じゃぁあそぼ!」
「え?」
「なにもしてないんでしょ?」
「まぁそうだけど…」
「ならいいよね!」
「あ、ハイ」
何故か遊ぶ流れになっているが、大丈夫なのかコレ?俺、自分で言うのもなんだけど、忌み子だぜ?あのクソジジイの事だ、そんなのと遊んでたってバレたらただじゃ済まないだろ、主に俺が。
「そっちにはいましたか?」
「いいえ…どの部屋にも」
「此方もです…」
「となると…」
「残るは…」
あ、やばい。見張りと使用人が戻って来たっぽい。
「どうしよう!このへやかくれる所ない!」
「こっちにおいで、窓から外に出れば見つからないよ」
「う、うん」
ベッドと面した壁にある窓を開けると、シルヴィアを持ち上げて外へとだす。
ここが一階でよかった。
「またね!クライお兄ちゃん!」
「あんまり皆を困らせたらダメだぞ?」
「は〜い!」
「んじゃ、また」
「うん!」
俺は静かに窓を閉めると、ベッドに腰掛けた。そして丁度ノックの音が響き、監視と使用人が入って来る。
「く、クライ様…こ、此方に誰か来ませんでしたか?」
下手くそな作り笑いだな、吊上がってるぞ。
「ん?誰も来てないよ?騒がしかったみたいだけど、誰か来てたのかい?」
「い、いえ…その……何事もなかったならばそれでいいのです…」
「…そうかい」
「で、では、失礼しました…」
意味不明な弁解をした見張りは、使用人のメイドを連れていそいそと出て行く。
「何度見ても気味の悪い子だ…アレは本当に人間なのか?」
「妙に落ち着いてるのも不気味ですわ……まるで何かを悟っているようで…」
「魔族の王は黒い髪を持つと言う…もしかしてアレは、魔族が奥様に植え付けたスパイの様な物なんじゃないだろうか…」
「恐ろしや、恐ろしや…」
静かな空間に長い事いると、小さな物音でも敏感になる。ヒソヒソ話でも、この薄い壁の前じゃ筒抜けだ。
そんなに気持ち悪いかね?黒。かっこいいと思うんだけどなぁ?ま、んな事はどうでもいい。運動するか。