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第9話 義妹

「紹介しよう、我が妻レインネルと、娘のディアナだ」


俺は現在、え?コレ意味あんの?ってくらい広くて天井の高い部屋に来ている。なんの間なんだろうね、ここ。

そして、ヴァンに嫁と娘を紹介されている訳なんだが…

重い。空気が重い。

別に葬儀とか気不味いとかそんなんじゃない。途轍もない圧迫感が放たれているんだ。


「レインネル・ラシュフォンドじゃ。夫が世話になっとるのぅ、礼を言うぞ」


レインネルさんから。

レインネルさんはエルフか何かなのだろう、腰まである長い銀髪から覗く耳は長く尖っている。身長160後半、肌は白人もビックリする程のキレイな白で、目は緑、抜群のスタイル、それを見せつけるような赤いドレスに身を包んだ絶世の美女だ。

この人から放たれるプレッシャーがとにかく凄い。いや、敵意がない事は分かるんだけど、存在感自体が凄い。王妃なんてレベルじゃない、さながら女帝、途轍もないカリスマ性をビシバシと感じる。

だらしない顔で娘の愛くるしさを語ってくるヴァンとは大違いだ。


「ほれ、ディアナも挨拶せんか」

「は、はい。ディアナ・ラシュフォンド…ですわ」


その娘、ディアナちゃんはレインネルさんの後ろに隠れていた。

長い銀髪、赤眼、グレーの肌、長い耳。両親譲りの整った顔をした可愛らしい少女だ。


「クライです。どうぞよろしくお願いします」

「く、クライが敬語だとッ⁉︎」


うん、ヴァンには最初からタメ口だったからね。ちゃんと敬語も出来るのよ俺。


「確かに利口な子供よのぉ。完璧ではないにせよ、礼儀作法を心得ておるわ」

「ありがとうございます」

「畏まらんでよい。全くおかしなヤツじゃな、この国の王には素でありながら、その妻にはへりくだるとは。夫と同じように接してみぃ」


いや、そう言われても……ねぇ?ヴァンは友達だけど、その奥さんになったら別の話じゃね?と言うか無理、この人にタメ語は無理、そんな度胸ありまへん。ヴァンもいつだかレインネルさん怖い的な話してたもんね、実質ラシュフォンド最強じゃね?そんなお方にタメ語なんて殺されますわ。


「ぜ、善処します…」

「カッカッカッ!善処か!なんぞ面白い子よのぉ」

「我は?我は?」

「いや、お前にはタメ語でいいやん」

「……むぅ」


なんでちょっとショック受けてんの?今更敬語使い出しても気持ち悪いだけだよ絶対。


「あ、貴方は人間…なのですか?」

「え?」


人見知りをしていると思ったディアナちゃんから声をかけられた。なんだろうか?


「に、人間は恐ろしい人種だと聞きましたわ……あ、貴方も恐ろしい人なんですの?」


あぁなるほど、人見知りしてたんじゃなくて怖がってたのか。そりゃそうだ、俺はこの子にとって戦争中の対敵の種族、多くの同族を殺した人間だ。怖くて当然、そう躾けられて当然だよね。

じゃあ、なんて答える?『怖くないよ』とは言えないよな、変な認識持たれたら後が危険だ。なら逆に怖がらせるか?ヴァンに〆られそうだからやめよう。


「あぁ、俺は人間だよ。でも、その前にクライって言う一個人かな?怖いかどうかを決めるのはディアナちゃん次第だね」


我ながら意地悪な回答である。そして痛い。恥ずかしい。

アレ?でもなんだろうこの言葉にできない高揚感は…あぁ、そうか、コレが【厨二病】と言うヤツなんだな?どうやら俺は目覚め…

いや元からか。

フツーの人間なら異世界来て修行しようとか強くなろうとか思わないもんね。多分、もっと雑学的な事で名を馳せるだろうさ。


「わたくしが決める…ですか?」

「そそ、因みにお前のお父さんは害なしと判断したみたいだよ。な?」

「うむ、クライは悪人ではないぞ、まぁおかしなところは多いがな」

「なんだって?」

「普通、捕虜になってやる事が修行か?」

「その捕虜に単身聞き込みに来るお前も大概だけどね」

「カッカッカッ!どっちもどっちと言うことじゃろ」


類友‼︎


「わたくしが決める…でも、どうやって…」


おっと、おいてけぼりにしかけてしまった。しかしどうやって、か…う〜ん。


「普通に遊んだりしてればいいんじゃないか?あ、そう言う事してて大丈夫?」

「習い事をしてるからの、それ以外の時間ならば問題なかろう」

「だってさ」

「因みに今日は休みだ」

「なら早速遊ぼうか、何して遊ぶ?」


子供の相手は割と得意だ、今は自分も子供だけどな。ただ、前世で近所は男の子ばっかだったからな、シルヴィアは結構野生児だったし、おままごととか言われたら結構キツイかもしれん……が、言い出しっぺは俺だ、頑張ろう。


「では…お話しながらお茶などいかがですか?」


わぁ、この子めっちゃ優雅。




それから俺はディアナちゃんと遊んだり(ほぼ茶会かダンス)、特訓したり、ヴァンと雑談したり、体鍛えたり、王宮内の人達と交流を深めたり、修行したりして過ごした。

ディアナちゃんとはお茶会で友好を深め、大分仲良くなったと思う。因みにかなりの英才教育を受けているらしく、このあいたボードゲームをしたら惨敗した。

レインネルさんはなんだか忙しいらしく、あまり顔を合わせていない。一度何をしてるのか聞いてみたところ、社交界の様な事を永遠とこなしているらしい。心底面倒くさそうだった。

王宮内の人達は、ヴァンがいった通り、俺に何かしようとする事はなかった。それどころか、凄まじい順応力で自然に接してくれるから逆に俺がビビった。

ヴァンはいつも通りである。


「ふーっ…」


太めの枝を削って作った木刀を振り終え、中庭の真ん中で一息つく。

見本も師もいない、まだまだ練度は低いかな?


「お疲れ様ですわ。お兄様はい、タオル」

「ん?あぁ、ありがとう」


気付けばディアナちゃんが横からタオルを差し出していた。

なんかアニメとかだと気配で『ハッ‼︎』とかやってるけど、その内できる様になんのかね?

え?お兄様って何って?

うん、なんかこう呼ばれてる。兄弟が憧れだったらしいよ。俺ももう一人妹が出来たみたいで嬉しい。シルヴィアは『お兄ちゃん』だったからなんだか新鮮だ。


「お兄様は何か剣術でもならっていらしたんですの?」

「え?習ってないけど〜、なんで?」

「いえ、キレがあって、とても素人には見えなかったものですから。習い事もしていないのにその腕前、きっとお兄様には才能があるんですわ!」

「大袈裟だよ」


しかし、少しは様になって来たって事かな?一歩前進だ。この調子で精進精進!

と言う事で屈伸だ。


「何をしてますの?」

「走る前の運動」

「へ?わたくしが稽古をしている間にも、特訓をされていたのですよね?」

「うん。してたよ」

「ま、まだやりますの?よく飽きませんこと…」

「飽きないっつーか……習慣かな?じゃ、行ってくるよ直ぐ終わるから待ってて」


それだけ言って走り出す。

我ながら異常なスピードだと思う、ディアナちゃんが瞬く間に小さくなって行くよ。

でも俺、気付いたんだよね。全然筋肉ついてねぇや。

いや、11歳でバキバキになってたらなんかの病気だろうけど、腹筋が浮き出るどころか触ってみてもプニプニしてる。

コレで百メートル五秒とかどっから推進力湧いてきてるのかマジで分からん。割とガチで考えて悟り開きかけたよ、うん。

まぁ、とにかく、筋肉が増幅している気はしない。それが栄養バランスの問題なのか体質なのか、それともこの世界の所業なのかは知らないけど、この世界にもムッキムキの戦士ってのはいる。王宮内の騎士や、あの看守だってかなりの体躯してたしね。

なんか『筋肉ダルマ=遅い』ってイメージが強いけど、アレは嘘だ。人間の体を支えてるのが筋肉なんだから、それが多ければ余力も大きいに決まってる。瞬発力も高いし、動きも速い。決して常人が対応出来るものじゃないんだよ。

そんな相手が出てきた時、俺は勝てるのか?

無理だろう。 碌な抵抗すらできずに潰されちゃうだろうなぁ。

ならどうする?

そこで俺が思いついた対策は、実に簡単且つつまらない答え、スピードである。

確かに筋肉は多い方が都合がいいだろうけど、陸上選手はボディービルダーみたいなのばっかか?と聞かれれば答えはNOだろう。

”その事の為”に作られた体って言うのは”その事の為”なら何より強い。必要な筋肉も、動作も、コツだってやる事一つ違うだけでも全く別なんだから当然だ。

だから筋肉の付き難い俺が目指すのは、技術力の高いスピードタイプだ。攻撃を捉える動体視力、瞬時に行動に移せる判断力、力差を覆す技量、何者にも負けない持続力、相手を翻弄するフットワーク。そういったもの全てひっくるめてのスピードタイプだ。

欲しいものは多い、少しづつ手に入れよう、今は足腰を鍛えよう。

まぁ、なんて事考えてる内に終了するんだが。


「はいお終い」

「本当に直ぐですわね…」


そうなのか?主観だと良く分からんけども、もしかしてスピード上がってんのかな?

ま、いいか。とりあえず物足りなくなって来たから明日からもっと、ぶっ倒れるまで走ろうっと。


「では、この間のボードゲームの続きをいたしましょう!」

「げっ!マジかよ…」

「大丈夫ですわ、手加減は心得ましたから。さ、行きましょう」


前世と合わせ二十九歳、頭脳戦で九歳に手加減される…か。

泣けるぜ!


「…」

「…」

「……」

「……」

「………」

「………」


ん?何?何この状況?いつもはお喋りなディアナちゃんが静かだ、しかも何故かチラ見して来る。俺なんかしたかな?


「あ、あの、お兄様?」


と思ったら話しかけて来た、とりあえず何かした心当たりはない。


「何故つま先立ちしていますの?」


現在進行形の原因だった。


「え〜……修行?」

「どんな効果が…」

「バランス感覚とか、脹脛とか、瞬発力とか」

「はぁ…お兄様は体を鍛える事しか脳にないんですわね」


アレ?言われてみれば最近鍛える事しか考えてない気が……俺なんか脳筋になってない?え?元から?

ハッハッハッ!そうかぁ!

どうしてこうなった……


「もぅ、ちょっとはわたくしの事もかまってくださいまし!」

「ごめんごめん。別に無関心なわけじゃないってば」


ディアナちゃんは意外と甘えん坊だ。まぁ、両親揃って仕事で忙しいと、遊ぶ機会も減ってこうなるのは仕方がないか。

普段は使用人とかが相手してるみたいだけど、遠慮があるもんね。

因みに俺は遠慮がない!

だからこの後のボードゲームも遠慮せず本気でいかせてもらうぜ!


「詰みですわ」

「遠慮して……」


通算五十七連敗。

強いよ……手加減って話はなんだったの…


「してますわよ?何時もより時間が長引いたではありませんか」

「あ、手加減ってギリギリ負けない様なヤツなの?」


つまり俺が『あ!勝てそう』と、思っても、それすらディアナちゃんの掌の上と言う事か。

上げて落とす、なんと言う鬼畜!ディアナちゃん、恐ろしい子ッ!

まぁ、本人に悪気はさっぱり無いんだろうけども。

などと考えていると、唐突に部屋の扉が開かれる。


「クライ、おるか?」


顔をのぞかせたのは紅い瞳の黒一色、ヴァンである。


「ん?どったの?」

「なに、お前、前々から武器が欲しいと言っていただろう?先程まで腕利きの鍛冶屋が謁見に来ていてな、我が注文した品を作って見せると言うのだ。クライの言う”カタナ”とやらを作るには丁度いい機会だと思わんか?」

「マジで⁉︎え?でもいいのそれ⁉︎」

「無論だ。我には国宝の魔剣がある。無駄に飾り武器など作るのならば、お前が役立ててくれた方がいいだろう」

「ヤッターー‼︎」

「よかったですわねお兄様」


武器が手に入る!しかも日本人だって殆ど触る機会のない”刀”だ!

いやよかった!日本刀を想定して鍛錬してたから、もし両刃の直刀とかしか持てなかったらってチョット不安だったんだよね!

コレで俺の目標にまた一歩近づける!

……アレ?…シルヴィアのいない今、俺の目標って、なんだっけ…?

まぁ、いいか。今は武器が手に入る事を喜ぼう。


「では、製造方を教えてくれんか?」

「…え?」


知らねぇよそんなもん……

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