第15話 余計な一言
どうもクライ・ベルガンド公爵です。まだディアナちゃんとの婚約話が終わってません。辛い。
「ふふふ、さぁどうする?」
「どうするのだ?」
「どうするんですの?」
詰め寄る三人。近い近い‼︎あ〜ヤダなぁ…別にディアナちゃんを嫌いな訳じゃないけど、現状恋愛対象ではないし、でも俺に好きな人いるわけでもないし、幾ら将来有望だからってそれ見越して打算的に婚約結んじゃうのも違う気がする。ってかそれやったら最低だと思う。だから断りたいんだけど、当のディアナちゃんが目の前に居るわけだからね、そんなバッサリはいけないよね。でもやんわりだと魔王夫妻にことごとく弾かれる。辛い。
ヴァン、俺達、ズッ友だろ?え?何?お前親友からお義父様に昇格するつもりでやんの?
いや、本当どうしようコレ、誰かどうにかしてくれよ……っても誰も居ないんだよなぁ〜…仕方ない。
「分かった!分かったから!ならハッキリ言わせて貰おうか!」
「「「ゴクリ…」」」
「確かに俺はディアナちゃんを嫌いではない。でもな、それは妹的な扱いであって、女性として見るには幼すぎる。それにディアナちゃんもこれから色々な人に会うと思う、俺よりいい男だっているかも分からん。つーかいる!だから今回の話は無しだ!」
「……ではお兄様、もし、私が大人になってもお兄様の事を好いていたらどうしますの?」
「うむ、確かにそうだな」
「というより、ディアナがこれからお主以上に惹かれる男に会うとは思わんしなぁ」
「えぇ〜?終わらせたつもりだったのに、まさかの押してきますか〜?」
「クライ!真面目な話だ!ふざけるな!」
「なんで俺怒られてるの⁉︎分かったよ!じゃぁこうしよう、ディアナちゃんが18歳になっても、心動かない場合、その話を受けよう。ただし、俺もディアナちゃんを受け入れられる場合のみだ!」
要するに。
ディアナ!お前が俺と結婚したいならば18まで俺を想い続け、俺好みの女になれぇ!ハッハッハーッ‼︎
何言ってんだろ俺、キモっ。
普通にドン引きするレベルの言い草だぞ、流石の王族もコレで押し黙…
「よし!コレで欲物共に娘には婚約者がいると言えるぞ!」
「ディアナ、明日から花嫁修業ぞ!気張るのじゃ!」
「わたくし、頑張りますわ!」
「いいのかよッ‼︎‼︎」
ってはくれないのね……
「全く煩いのぉ、何がそんなに気に入らんのじゃ?」
レインネルさんわざと言ってるでしょ、と言うか絶対知ってる上で聞いてきてるでしょ貴女。
「それは…」
「やはり、わたくしとでは嫌でしょうか?」
あ〜…ったく、なんつー顔させてんだよ俺は。嫌じゃないなら受け入れればいい、仮初めの物だと思うなら気付くまで付き合えばいい、もしくは俺がこの子を本当に好きになるまで一緒にいればいい。
こんな可愛い子に告白されてんだ、男にとってこれ程嬉しい事はねぇだろうが。
「いや、そう言う訳じゃないんだよ。でも一つ気になる事あんだけど。俺って政治とか全くダメじゃん?そこはいいのか?」
うん、八の字はなくなったな。良かった。
「そんなもの後から勉強すればよい事だろう」
いやそんなものて…普通に年単位で勉強するもんだろそう言うのって…
「クライは物分りが良いからなぁ。しかし、不思議な物じゃな?隔離されていたと聞いたが、どこでそない学を得たんじゃ?」
え〜、俺の素性、そこまでバレてんのかよ…と言うか、
「ヴァン、お前言ってなかったのか?俺の知識について」
「……あ」
「あ、じゃねーよ‼︎そこ一番重要な場所じゃないのぉ⁉︎」
コイツ俺の素性とか散々調べといてそこ忘れてたんかい、スゲェな逆に。俺、当然知ってるものと思って接して来たよ?コレじゃぁ無駄に知恵ばっかある小生意気なガキじゃねーか!
「…なんですの?」
こんな話をしていれば当然食いつかれる訳で、俺は説明せざるをえない。
と、言う事で完結に伝えよう。
「学ぶ必要がないんだよね、俺、前世の記憶あるから」
「「……は?」」
まぁ、そうなるわな。
それから俺は、ヴァンと2人で俺の素性を話し出した。前世、転生、迫害、出会い、襲撃、そしてヴァンと会い、ここへ来るまで。2人の知っている事も、知らない事も、潔白を証明するかの様に全部話した。
「と、言う訳です」
「ほっほっほっ!生まれ変わりとな、面白いのぉ。妾も長く生きたつもりだが、世界はまだまだ不思議な事に溢れておるわ。とても人の器では測りきれんな」
「お、お兄様にそんな秘密が…」
「うむ、我も最 初めは戯言かと思ったのだがな、クライの知識は本物だ」
「夫が急に賢くなっておった時はなんぞと思うたが、合点がいったわい」
インフルエンザん時かな?突然知らない知識持ち出したりしたら、そりゃおっかないよね。
あ、そうか、コイツそれで必死こいで忘れたのか?いや、ほぼ毎日あってたんだが……ヴァンに限って『手柄を自分の物に〜』なんて考えないだろうし、そもそも王だし、手柄立てる意味ないし…ド忘れか。
「むぅ…その言い方では我の頭が良くない様ではないか」
「え?お前頭良いの?」
「我、一応王なんだけど…」
「んな事言う割には随分俺に相談持ちかけて来たよな、家庭内の事まで」
「ま、待てクライ!それはイカン!」
「ほう?なんぞ面白そうな話よのぉ?詳しく聞かせてもらおうか」
「く、クライーー‼︎」
引きずられていくヴァンを見送りながら、俺は飯の続きに戻る。
ん?ちょっと待て!こんな話の後に2人きりはキツイって!
「…お、お兄様?」
「は、はい?」
「わ、わたくし達、婚約した訳ですし…これからは、ク、クライ様…とお呼びした方が良いのでしょうか?」
「い、いやぁ、どうなんだろうね?好きにすればいいんじゃないかなぁ?」
「で、では……まだお兄様でよろしくお願いします」
なんだコレ、いやマジで。さっきまでこんなんじゃなかったやん……急にメッチャ恥ずかしいんだが。
あぁもうどうしていいのか分からん、前世含めて彼女ゼロ人だった俺にどうしろってんだ!
クッソ!とりあえずなんか会話、会話!
「つーか俺のどこがよかったん?」
何聞いてんの俺…
「へ?どこ、と言われましても……どこでしょう?」
うん、特にないのね、分かった。やっぱりディアナちゃんは家族に向ける親愛を恋心と勘違いしてるんだと思うよ。くそぅ…ちょっと期待してたのに…どうせ俺はフツメンですよ……
それで冷めたのか何なのか、その後は普通に会話出来た。
「いやはや、エライ目にあったぞ…」
「お前、本当レインネルさんには弱いよなぁ」
食事を終え、自室に向かっている途中でレインネルさんの折檻から解放されたヴァンと遭遇した。コイツ飯食ってなくね?
「いや、まぁ……実力的にもレインネルの方が強いかも知れんしな…」
「…マジ?」
「戦った事などありはせんし、これから先そんな事になる様には絶対せんが、正直、遠距離戦では勝てる気がせんわ」
怖っ⁉︎え?ヴァンって亜人族最強って聞いてたんだけど、どう言う事⁉︎母は強しってレベルじゃねーぞ…逆らわない様にしとこ。
「上には上がいるって事か…」
「そう言う事だな……だが、何はともあれ、クライとディアナの婚約が決まって安心したぞ」
「おい、またその話掘りかえすのかよ…つーかお前は大切な愛娘を俺なんかに渡しちまっていいのか?」
「地位もあり、力もあり、学もある。そして何より信頼できる。我は何の文句もないぞ、幸い、お前もディアナの事を嫌ってはいない様だからな」
あ〜、そっか。今まで何も持ってないと思ってたけど、俺が公爵って事になるとそうなるのか。色々持ってんじゃん俺。恵まれてたんだな。
「コレで人間側との停戦条約に持ち込めれば楽だったのだが…まぁ、我もディアナやクライを利用するのは不本意だったからな」
「そう言やヴァン、結局停戦にするつもりなんだな。もう後戻り出来ないとこまで行っちまったんじゃなかったのか?」
「正確には終戦だが……その、なんだ…クライと接している内にな、他にも我々の事を分かってくれる、友になってくれる人間もいるのではないかと思ってな。驚いた事にコレに賛同してくれる者も少なからずいたのだ。反対派の者達も殆どは民の安全などを気にしておって、それさえ確保出来ればなんとかなるだろう。今は反対派の者達と議論を交わしており、進行は一時止まっておる」
ヴァンが人間滅ぼすのにかなり抵抗あったのは前の語りで知ってたけど…はあ〜、今そんな事になってんのか。なんだよ、俺に頼るみたいな事言ってたけど、1人で全部出来てるじゃん。頑張ったんだな、ヴァン。
「優しい世界、か」
「む?」
「いや、前の世界じゃこうは行かないだろうなぁ〜、って思ってさ。ま、人間側はどうか分かんないけどさ、頑張れよ、ヴァン!」
「あぁ!当然だ!」
--今思えば、ここで止めておけば良かったんだ--
しっかし、そんだけ恨み辛みを断ち切れる人が多い亜人族が、なんで何年も何年も人間と戦争なんてしてんのかね?優勢だから余裕が出てきたのか?それとも、やっぱりヴァンの力が大きいのかね?
「ん?そう言えば気になってたんだけど…」
--いい話で、終わらせておけば良かったんだ--
「そもそも、人間と亜人が戦争する事になった発端って、何なんだ?」
「な…に?」
その瞬間、ヴァンの表情が消えた。
「え?何?」
すぐさま焦る様な顔になり、右手で顔を覆う。
「お、おい、どうした?」
目を見開き、顔を覆う手に表情が変形する程力を入れ、滝の様に汗をかき始めたヴァンは、暫しの沈黙の後、言った。
「……わからん…」
「…は?」
「分からんのだ……なぜ戦争が始まった?どうしこんな事に気が付かなかった?何故だ⁉︎何が起きている⁉︎分からん⁉︎分からん⁉︎」
「ど、どうしたんだよ⁉︎落ち着け‼︎」
「神話?種族の差?大陸の違い?否!否!何故だ⁉︎人間と亜人の過去に何があったと言う⁉︎いつから戦争は始まった⁉︎何故こんなにも簡単な事が分からんのだ⁉︎」
癇癪を起こした様に一頻り声を張り上げた後、呟く。
「……人間と亜人の争う理由は……ない……‼︎」
その日から数日、ヴァンが姿を現す事はなかった。話によれば、ずっと書物庫で歴史の資料をひっくり返していたそうだ。そして、書物庫から帰ってきたヴァンは窶れた顔で急ぎ国の重鎮を招集。反対派の意見を全て無視し、人間との平和協定を押し切った。
それから一ヶ月とせず、ヴァンの指揮の元、人間との停戦条約は進み、平和協定は結ばれる事になる。
--そして--
「アンタで最後、か」
「ふむ、ヴァリエンテ王は良き友を持った様だな」
「……なぁアンタ。なんでこんな事したんだよ?そう言うキャラじゃないだろ?」
「ふんっ…死に逝く者に教える義理などない」
「じゃぁさ…」
「怨敵同士が相見えたのだ!言葉など最早無粋!なすべき事は一つぞ!」
「あっそ……」
クライ・ベルガンド、16歳の誕生日。ラシュフォンドである大事件が発生する。
「小僧‼︎覚悟ッ‼︎」
「んなもんとっくに出来てるよッ‼︎」
ラシュフォンド王国国王軍幹部4名の暗殺事件。
「【羅貫烈旋】ッ!!!」
「【抜刀・……!!!」
その犯人は、俺だ。