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浮遊図書館の魔王様  作者: るーるー
魔王なります 編
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第四話 もらいました

 校長が倒れたことによりグダグダになった卒業式からぬけだしたわたしは朝ファス監察官に引きずられた街道を歩く。


「ご主人、これからどうするんです? 一応、卒業扱いですから寮をあと一週間ででなくちゃいけませんよ?」


 いつの間にかわたしの横をアトラがふわふわと浮きながら問いかけてくる。


「そうはいってもね。部屋の本とかおける部屋を借りないといけないしな〜」


 自分で言うのもなんだけどあの部屋の本の量は半端じゃない。あれだけの量を移動さすのも手間だがそれを収納できだけの家を探すのも大変そうだ。


「まぁ、なんとかなるでしょ?」

「ご主人、明日からの仕事とかどうするの? 何処にも就職とか決めてないんじゃないの?」


 痛いところを突いてくる。


「まぁ、魔法使いだし、冒険者ギルドにでも行けば仕事はあるんじゃないかな? 」


 どの街にも冒険者ギルドは存在する。依頼の内容は待ちそれぞれだけど食べるのには困らないだろう。


「そんなこといっても冒険者っていつまでも続けられるような職じゃないでしょ? しっかりとした職を持ってた方が……」

「アトラ、キミは年々に母上みたいな事を言ってくるネェ」


 くどくど言ってくるとことかは本当にそっくりだよ。


「それはご主人がだらしないのもあるけど」


 おっしゃる通りです。そう苦笑しながらわたしは目当ての店の前に立つ。


『ファブニー古書店』と書かれた看板。いかにも古臭そうな店である。


「なにはともあれ本を見てから考えよう」

「いや、これ以上本を増やすと引越しの時に大変なんじゃ……」


 アトラの言葉を無視し、わたしは扉をくぐり、ファブニー古書店の中に入った。扉に付けられた鈴がリリーンと軽やかな音を鳴らす。

 中に入ると書物の匂いが充満していた。まあ、厳密にはインクとかカビとか埃とかの匂いなんだろうけど。

 店の中にはズラリと本棚が並び、綺麗に本が収まっている。


「相変わらず読書欲を誘われる店だよね」

「そうなんですか? 人間じゃないからわかりませんが」


 まぁ、キミは本だしね、とわたしは笑う。


「いらっしゃいませ。あら、レクレちゃん」


 店の奥からくすんだ銀髪の女性がニコニコ笑いながらやってきた。


「こんにちは、リーニャさん」

「はい、レクレちゃん、こんにちは。アトラちゃんもこんにちは」

「ご無沙汰してます。リーニャ様」


 にこやかに挨拶をしてくるリーニャにわたしとアトラも挨拶を返す。


「相変わらずレクレちゃんはこの店を探すのが上手ね〜 魔法でも使ってるの?」

「いえ、歩いてると普通に見つかりますよ?」


 ここ、ファブニー古書店は普通の本屋ではない。

 店を出て振り返ると店が消えるという謎の古書店なのだ。

 行きたくても行けない。特に用事がない時にたまたま行ける魔法の本屋。そんな風に噂されているのだ。


「そんなものかしら? でも、レクレちゃん、今日は魔法学園は卒業式じゃなかったかしら?」


 首を傾げ頭に疑問符を浮かべているようだ。


「ええ、卒業式の途中で校長が倒れたので抜けてきちゃいました」

「はは、そうか。ユリウス倒れたんですか」

「ご主人のせいじゃないですか」


 おそらくユリウスとはハゲの名前かな?

 とても楽しそうにリーニャは笑う。


「リーニャさんはハゲと知り合いですか? 」

「ええ、彼が学生の時から知ってますよ」


 ニッコリと笑うリーニャ。そして尖った耳に付けられた銀耳飾りが揺れる。

 この世界には亜人などいろいろな種族が存在するがわたしの目の前にいるリーニャは森と共に生きる種族エルフだ。

 エルフへ見た目で年齢がわからないというけど、本当にリーニャは年齢がわからない。見た目だけなら十八歳くらいでも通るだろう。


「相変わらず素敵な耳ですね。甘噛みしてもいいですか?」

「い、痛いのは嫌で」


 こちらは冗談で言ってるのに本気で怖がって後ろに下がり自分の耳を隠すリーニャ。

 なんてかわいい生き物なんでしょう。


「冗談ですよ」


 にへらっとわたしは笑う。


「ああ、冗談でしたか」


 先ほどまでの怖がって顔が一瞬で笑顔に変わる。切り替えがはやい。


「それで、レクレちゃん、今日はまたなにか本を探しに来たんですか?」

「まあね。ここ、魔王についての本ってある?」

「ありますけど、どうしてまた魔王の本をお探しで?」

「ちょっとね、魔王になろうかと思って」

「なるほど〜」


 ポンと手を叩きリーニャら納得がいったような表情を浮かべる。

 え、納得しちゃうんだ。


「ちなみにレクレちゃんが目指す魔王はどんな魔王ですか?」

「どんなってどういうこと?」

「魔王にも種類があります。魔族の王である魔王、魔法使いの王である魔王、人々を圧政で苦しめる者もまた魔王とよばれるものです」


 つまり、魔王になってどうしたいかということか。


「そりゃ、好きな本集めるよ。魔王だし、好きに生きたいし」

「ふむふむ」


 リーニャは頷くと本棚から一冊の本を取り出した。

 古そうに見えるが真白な背表紙。なんらかな魔力を帯びてるのかな?

 隣に浮かんでいるアトラがブルりと震える。


「ご主人、あれは僕と同じ魔導書だ」


 魔導書。

 魔法使い、もしくは魔族が作った魔法の秘伝が書かれた書物。中には魔族、魔物、酷いものなら魔王が封じられているものまである。『魔道書一つで国が滅びる』なんていわれるほどやばいものなのだ。


「リーニャさん、魔道書なんて持ってたんだ。今まで魔法書しか見せてくれなかったから持ってないと思ってました」


 魔法書はそこそこの魔法が記されている本だ。


「魔法書も十分高価なんですよ? まぁ、魔法書と魔道書の境界は曖昧なんですけど」


 相変わらず笑いながら話すな〜この人。

 でも、曖昧なんだ、境界線。


「ちなみにこの魔道書、名前がないので名無しの本って私は呼んでます」

「ん? 名前がないってどういうこと?」

「名前がわからないんですよ。この本」


 名前がわからない魔道書なんてあるんだ。


「名前がわからない、もしくは知ることのできない魔力を持った本は必然的に魔道書扱いになります」


 ああ、そういえばそんなこと学校で言ってた気がする。

 授業寝てたからよく覚えてないけど。


「ちなみに名前のわからない魔道書は禁書指定にされることが多いので貴重なんですよ?」


 え、それってやばいやつなんじゃないの?読みたいけど危険なんでしょ?

 わたしは魔道書を持っているリーニャさんから少し距離をとった。


「といってもこれは禁書指定も受けてないただの名無しの本よ」

「禁書指定を受けてない?」


 さっき名前がない魔力の本は禁書していにされるって言ってなかったっけ。


「これはですね〜世にも珍しい自然発生した魔道書なんですよ〜」


 魔道書が自然発生!

 そんなことがありえるんですか。


「学園では聞いたこともない話です」


 わたしは目を輝せ、リーニャの持つ魔道書に視線を向ける。欲しい。

 そんなわたしの視線に気付いたのかなぜか満足そうな笑みを浮かべるリーニャ。


「私には内容はわからないけど、この本ほしい?」

「ほしい!」

「え⁉︎ ご主人やめときましょうよ! なにがおこるかわからないんですよ?」


 すぐに飛びついたわたしをアトラは止める。確かに魔導書はリスクのあるものだけど。

 本好きとしてそんなに珍しいものなら是非読みたい。


「ちなみにこの名無しの本ですが私の鑑定魔法で軽くしか調べれなかったんですが魔王についての書物ですね」

「魔王について!?」


 いまもっとも知りたい読みたいむさぼりたいのキーワードである魔王!

 ぜひともほしい一品、いや、本ですな。


「譲ってあげてもいいですよ?」

「本当⁉︎」

「ええ、私も本は好きですが読めない本には興味はないですから」


 そう言いながら真っ白な本をわたしに渡してくる。


「読めないってどういうこと?」

「魔導書の中には読むための条件が指定されてるのもあるんです。その魔導書を読む条件がどうやらわたしにはないようでしたのでね」


 資格がないと読めないわけか。

 でも、ほしいしなぁ。

 わたしは受け取った白い本をマジマジと眺める。


「売ったらそれなりの値段なんじゃないの?」

「相場はしりませんが、まぁ、金貨百枚はするんじゃないんですか?」


 金貨一枚で一週間は生活できるんですけど……

 予想より高い代物で持ってるわたしの手が震える。


「別に売ったりしてもいいですけど、魔導書は貴重ですよ? それに魔導の知識がある人のとこに持っていかないと大した金額にはならないですし」

「う、うらないよ!」


 確かに一瞬、これ売って本いっぱい買おうかなと考えたけどね。


「じゃぁ、本当に貰っちゃっていいの?」

「ええ、本とは正統な持ち主の所にあったほうが本も持ち主も幸せでしょうから」


 微笑みながらそんなことを言われた。


「じゃあ、ありがたく貰っとくよ」

「はい、大事にしてくださいね」


 わたしは真っ白な魔導書を脇に抱えると店から出るため扉を開いた。

 扉をくぐり外に出、扉が閉まる寸前。


「刺激的な日々があなたにあるように祈ってます」


 そんな声が聞こえた気がした。

 振り返ると先ほどまで存在したファブニー古書店は影も形も消えていた。ふぁんたじー

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