第10話 新たな目標
あの後色々と大変だった、刀の製造法なんて、一般人だった俺は当然知らない。知ってる事といえば、屑鉄から製鉄してる。泥を塗る、芯と外で柔軟性が違う。くらいなもんだ。
あってるかどうかも分からないし、それだけの情報で刀が完成する訳もなく、絵を描いたり、前に作った木刀を持ってきたり、どう言う物かを事細かく説明してみたり、最終的にはその鍛冶屋さんにも来て貰って一緒に頭をひねったよ。
鍛冶屋さんは定番のドワーフだった、名前はムルガ。声が大きく、もじゃもじゃ焦げ茶色の髪と髭、ガッシリした体つきだけど身長が低い典型的な感じのヤツだね。
この人がかなりいい人で、不明な点は色々模索してくれるらしい。俺の事も秘密にしてくれるらしく、何か思い出したら報告してくれと言っていた。
『ドワーフに作れねぇ武器はねぇ‼︎まかしときな‼︎』
だそうです。大変心強い。
だけど、その後別の問題が発生しちゃった。
「ぷ…くくくッ…ふふっ!」
「ふっ……ふふふっ!くふっ!」
「ハッハッハッハッ!フハッ!ヒッ!ハハハハハ‼︎」
「……」
ただいま私は水晶玉の様な物に手を置いています。そして笑いを堪えようとして堪えられていないレインネルさんとディアナちゃん。笑い転がる…おいヴァン、笑い過ぎだぞお前!
なんでこんな事になっているかと言うと、ヴァンが何気なしに言った『武器を手に入れた訳だが…クライは魔法は使わんのか?』と言う一言が発端である。
俺も魔法には興味があったため、教えてを乞うと、指導係として魔法が大得意と言うレインネルさんが登場。その際持ってきたのがこの水晶玉。
なんでも、この世界にある全ての物には魔力が宿り、生物なら自分の保有する魔力を好きに操る事が出来ると言う。
更に、魔力には属性と色があり、この水晶玉はそれを感知して対応した色に光ると言う便利機能が付いている。
属性と色はそれぞれ
火=赤色
水=水色
風=緑色
土=茶色
雷=黄色
冷=青色
闇=黒色
光=白色
となっているらしい。
これで誰でも何属性を保有しているか簡単に分かり、出た色によってレインネルさんが特訓コースを設定してくれるそうだ。
通常、人族は2〜3属性程の属性魔力を保有しているらしく、水晶玉は強い属性から順にネオンよろしく怪しく光るらしいのだが…
現在俺が触れているこの水晶玉。
な、な、なんと‼︎
光っていない‼︎
つまり無色!俺は無属性、ただの魔力しか保有していないと言うのだ‼︎
どう言うこっちゃぁッ‼︎
「こ、コイツが壊れてるんじゃないかな?ちょっとヴァン、代わってくれ」
そう言ってヴァンの方に投げると、ヤツは寝転がりながらキャッチ。水晶玉は直様七色どころか八色に輝いた。
ヴァンは希少な全属性持ち。
そして返される水晶玉。
俺はそれよりも希少な全属性無し。
水晶玉は光らない。
「ウハハハハ!や、やめろクライ‼︎フハッ‼︎は、腹が、腹が砕ける‼︎ハハハハハ‼︎」
「笑い過ぎだこの野郎!」
「ぬゥ‼︎」
笑い転げる姿がムカついたので蹴りました。
畜生…自分が全部持ってるからって調子にのりやがって!大体魔王が光も持ってるっていいのかよ!
「我は魔王ではない。ラーナー大陸亜人国家らしゅ」
「あーもー分かったから!それ100回くらい聞いたから!つーか心読むなよどうやった⁉︎」
「いや、なんとなくだ」
スゲェなオイ!
しっかし無属性て…聞こだけは強そうだけどぶっちゃけただの魔力だよね?あ、もしかしてアレか?無の力が!とかか?
「む、無属性か…これでは妾も教えようがないな…ぶふっ!」
「笑わないで下さい」
因みにレインネルさんもディアナちゃんも全属性持ち。本当に珍しいのか疑問になってきたよ。
「無属性では肉体強化や身体能力強化、魔力弾が精々じゃな」
「え?無色の魔力弾って強くないですか?」
「いや、魔力感知でバレるぞ」
使えねー!
「肉体強化、身体能力強化って無属性でしか?」
「いや、魔力自体皆持っているものじゃからのぅ、当然皆出来るぞ。と言うか出来んヤツなぞいないじゃろ」
本当使えねー!
「む、無属性固有の力なんてものは…」
「ないのう」
そりゃそうか……火とか使える属性魔力に比べたら、無属性なんてシロップのかかってないカキ氷みたいなもんだしな……
と言うか俺、今まで武器相手想定してたけど、皆魔法使えるって事は、大分違うよね?
ダメじゃん。
クッソ最初からやり直しかよ……と言うか魔法ってどうやって対処すればいいんだ?
「ま、まぁそんなに落ち込まないで下さいまし。魔力も使い方次第!無属性だって役に立つ筈ですわ!」
両手両膝を地面につけて落ち込む俺を、ディアナちゃんが励ましてくれる。なんていい子なんだろうか。
でもディアナちゃんも全属性持ちなんだよね…
あ〜ダメだダメだ!嫉妬に飲まれてるぞ俺!しっかりしろ!
「そうだよな!属性がなんだ!そんなもん全部覆してやる!」
「その意気ですわ!」
「カッカッカッ!いい威勢よのぉ。どれ、では魔力の使い方を教えてやろう」
「お願いします!」
「と、言うても、肉体強化は体に魔力を循環させるだけじゃ。身体能力強化は一部に魔力を集中させればそれでよい。早速やってみぃ」
「…え?」
こう言うのって、最初は魔力を感じる修行から始まるんじゃないの?俺、魔力なんて不思議パワーが体にある事を全く感じてないんだけど…
「あの〜、俺、魔力自体感知出来てないんですけど…」
「なに?それはいかんのぉ…妾は物心ついた時にはもう感知していたが」
「我もだ」
「わたくしもですね」
魔力なんて最初から感知してて当たり前なのか?と、思った俺は部屋の中にいたメイドの方へ視線を送ると、メイドは無言でフルフルと首を横に振った。
あ、多分この人達、魔力量が多過ぎて嫌でも分かっちゃう感じの人だわ。出発地点から別次元だよ。
「ま、なんとかなるじゃろ。ホレ、やってみぃ!」
「いや、無理ですって!」
「お兄様頑張って!」
「アレ?話聞いてる?ねぇ?」
「お前なら出来る筈だ。信じているぞ!」
「あぁもう分かったよ!やってやらぁ!うぉぉおおおおお‼︎」
結局出来ませんでした。
いつも通り特訓を終え、芝生に寝転がる。無属性発覚以来、寝る前に魔力を感知しようと集中するのが日課になったが、それ以外殆ど変わらない毎日を送っている。
ラシュフォンドでの生活は楽しくて、時々時間を忘れてしまう。
「もう一年経ったのか…」
修行とか言ってずっと外にいる所為か、太陽の位置とか見える星で大体の時間が分かる様になっていた。それに、ラシュフォンドには微弱だけど四季があるから、温度も相俟って今では一年の流れが分かる様になっきた。
そして気がつけば一年が経っている。
もう十二歳かぁ、なんか長かった様な短かった様な…ま、過ぎれば一生でも一瞬か。
「俺がコッチに来てから2年になるんだな…」
寝転がって空を仰ぎなから、独り言のつもりでそういった。
しかし、それに答えるものがいる。
「早かったな」
「ヴァン…」
「思い出しているのか?」
「あぁ、ちょっとな」
「お前、昨年のこの時期もその様になっていただろう」
「そうだっけか?よく覚えてないな」
「あの時…我がクライと出会った時、お前は誰かを庇っていたな?」
「気付いてたのか…」
「まぁな、小さな気配だったが、潜在能力が高かった。恐らく気付いたのは我一人だ、安心するがいい」
「……あの子はシルヴィア、俺の妹だ」
丁度この時期だったと思う。都市にヴァン達が攻めて来たのは。
別にヴァンの事は恨んでないし、亜人族を悪く思ったりもしてない。
でも、やっぱり気になるな。
「シルヴィアは、あの後どうなったんだろうか?」
「……いつか話さねばならんとは思っていた…」
「知ってるのか?」
「あぁ。だが心して聞け、決してクライの想像通りとはならぬからな」
ヴァンの前置きに、俺は唾を飲み込んだ。
分かっているつもりではいるが、聞くのが怖い。嫌な汗が背中を伝う。
「そのシルヴィアと言う娘だが…」
「も、もったえぶるなよ…」
こう言う間が一番心臓に悪い。この後もっと悪い事にならないように願うばかりだ。
「生きておる」
「‼︎そ、そうかぁ…生きてるかぁ!」
よかった、本当によかった!一先ずは安心だ。
「だが、イーシャ教と言う人間が作り上げた宗教に保護され、現在は魔を打ち払う希望の光、勇者として祭り上げられておる。人間達はいずれ、その勇者を筆頭としラシュフォンドに攻め込む事だろう」
「そうなるのか…」
魔族の実態が分からない頃の俺なら、それでもよかったかも知れないけど、こうして仲良くなった今、それは許せない。
妹が親友を、もしくは親友が妹を殺す?
冗談じゃない、悪夢だ。
それだけはどうやっても避けないといけない。
「……我にとって、人間とは滅せなければならぬ大敵だった。若い頃から幾度となく戦場に出向いては、敵を殺した」
ん?ヴァンが語るなんて珍しいな。コイツも何か思うところがあるんだろうか?
「いつからだっただろうか?ふと、思う様になったのだ。人間と我等と、何が違うのか?とな」
素直に凄いと思う。普通その発想に至るか?同族が殺されているんだ、恨んで当然の相手なのに、歩み寄ろうとする。
きっとそれが、ヴァンと言う人なんだろうな。
強い。
魔王と恐れられただけはあるよ、全く。心身共に、強い。
「しかし、我は人間に殺意以外の感情を向けられた事がない、戦場は常に命の駆け引きが行われているのだから当然だな。手をこまねいていたら此方が殺られてしまう。答えを出せぬまま、言葉の通じる相手を斬り続け、我の心は荒んでいった」
当たり前だ……そんな事意識しちまって、正気でいれる筈がない。
「そして遂に、要である要塞都市の一つを落とした。いや、落としてしまった。こうなったらもう後戻りは出来ん。勝利は目前なのだ、どうして止められようか?そんな時、我の前に立ちはだかったのがお前だ、クライ」
「俺?」
「そうだ。我は戦慄した、娘とそう変わらない歳の子供が出てきたのだ。こんな子供まで殺さねば為らぬのかと、これからも同じ事を繰り返すのかと、お前がディアナと被り、手が震えた。だが、やらねばならぬ。我は王なのだから、示さねばならぬ」
あぁ、あの時コイツの目が冷たいかったのは、そう言う事だったのか。
「だが、決心とは裏腹に、出たのは情けない言葉」
『我が憎いか?』
「憎いと言って欲しかった。理由が欲しかった。そうでなければ、我は子供を殺すなど、到底できなかったのだ。しかし、ままならぬ事に、帰って来た言葉は」
『憎む程ではないかな?』
「混乱したぞ、もうどうしていい分からなくなったわ」
なんだ、ヴァン、お前もか。俺もあの時どうしていいかわかんなかったぞ。だからーー
「結果問答の末、有耶無耶にしてお前をラシュフォンドへ連れ帰った。我は殺す事を諦めたのだ」
ーー俺は生きる事を諦めたんだ。
「もしあの時、お前を殺していたのなら、我は壊れていただろう。王失格だな」
「いいんじゃないかな?王様としては失格かもしれねぇけど、人としては合格だろ。お前は王である前に、ヴァリエンテ・ラシュフォンドって一人の人間なんだからよ」
「そうか……だがクライよ、我は亜人だぞ?」
「あ!おめ!人がフォローしてやってんのに揚げ足取るなよ!」
「ハッハッハッ!取られる方が悪いのだよ!」
笑い合っていると、別の方向から声をかけられる。
「お兄様ーー!お父様ーー!」
振り向けば、ディアナちゃんとレインネルさんが表へ出て来ていた。
どうやら飯の時間を過ぎて呼びに来たらしい。
「なんぞ遅いと思うたら、お主等は何をしとるんじゃ、もう昼食の時間じゃぞ〜」
「早く来ないと冷めてしまいますわよ〜!」
「行くか」
「うむ」
俺は立ち上がり、ヴァンと並んで歩き出す。
「平和だな」
「あぁ、我はこの光景を失わぬ為に戦っているのだ」
「んじゃ、これからも頑張らないとな」
「無論だ。問題は山積みだが、これから考えて行こう…もし行き詰まってしまっても、お前がいるしな」
「オイオイ、俺はそんな難題解ける程の天才じゃねーぞ。ま、出来る限り力にはなるけどな」
「フッ、頼んだぞクライ」
「あぁ、任せとけ」
ラシュフォンドは勝利を目前にしている。もう引き返せない。
人間はシルヴィア祭り上げ、勇者の名の下に対抗戦力を作ろうとしてる。
終わらない負のスパイラル。
問題は浮き彫りになったけど、何一つ解決策は見つかってない。これから先どうなるかも分からない。
ただ一つ、分かることがあるとするならば、このままならどう転んでも、俺にとっていい結果にはならないだろうな。
「なんの話をしてましたの?」
「ん?そういえば俺、十二歳になったっな〜、って話だよ」
「え⁉︎お兄様いつ誕生日だったのですか⁉︎」
「俺はアッチにいた頃、日時感覚疎かったから、妹が何時も教えてくれたんだ。だから正確には分からないけど、多分このくらいの時期だったと思うんだよね」
「なんじゃお主、知恵の割にそんな事が分からんかったのか」
「まぁ、色々ありまして…」
「では、こちらでの誕生日は今日にしましょう!そうすれば毎年しっかりと祝えますわ!」
「‼︎……はっ、アハハ!」
ディアナちゃんの発想がシルヴィアに似ていて笑ってしまった。
幸せだな。俺の誕生日を祝ってくれる人達がいる。対等に話せる人がいる。本当に幸せだ。
この日常を、家族と言っても過言じゃない程に俺の中で大きくなったこの人達を、絶対に失いたくない。
シルヴィアと離れ、目標を失くし、何故鍛えているのか実は疑問に思っていたけど、俺はきっと、この為に鍛えていたんだ。
もし、シルヴィアとヴァンが殺し合う事になっても、それを止められるくらい強くなろうと、その時決心した。
そんな俺の決心を知ってか知らずか、3人は俺の誕生日を盛大に祝ってくれた。生まれ変わって、一番楽しい日だっただろう。
偶然なのか、この日がシルヴィアの決めた誕生日と同じ日だったと言う事を、後に知る事になる。