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第13話 一日

はーい、14歳のクライ・ベルガンドですよー。

うん、生きてた。

あの後、豚さんオークとのバトルは白熱した訳でもなく、案外あっさりと決着が着いた。ガキの頃から鍛えまくってる俺の相手が贅肉だらけで二足歩行の豚じゃ遅すぎたんだ。

ドスドスと歩き、ぐわん!と斧を振り上げるもんだから、その隙に足斬ったら動けなくなった。後は後ろに回ってチクチクするだけ。

圧☆勝!

え?卑怯?勝てばいいんだよ。

まぁ、初戦闘の俺がこんなアッサリ勝つとはヴァンも予想外だったらしく、ならばと更に強い奴を出して来た。

んで、出てきたのがオークジェネラルとか言う肌が青くてオークの贅肉を筋肉に変換して2回りくらいデカくしたヤツ。

殺されかけた。

うん、正直ヴァンはアホだと思う。スピードが売りの俺がさ、あんな筋肉達磨に並走されたら勝てる筈ないやん。避けるのも精一杯だわ。

そんなこんなで夜な夜な闘技場で行われる実戦は始まった。案外魔物でも参考になる動きはあり、俺も日に日に成長し、今ではこの重い刀を片手でも易々と振れるまでになった。


「フゥッ‼︎」


一閃。完全に調節可能となった肉体強化を乗せた抜刀で木を薙ぎ倒す。

うん魔力操作コッチも大分慣れて来たもんだな、無理だとか思ってた頃が懐かしい…まだ2年くらいしか経ってないけど。いや”もう”かな?


「スゴイですわお兄様!いつ刀を抜いたか分かりませんでした!」


後ろで見ていたディアナちゃんから拍手を貰う。ははは、止めろって、天狗になるぞ。


「マジで?そろそろ技名とか考えておいた方がいいかな?」

「へ?何故、技名ですの?」

「え?だって達人とかだとなんかそう言うの持ってない?ほら、ナントカスラッシュ‼︎とか、なんたら斬ッ‼︎とかさ」

「う〜ん…確かにありますけど……何と言えばいいでしょう?本人がその技を作ってる最中から見るのはちょっと…」


うん、痛いね。

でも僕は気にしない。流石にあの黒い刀はゴメンだけど、コレはまた別物だ。と言うかカッコイイ技作りたい(迫真)。

と言う訳で考案しようそうしよう。


「本当はもっとこう、円を描くように摩擦を限界まで利用して斬りたいんだけどね。強化なしで」

「そ、そうなんですの?頑張って下さいまし…」


速攻で話題を変えられてディアナちゃん苦笑い。そりゃそうだわな、人間が強化魔法なしで大木斬るなんて至難の技だ、つか亜人族でも竜人、鬼人とかのパワータイプに大剣でも持たせなきゃ無理だろ、それもフルスイング。

と言うのは飽くまでも一般人であり、鍛えた戦士ならこのくらい当たり前なんだよ!異世界ではな!

事実、ヴァンなら素手で大木を薙ぎ払える。

とにかくこのままじゃダメだ、強化魔法はしばらく封印だな、練習は欠かさないけど。斬る感覚が分かっただけで良しとしよう。


「もっとこう…ふん!ふん!」

「あぁ、またお兄様の病気が始まりましたわ…コレは止めるまでやめませんわね……」


ふぅん‼︎ちげぇんだよ!もっとこう扇型にだな!摩擦!摩擦!


「クライよ…」

「ん?どうしたヴァン」

「いい加減庭の木を斬るのはやめてくれんか…」


気がつけば城の中庭の木を半分くらい斬ってた。うん、ここ最近毎日やってたもんね。やらかした。


「あ……ゴメン…」




魔力操作を上達させるにあたって、何かコツがあったか?と言うと、ない。地道な修行で感覚を養っていっただけだ。と言うか、それしかないと思う。あ!こうやったらいいんじゃね?こう言うイメージでやりいけるんじゃね?何てのは通用しない。そりゃなぁ、水の動きを再現しろったって出来ないっしょ?そういう事。

だからこそ魔力操作は難しい。なのにーー


「その刀で殴ってみぃ」

「へ?」

「勿論、やいばの方でじゃぞ?」

「いや、あの、それ斬るの間違いじゃ…」

「そんな間違いせんわ!魔力を使って線を面に変換するんじゃ!」

「えぇ〜…」


--レインネルさん無茶振り多過ぎぃ!

この間は魔力で曲げるとか言う謎の訓練させられたし……

あ、因みにコレは前にちょこっと言ってた”消費”。魔力操作は動かすだけなので、結局魔力残量はかわらないけど、消費は魔力を別の力に変換しながら行うもんだ。簡単に説明すると、水をコップの中で揺らすのが肉体強化とかの魔力操作系。気化させたり凍らせたりするのが魔力消費系だ。つまり火を出したり水を飛ばす魔法は全部消費系になる。

んで、俺って無属性しか使えないじゃん?だから無属性なりに応用して戦術の幅広げようって事になって……


「斬れとるぞ、棒をイメージせい棒を」

「クッソ先入観が全っ然抜けねぇ…」

「言い訳をするでないわ!」

「すんまんせんっしたぁ!」


コレですよ。

もうね、斬撃飛ばすのから始まって、飛ばしたのを曲げる、広げる、加速させる、穿つ、爆発させる。それを素手でも出来る限り試してみたり、よく分からんほぼ魔力操作みたいな事やらされたりしてる。

今やってるのは、多分攻撃の特性を変えろって事なんだろう。斬を打に、打を突に、突を斬にってさ。

ぶっちゃけそんなのどこで役に立つんだろう?突を斬にとか、出来ても先端部以外の威力皆無だぞ経験上。まぁ、その経験が上のレインネルさんが言ってるからなんかスゴイ効果があるのかも分からんけど。


「むずいっス…」

「妾は10分で出来たんじゃがなぁ?」

「レインネルさんと一緒にしないで…」

「まぁ仕方あるまい、魔力が切れるまでの辛抱じゃ、頑張りなはれ」


この人、魔力切れ起こさせるこ好きなのかな?毎日過ぎてもう魔力切れ状態の方が落ち着くわ。まぁ、着々と力をつけられる訳だし、いいか。


「しっかしレインネルさん、魔力って使えば使う程少しづつ増えて行くじゃないですか?アレってどのタイミングで増えてるんですかね?」

「ん?なんじゃ、そんな事も感じ取れておらんかったのか?」


あ、ヤベ……


「もしや魔力が回復する時間も把握してない訳じゃあるまいな?」

「え、え〜と……」

「……今日から授業時間を増やすぞ」


あぁ〜〜‼︎




「今日の相手は〜?」

「直ぐに出てくる」

「おっ、みたいだな」


ガラガラと鉄格子が上がり、何かがのっそのっそと這い出てくる。


「デカイな〜」


月明かりに照らされ、その姿を晒したのは猿だった。ただ、腕を足に見立て、前傾姿勢になっているにも関わらず、俺より上に頭がある。

足ピンと伸ばしたら何メートルあるんだろ?


「ウキャァァー!」

「デビルモンキー。ただのデカイ猿だ、すばしっこいから気をつけるのだぞ」

「はいよ〜」


雄叫びを上げながら突っ込んでくるデビルモンキー。間合いに入るや否や腕を振り上げ俺を叩き潰そうとしてくる。

腕長ぇなコイツ…

右にステップを踏み回避。デビルモンキー…もう猿でいいや、猿は地面に叩きつけた腕をそのままラリアットの様にして追撃してくる。なので手首辺りを蹴り抜き、反動を利用して飛ばしてきた左腕も刀の柄で弾く。

痛がってる様子がない、割と硬いか?

そのまま俺は回転、その際右手で柄をひっ掴み、そのまますれ違う様にして抜刀、脇腹を切り裂く。


「ギャギィッ‼︎ギ…キキキキ‼︎」


お、効いた効いた、結構血が出てらぁ。ちなみに鞘は左手に持ったまま、コレが俺のスタイル。刀を片手で使うなんて効率悪いって思うかもしれないけど、コレにだってちゃんと意味がある。ま、それはその内話そうか。

しっかし、今思うと最初の相手がオークで良かったわ。見かけに惑わされて必死になってたから、あんまし気にならなかったけど、ウサギ見たいのを一方的に斬りつけてたら胃の中の物吐き出してた自信あるよ。実際に見てみると本当グロい。今でもちょっと寝る前に思い出して気分悪くなる。

っと、そんな事考えてる間に猿の左腕が薙ぎ払いを放ってくる。しゃがんで躱しつつその軌道上に刃を据えれば相手の腕に切り傷が出来上がる。

腕を振り抜いた勢いを利用して今度は右。バレバレなその動きに呆れつつ、脇の下を通る様にして足を斬りつけ、後ろに回り、ついでに背中を浅く斬る。


「ギギギ‼︎」


お〜怒ってる怒ってる。

しかし、やっぱりちょっと硬いな。最初の抜刀が一番深く斬れたけど、脇の下弱いのか?

でも遅ぇ、コレならこの間戦ったドデカイ蟹の方が強かったぞ?態々弱いのなんてよこすか?何かあんのかもしれないな。


「ウキャキャァー‼︎」


あ、ダメだなコイツ、キレて攻撃が荒くなってやがる。それじゃあ見え見えだろ。長い腕と身長差のリーチも全く活かせてない、易々と懐に入り込める。んで斬る。今度は下がって、斬る。相手の攻撃を利用して、斬る。

うん、弱ぇ!

なんだコイツ?防ぐ手立てもないのに果敢に攻めてくる事は評価するけど、それだけだ。なんだ?恐怖心がないとかそう言う類のヤツなのか?冷静に対処しちまえばなんの問題もねぇぞ。

ほら、あっと言う血達磨の出来上がりだ。


「おいヴァン?弱い者イジメはダメなんじゃなかったのか?」


流石に気になってヴァンに声をかける。すると、上の観戦席で腕を組み仁王立をしながらも顔をこちらへ向け、こう答えた。


「余所見をしていてよいのか?」

「へ?」

「ギャヴガァァァアアアア‼︎」


突如耳をつんざく程の咆哮が迸り、何かと猿の方へ目を向ければ、驚きの光景が広がる。


「は?何じゃそりゃ…」


血が蒸発し、湯気が出る体。その肉は先程とは違い、筋が見える程締まり隆起している。全身は異常な程赤く、何が作用してそうなったのかは全く分からない。ただ、一つだけ言える事があった。

コレ第二形態じゃヤバくね?


「グギャァァウ‼︎」


さっきまでとは段違いのスピードで猿が突貫してくる。急いで避けるも少し遅れ、右の拳が俺の左腕を掠める。


「がッ⁉︎」


それだけで右腕には激痛が走り、大きく吹っ飛ばされる。

コイツパワーも段違いに上がってらぁ!

何とか足から着々、気付けば猿は目の前で腕を振りかぶってる状態だ。迷わず前へ、リーチ的に考えても下がるのは得策じゃない。内に入り込んで攻撃だ。



一閃、皮を薄く斬った。



はぁ⁉︎嘘だろ⁉︎硬くなってやがる‼︎

力、速さに加え、硬度まで上げられたらもう手の付けようがない。鬼の様な猛攻を紙一重で凌ぎつつ反撃するも肉を断つには至らない。突きも試したけど肉を締められて抜けなくなりかけた、使えない…

コレじゃジリ貧だ‼︎


「ギャギャギャギャギャギャ‼︎」


バーサーク状態かよ‼︎猛攻が止まらない!何とか目で追えてるから対処できるけど、コレはキツイ‼︎

レインネルさんの授業の後であんまりないけど、魔力使うしかなさそうだ。

そうと決まれば足に魔力を集中させ、爆破させる様なイメージで消費、空を駆ける。次に腕と刀をへ魔力を回し、加速、強撃。背の肉を斬る。


「ギィギャァア‼︎」


よっしゃ!効いてる‼︎これで勝て--


「ゔ…⁉︎」


--気がつけば壁にめり込んでいた。振り向きざまのフルスイングが直撃したらしい。

ヴァンがマントをはためかせながら闘技場に降り立ち、猿へ向かっていくのが見える。それをぼんやりと眺めながら俺の意識は薄れていった。

あぁ…負けたか……それにしてもヴァン…お前やっぱり翼生えてんだ…な……




「お兄様⁉︎」


目が覚めた。


「あ〜…そっか、猿にボコされたんだっけ」


アッサリした決着だったな。仮に見えてても空中だから避けようがなかったし、終わってたな。ま、勝負なんてこんなもんか…


「そんな簡単に言わないで下さいまし!お兄様は本当に危険な状態だったのですよ⁉︎」

「へ?そうなの?」

「お母様がいなければどうなっていた事か分かりませんでした…」


覗き込んでくるディアナの体の方へ視線を向ければ、その後ろにヴァンとレインネルさんが立っているのが見えた。


「少し大袈裟だが、危険だっと言うのは本当だな。我もまさか受け身も取らず直撃を受けると思わんかったんでな。すまない」

「まぁ、妾にかかれば擦り傷同様じゃがな」


どうやらレインネルさんが治してくれたらしい、痣どころか傷み一つ残ってない、普通に動ける。なのでそんなにヤバかったのか聞けばあの猿、オークジェネラルと同じクラスの強さらしい。ただ、オークジェネラルは中位で、デビルモンキーは下位。それでも一撃でここまでやられたんだから、豚へのリベンジはまだまだ先か…

その後、ヴァンとレインネルさんにお礼を言って、2人は戻って行った。部屋には俺とディアナちゃんが残る。


「……どうしてそんなに無茶をするのです?それも、自分から進んでなんて、おかしいです」


何を話していいか迷っていると、そんな事を聞かれた。自分から進んで無茶をするか、確かにそんな感じだな、俺。

なら、なんの為にそんな事をする?


「もっと強くなりたいからだね」

「どうして強くなりたいんです?」


どうして?そりゃぁ…


「守る為だよ、守りたいと思ったもの全部守る為に」

「それは、そこまでしなければ守れないものなのですか?」

「……俺は、今まで何一つ守れた試しがないんだ」


シルヴィアは、俺を守る為に色々してくれた。あのクソジジイのいいなりにもなったし、時には庇ってくれ。対して俺は何をしてやれた?精々遊んだりおしゃべりした程度、それも俺主体の物。最後に至ってはただの賭け、ヴァンの気次第だった。

今はいいさ、平和だからな。でも、戦争が終わった訳じゃない、人間が絶対に逆転しないなんて保証もなければ、シルヴィアが出てくる可能性だってある。

以前から変わらない問いだ。そんな時、俺に何が出来る?


「俺に妹がいるって事は知ってるんだっけ?」

「はい、以前お父様からも聞きました」

「最初は特に理由なんてなかったんだよね。でも、その子、シルヴィアって言うんだけど、俺はさ、ずっとシルヴィアに守られてばっかりだった。だから、今度は俺がシルヴィアを守れる様にって思ったのが切っ掛けで、本格的に鍛え始めたんだ。でも結局何も出来ないまま、ヴァンが来た」

「お兄様の街は…その、お父様に…」

「あぁ、別にそれは気にしてないよ。シルヴィアは無事らしいし、それ以外はかなり酷かったからなぁ。なんか、人間側じゃぁ『黒は悪い物』って風習があるみたいで、そりゃもう酷目にあったもんだ。だからその事については特に思う所はないんだよね」

「本当ですの?」

「本当、本当!じゃなきゃこんな仲良くなれないっての!でも、だからこそ思ったんだ『次は友好的な相手じゃないかも知れない』『同じ様な事が起きたとして、俺にはそれを防ぐ手立てはあるのか?』ってね」

「それで…」

「俺には地位も金も知恵もないからなぁ、己が身一つで頑張るしかないんよ。最悪、知り合い皆抱えて逃げ果せる位の力あればいいかな」

「ふふっ、なんですかそれ」

「いいんだよ、カッコ悪かろうがなんだろうが、死ぬ殺されるよかよっぽど増しさ。だからヴァンとレインネルさんとディアナ、3人抱えて逃げれれば俺はそれでいい。今の俺が守りたいものって、このラシュフォンド一家だからな」


3人を背負って逃げる。それは、裏を返せばそれ以外を見捨てると言うことになる。出来ればしたくないな。でも、俺に出来る事は本当に少ない。現状戦闘以外じゃ言葉をかける程度しか思い付かないんだ。でも、戦争止めろなんて言って止まるもんでもないだろう?だから力が欲しい、皆を守れる程度の力が。その為に俺は鍛えるんだ、目標はシルヴィアがヴァンと同等かそれ以上の力をつけてやって来たとして、そのシルヴィアとヴァンの戦いに割って入り止められる程の力。

道のりは険しいかも知れない、無謀な事かも知れない。でも、いざって時に何も出来ないなんで絶対にイヤなんだ。無茶だっで無理だって、俺にとっては価値のある物なんだ。俺は強くなりたい。


「…理由はよく分かりましたわ。お、お兄様がわ、わたくしを大切に思ってくれてる事も…ま、まぁ分かりました……けれど!それでお兄様の無茶をわたくしが許す理由にはなりませんわよ!」

「え?」

「お説教です!」

「えぇっ⁉︎」


何度目か分からない無茶に対しての何度目か分からない説教を食らいながら改めて思う。

もっと強くならないとな。

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