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第14話 政略結婚

技とは『相手を負かすため、一定の型に基づいた動作』らしい。だけど『一定の型』って、なんだろうか?〜〜道とつく物じゃあ、確かに型と言う物はある。でも、実戦での想定パターンは如何程の物なのだろう?

相手が予測出来る動きをすると限らなければ、同じ武術、武器を使ってくるとも限らない。まして想定の場面が都合よく訪れるなど先ずないと思う。それが実戦だ。

例えば空手を極めたとしよう。しかし、相手が槍の達人であった場合、果たして勝利できるのか?恐らく不可能だろう。例えば剣道を極めたとして、相手が銃を持っていたならば、果たして勝つことはできるのか?十中八九無理だろう。

理由は簡単『そもそも、そんな事は想定していない』からだ。

槍術に槍を掴まれた時それを振り払う術はあっても、空手に槍を弾き飛ばす技は存在しない。ガンマンに人を狙撃する技術があっても、剣道に鉄砲玉を両断する術は存在しない。

だから負ける。

ならば、想定さえしてりゃぁいいのか?と言うと、話は別だろう。想定し、対策を立て、鍛錬を積み、無駄を省き、体に染み込ませ、実戦で使える様にまでしてやっと『技』として完成する。

必要なのは無駄を省き、極限まで極めた一手。最早刀は十全に振るえる、後は技を磨くだけ。


「フーッ‼︎」


想定するは一歩圏内の間合いに相手が入った時。最速で繰り出す事の出来る技は何か?


ドンッ‼︎


一歩地面を踏みしめ、放つは突き。刀を背にでもやってない限り、どの方向からでも繰り出す事が可能であり、その動作は『引く』『突き出す』の二動作のみ。一歩の際に『引く』動作を行ってしまえば、地面を踏みしめる時には『突き出す』の一動作で済む。

一つ、これを技にしよう。

想定するは納刀状態でありながら、同じ刃渡りの得物を持った相手の間合いに入ってしまった時。相手より速くやいばを通すにはどうすればいいか?


ジャッ‼︎


鞘を後方に引き、刀は前方へ。重心を前へ向かわせつつ、腕を鞭の様にしならせ、その切っ先で虚空を断つ。抜刀。鞘を同時に引く事で抜き放つスピードをより速く、前傾姿勢になる事でより遠くへ、肩、肘、手首を上手く順に動かす事で遠心力を加算させる。

また一つ、これを技にしよう。

想定するは正眼に構えた時、相手の槍による体重の乗った突き。コレを捌きながら敵を討つにはどう動くのが最適か?


ザッ‼︎ヒュッ…


刀を仮想の槍に這わせ左へ、同時に踏み込み、瞬時に手を返し振り払う。最初の動作は槍を逸らし抑える為、踏み込みは距離を縮め、即座に刀を翻す事で相手を斬りつける。ここまで一息でこなす。

一つ。

想定するは足の速い弓士と遠距離戦になった場合。魔法の殆ど使えない俺はどう対処する?


キィィ‼︎ドォッ‼︎


大量の魔力を注ぎ込んだ刃で、横一線、斬撃を飛ばす。大した技術は存在しない、あるのは魔力に持たせた特性。斬撃は遠くなればなるほど波紋の様に広がり、やがては地に足をつけて回避できない程に広がる。

また一つ。

想定するは鎌、想定するは魔法、想定するは斧、想定するは無手、想定するは格上、想定するは盾、想定するは虫、想定するは銃器、想定するは竜、想定するは素人、想定するは槌、想定するは多数、想定するは……


--------------------ー


初めに気が付いたのはヴァリエンテだった。

地面に沈む巨大な二足歩行の豚を臨み、目を剥いた。

オークジェネラル。

硬質な筋肉に、素人の剣では傷一つ付けられない皮膚、自分の二倍はあろう重量ですら軽々と持ち上げる剛力、異様なまでの耐久力、魔法にすら耐性があるこの魔魔物は、Sを頂点とし、強い順はらABCDEFまであるランク分けの中でC。中堅の冒険者でも1人では倒すのが難しいと言われている魔物だ。それが闘技場の地面に倒れ伏している。

首の無い状態で。


「はぁ、はぁ、…あ〜っ、なんとか、リベンジ成功ってとこかぁ」


肩が上がった様子でそう言うのはクライ・ベルガンド。息こそ荒い物の、彼の体には傷一つ存在しない。


(肉体強化すら無しにCランクを狩るか、すさまじいな……流石は我が友)


始まりは唐突だった、デビルモンキーにリベンジをしたいと言い出したのだ。そして始まったリベンジマッチにヴァリエンテは驚愕する事となる。

デビルモンキー、オークジェネラルと同じくCの魔物。しかし、デビルモンキーとオークジェネラルを戦わせたなら9-1でオークジェネラルが勝つだろう。その理由は単純な力の差、そして”狂化”に入る前に叩き潰されるからにある。

そう、以前クライが戦った時、体が赤くなったのが”狂化”だ。肉質が変わり、血流が加速、更に恐れが無くなり狂乱状態に至る事により、目につく全てを葬り去らんと暴れ回る。通常デビルモンキーを倒す場合、この”狂化”に入る前に急所を狙い斃す。

だが、クライは違った。

まるで前回の再現の様に、チクチクと小さな傷を蓄積され、”狂化”に至らしめる。そしてデビルモンキーの渾身の一撃が放たれた時、それは起こった。

突きの一撃。

名実共に亜人族最強と詠われたヴァリエンテを持ってしても驚かされる程の完璧なる刺突。それによって心臓を貫かれたデビルモンキーはそれはもうアッサリと死んだ。

それから数戦を得て、現在に至る。

彼に何が起こったのか?ここ最近の成長ぶりは目覚ましい。


「んじゃ、帰りまっか」


何時もの如く、安定しないおちゃらけた口調でそう言うと、ヴァリエンテの居る場所まで跳び上がる。恐らく彼は、自分がどれ程重大な事を成し遂げたのか理解していないのだろうと思うとヴァリエンテは小さく笑った。


「どうしたん?」

「いや何も。しかしクライよ、お前の成長ぶりには驚いたぞ。この短期間で一体何があったと言うのだ?」


思わずそう問いかけると


「何にも?ただ、刀を思った通り振り回せる様になっただけだよ」


そんな筈が無いのに、さも何事も無いかの様にそう返答する。それがおかしくてヴァリエンテはまた小さく笑らった。


「なんだよ」

「ふはは。クライも強くなったものだと思ってな」

「まだまだだろ、なんたってSまであってCなんだからさぁ、あと3つも上あるじゃん」


クライは知らない。Sランクの魔物と言うのは天災と同じく、人が相手取れるものでは無く、Aランクは人類の勝てる限界と呼ばれ、Bランクは単騎の限界、Cランクは鬼門と呼ばれている事を。その鬼門を実質技術と身体能力のみで打ち破った事を。


(懐かしいな。あれはもう何年前の事だっただろうか?)


ヴァリエンテは懐かしむ。15歳のいつか、単身Cランクの魔物に挑み、それを打ち破った時の達成感。歓声を浴びた高揚感。そして王として父に認められたその日を。


(まぁ我はCランク上位、それも素手で戦ったがな)

「ははは!ならば一層精進するがよい。だが無理をし過ぎて倒れてくれるなよ?娘が煩いからな」

「あぁ分かってるさ、ぶっ倒れる寸前で止めとく」

「全くお前は……相変わらず途轍もない向上心だな」

「向上心っつーか、現状これだけが取り柄みてーなもんだからなぁ。目標もあるし、やり甲斐もそれなりに感じてる。あ、次はもっと強い奴頼むわ、最低でも2回で倒す」

「この闘技場でオークジェネラルより強いと言ったらアイアンベアーしか残っとらんな。それを倒したなら、魔獣の森と言う闘技場の魔物の原産地に連れて行ってやろう」

「うっし!なら一回で倒せる様、気合い入れるか!」


クライ・ベルガンド、15歳にして数々のCランク魔物を撃破し、亜人王ヴァリエンテ・ラシュフォンドに次ぐ功績を残す。


--------------------ー


ある日の夕飯時、それは突然起きた。


「クライ、お主、ディアナと結婚する気はないか?」

「ブッ!」

「ごふっ…!」


唐突にレインネルさんが爆弾投下。

俺とディアナちゃんはスープを吹き出した。


「ゴホッ!ゴホッ…いきなり何を言ってんですか⁉︎」

「いやな、最近ディアナに見合いの話を持ち掛けようとする貴族が多くてのぉ」

「いやいやいや、大体ヴァンはそれでいいの……」

「あんな欲物共にディアナが渡るなんておぞまいし、考えただけでも吐き気が!だいたいどいつもこいつ地位だけの豚の様なブツブツブツブツブツブツ……」


か?って言おうとしたけどなんだろうこの人?ヤバイ、抱えてブツブツ言ってるよ…ん?え、ちょ⁉︎貧乏揺すりで床と机がメッチャ揺れてる!どんな力を入れしてんの⁉︎


「と言うことじゃ、そんな地位だけの奴らに娘をやるくらいなら、クライへとな、位だけに。ぶふっ…」


く、くだらねぇ…じゃなくて!

両親公認…だと…⁉︎バカな…んなアニメやゲームでもあるまいし。いやアニメ、ゲームみないな世界だけどさ!


「いやシャレいってる場合⁉︎つかそんな簡単に決めていい事なのか⁉︎それに当のディアナちゃんだって……」


なんか物凄い眼光で此方をみてらっしゃる、顔は赤くなってるけど、目が怖いよ…それどっちの目よ…


(了承して下さいまし…)


おい、心読むどころか遂にはテレパシー使い始めたよこの子…


「お主だってディアナの気持ちには気づいておるのだろう?それに明確な拒否もしない、ならばいいのではないのか?」

「いやでもなぁ…」


確かにディアナちゃんが他の人よりも俺に懐いてるのは良く分かってる。そこに好意的な物があるのもだ。だけど、まだ13の子供だぞ?それも周りに居る近い年の子供は俺くらい。

それって、初恋の相手が従兄弟だったような感覚とか、先生だった感じじゃないんだろうか?

だって俺そんなフラグ立てた覚え全くないもん。


「それにお主とディアナが結ばれれば、終戦への第一歩となるかもしれんぞん」

「……はい?」


え?何がどうなってそうなった?ごめん話聞いてなかったかな俺。整理しよう、えーと?ディアナちゃんと俺が結婚→終戦。うん、ちょっと何言ってるか分かんない。


「え?ちょっと待って、なんでそうなるの?」

「何故て…お主、公爵じゃろうが」


へぇ〜ワイ、公爵やったんやね。クソ親父そんな事全然教えてくれなかったぞ?そうかぁ、公爵かぁ、偉いね

じゃないよ、なんで俺が公爵になるの?俺爵位貰った覚えなんて一片も無いし、そもそも隔離されてたんだけど…つーかその前に兄貴いたし、爵位貰うにしても、多分俺死んでる事になってるか元から居ない扱いになっててシルヴィアが継いでるんじゃないの?


「知らんのか?イーシャの爵位は王族と同じよう、長兄が継ぐ事になっておる。しかし、その長兄が死した今、残る男児はクライ・ベルガンド、お主だけじゃ。幾ら妹が爵位を継いでいようと、生きたお主が出て来れば、正当な理由がない限り爵位は自動的にお主の物となる」


何その年功序列型……そんなんで大丈夫かよ人間の国。

でだ。確か公爵って王族の次位に偉いヤツだよな?それが魔族の王の娘と結婚してなんで戦争終わるかも知れないの?寧ろ異端者として吊るし上げられそうなもんだけど。

俺が頭にハテナマークを浮かべていると、ヴァンが口を開く。


「現状、イーシャ大陸側の勝利は絶望的だ。だからこそ”勇者”などと言う幼子に縋り、必死で神などと言う居るか居ないかもわからぬら物に祈りを捧げ、大丈夫だと自らに暗示をかけている。そこへ停戦と言う架け橋を渡されたらどうだ?」

「え?飛びつくんじゃね?」

「お兄様、普通疑うと思いますよ……圧倒的優位な相手が、突然妥協点を示してくるのですから、不気味でしょうがない筈ですわ」

「ディアナの言う通りだ。人間は何を要求されるか分からず恐れ疑うだろうな。そこでクライ、お前の出番だ。公爵とは王族に次ぐ地位、そしてお主のベルガンド家は王族の分家に値する。つまり、お前は王族の血を多少なりとも受け継いでいるのだ」


な、なんだってー!

いやマジでなんだってー!だよ、初耳の連続で耳おかしくなりそうなんだけど⁉︎じゃぁ俺って髪と目が黒いってだけで、実際は相当偉いって事?差別ってスゲェ!

うん、現実逃避は止めよう、いや、全部事実だから逃避できてないかぁ……


「段々分かってきたぞ。早い話、俺とディアナちゃんは保証って事か」


疑われるなら、それが嘘でないと言う保証を差し出せばいい。

ディアナちゃんと俺が結婚したとすれば、人間側に与えられる利は大きいだろう。何せ国のトップの一人娘、怨敵に差し出すようなものでは決してない。亜人側の友好性が伺える事だろう。更に言えば亜人は今、圧倒的有利な状態だ、態々そんな嘘を吐いてまでリスクを負う筈がない。信憑性は十分。そして俺は人間だ、お偉いさん達は挙って俺を取り込もうとするだろうな、何せ同じ人間、当然魔族(亜人族)を恨んでると思い、情報を引き出す為あの手この手で唆してくるに違いない。

しかし、俺はヴァンの友達で、人間をどうとも思って居なければ、亜人を恨む心も持ち合わせていない。何より政治云々の事なんて点でダメだ。だからこそ余計な事は言わないし学ぼうとも思わない。そしてヴァンはそれを知っている。

俺と言う途轍もなく微妙な立ち位置だからこそ為せる技。


「まぁ、考えている事は大体あっているだろう。して、どうする?」


少し身を乗り出し、ニヤけ顏で聞いてくるヴァン。なので俺はハッキリと自分の意見を伝えようと思う。ディアナちゃんが真剣な眼差しでこちらを臨む中、俺は勢いよく口を開いた。


「こ・と・わ・るッ‼︎」

「何故だ?」

「んなディアナちゃんを利用する様な真似出来るかボケ‼︎」

「よくぞ言った!それでこそ我が友だ‼︎」

「応よ!」

「「ハハハハハ!」」


喜びを分かち合う様に肩を組み、笑いあう俺達。非常に行儀が悪いが気にしてられない。

秘技、話逸らし。成功だ。

ふぅ…いや〜焦った焦った。いきなり結婚どうのとか言ってくるんだもん、まいったよ。

いや、別にディアナちゃんが嫌いな訳じゃ無いんだよ、寧ろかわいいと思う。

でも現状俺が向けてるのは家族的な好意であって恋愛感情じゃない!つーかまだ13歳だぞ!俺はロリコンじゃなーい‼︎


「なら婚約じゃの」

「はゐ?」


おいちょっと待ってくれ、まだ続けんのかこの話。つーかどうしてそうなったんだレインネルさん‼︎

誰か助けてくれ〜‼︎

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