第1話 船上の女
色んな世界観をいっぱいに詰め込んだポケットの中身を、空いっぱいに投げ出した作品です。
ドキドキ、ワクワク、ヒヤヒヤと心踊る作品になってます。
木々が揺れる。地面が揺れる。
それと同時にオヨコも倒れた。
オレンジの光が、回っている。微かに話し声が聞こえる。
身体が揺れているのか。頭の中は回っている。
オヨコは小さく目を開けた。
目の前には人がいた。女のようだ。
頬がこけ、顔は長く目の下にはクマが張っている。
かなり貧相な、顔立ちの女だ。
オヨコは起き上がろうとした。
だが起き上がれない。
身体が思うように、動かないからだ。
「まぁ、その身体じゃ、起き上がるのも大変ね」
女は笑った。
女は自分の身体の倍はある、オヨコの身体を見て言った。
ーー私に半分その肉を、分けてくれると良いのにーー
そうでも言いたそうに。
やっとの思いでベットから起き上がったオヨコは、窓辺からオレンジの光が差すのを見た。
オヨコは慌てて窓辺へ向かった。
そして窓の外を見た。
「こ、ここは……」
オヨコは驚いている。
「あんた、どう見ても他所ものね?
ここは船の上。そしてこの街は、サムア・ガン、港町よ」
女は巻きタバコを、ふかしながらつぶやいた。
「ふ、船の上?今あたし、船の上にいるの?」
オヨコはさらに驚いたように、窓に張り付くと空を眺めた。
そして船の中の、あちらこちらの窓辺に走り寄ると、同じように窓の外を見上げた。
「やっぱり……」
そう言うと、ガクンと肩を落とした。
「フフ」
女が笑った。
「あんたも探しに来たんだ?」
女は含み笑いした。
「え?」
「よくもまぁ、辿り着いたもんさ」
女は笑っている。
「え、あのぉ……?」
「まぁ、待ってな!」
女はそう言うと、部屋の奥にある船の操縦席にある舵をとった。
そして服の袖をまくり上げると、勢いよく大きなハンドルを右にきった。
「きやっーー!」
オヨコは思いきり、床に転がった。
「危ないから、座ってな!」
女は力一杯ハンドルを、右や左にきり回すとスピードを上げて船を
前進させた。
あまりのきり回しに、身体の大きなオヨコも、右や左に転げ回った。
「ハハハーもう少しの辛抱だ!あれ見りゃ、あんたの身体の具合も吹っ飛んじゃうさ!」
そう言い女は、大声で笑った。
痩せて今にも折れてしまいそうな貧弱そうな女だが、女の顔の3倍はありそうな大きなハンドルを舵とる細い腕には、立派な筋肉が盛り上がっている。
身体に似合わず、とてもパワフルな女である。
オヨコはそんな女に、驚きを隠せずにいた。
「あんた、何度目でここへ?」
女は持っていたタバコを、船の甲板めがけて投げつけた。
「な、何度目って?」
「ここへたどり着いた経路だよ?」
「そ、それは……確か家を出て、ただひたすらに思いつく方へと……」
「は?家ってあんたの?」
女は目をひんむいた。
「そ、そうだけど?」
「一度で?」
「一度って……?」
「だからお前さんの家を出て、七億丁目先に歩いてったら着いたぁ?」
「は、はい。そのとおりで……」
女は黙った。そして一度目を閉じるとすぐに大きく開けた。
「すっ、すっげーなっ!」
何故だかわからないが、女は驚いている。
そんな女の顔に、今度はオヨコが大きく目を開いた。
「すっ、すっげーよあんた!一度でこの街にたどり着くなんて、本当に奇跡だよ?あったもんじゃねーよ!」
何故か女は興奮している。
「はぁ……」
オヨコは頭をかいた。
「みんな命がけでくんだよ?七億丁目歩いた先は、てんで意味のねぇー街ばっかだったりしてさ。
何度も何度も出直しするんだよ?
あの月見てーばっかりにな!」
女は興奮して、顔が真っ赤に火照っている。
「でも……無ければ意味ないよ…」
「あん?」
女はまたタバコに火をつけた。
「たどり着いても、ダイアモンドムーン見れなければ意味ないよ…」
オヨコは窓の外を眺めては、つぶやくと同時に一気にしょぼけた。
「ハッハー」
女は笑った。女の口からは、タバコの煙が大きな円を描いた。そして細く長い、女の顔を覆い隠した。
その時だ!船が大きく揺れ動くと同時に停まった。
オヨコは弾みで、窓に身体をぶつけた。それと同時に、壁に掛けてある大きなポスターのピンが外れてオヨコの顔に覆い被さった。
オヨコは、ポスターを手に取った。
目深いハットを被り、いかつい顔をしたブルドックが銃を抱えているポスターである。
太く真っ赤な文字で、『WANTED!』と書いてあり、その横には、『海賊撲滅キャンペーン!』とも書いてある。
オヨコは不思議な顔で、ポスターを見ていた。
「気おつけな?この港は海賊が多いからさ!」
女はオヨコに告げた。
「海賊⁉︎」
「ああ。海賊ワセホンさ」
「ワセホン?」
「ああ。真っ赤なイカリマークが目印だ。だが奴らは普通には、姿を現さない。住民のふりして、この街に住んでるのさ。
嫌……これはあたいが勝手に勘ぐってるだけだけどね」
「どうして住民のふりなんて?」
「狙ってんのさ、人質を」
「人質⁈」
「ああ。金になりそうな奴をだよ」
「この街では、かなりの人々が奴らの犠牲になってるんだ。
街のポリスも大変さ。奴らの方が一枚も二枚も上手だよ。
こんなポスターなんて作ってもさ、今まで一人たりとも、奴らの仲間を捕まえることさえもできないんだからね!」
「海賊撲滅キャンペーン!……か」
オヨコはつぶやいた。
「この街に住んでる住民は、みな金持ちばかりだからね。そりゃぁ、奴らにとっては美味しいカモばかりだよ。
あ〜んな高価な家に住んでやがんだからね?」
女はそう言い、窓の外を指差した。
オヨコは女の指す方へと、目を向けた。
「なな……何これ⁈」
オヨコは目を疑った。
オヨコの見つめた先には、海面いっぱいに広がる宝石の粒のような光の数々と、その海面を覆うように聳え立つきらびやかな高層船であった。
目を奪う眩しいほどのライトアップに、見るからに豪華な外壁をした船である。
豪華客船を、遥かに上回る高層船であった。
「す、凄い……!」
オヨコは瞼を何度も動かした。
そんなオヨコを見て女は、ニヤリと笑った。
「それで驚いててどうする?お前さんの待ち望んでたものは、これじゃぁないのかい?」
そう言い女は、手に持っていた女の背丈より長い棒を握りしめると、船の天井にある丸い蓋の取っ手をめがけて、引っかけた。
そしてゆっくりと、蓋を開けた。
小さな丸い蓋が、少しづつ開いていく。
オヨコはあまりの眩しさに、一瞬目を閉じた。
その時だ!
オヨコの身体に、音を立てて電流が走った。
オヨコは恐る恐る目を開けた。
誰もが抱いている大量のネガティヴモード。
少しのきっかけでモードは変えられる。
そんな毎日の日常を変えられるきっかけになればいい。




