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浮遊図書館の魔王様  作者: るーるー
国獲り編
30/135

第三十話 手合わせしました

「むぅ〜もう一回! もう一回!」


 鎖を解かれたアルがぴょんぴょん跳ねながら懇願してくる。


「やだよ。疲れるし」


 正直な話、次にやったら確実に負ける自信がわたしにはある。

 魔法使いであるわたしの得意距離は遠距離である。それとは真逆にアルは近距離だ。常識的に考えれば離れて戦えば普通なら魔法使いが勝つ。

 だが、さっきの闘いで確信した。魔法使いは一人では勝てないと。

 アルのように一瞬で距離を詰めてくる敵は魔法使いには天敵と呼べる物だろう。


「最後のアルの攻撃を無効化したのはなんだ?」


 ふくれっ面のアルの頭を撫でながらファスは興味深そうに聞いてきた。


「あれは結界という魔法です」

「結界? 王都などに張ってあるのと同じやつか?」

「ちょっと違います」


 結界は例えるなら魔力の壁だ。通したいもの通したくない物を選ぶことができるなかなかに便利な魔法でもある。王都に張ってある結界は魔族のみを通さないと聞くし。

 しかし、結界という魔法は燃費が悪く起動するだけでバカみたいに魔力を喰らい続けるため戦争時にしか使われないようなものなのだ。

 まぁ、わたしは魔力総量が他とは比べ物にならないくらいあるから使えるんだけどね。圧縮した魔力で作った結界を常時纏っておけばそうそう死なないだろうし。


「つくづく規格外だな」

「レクレさますごい!」


 呆れたような表情をするファス。理解はしてないけどなにか凄いことをしたと思っているマーテの羨望の眼差し。

 ふっふっふ、お姉ちゃんはいい気分です。


「何を騒いでいるのです?」


 声をかけられた方を見るとレキが図書館から出て来るところだった。


「レクレ様、部屋の掃除の方は終わりました」

「ん、ありがと」


 レキが軽く礼をした時に腰に下げてある剣に目を向ける。綺麗な装飾のしてある剣だけど貴族の使っているような見栄え重視のものではなく実戦用に作られたような物に見える。


「この剣ですか?」


 わたしの視線に気付いたのかレキは腰の剣を外し見えるような掲げる。

 なんか微かに魔力を感じるんだけど。


「この剣は一族に代々伝わる剣です。名剣らしいですが名はわかりませんが」

「名剣か〜」


 魔剣じゃないのになんでだろ?

 不思議そうに剣を見つめるがわからん。


「それより、レクレ様たちはなにをなされていたので?」

「えっとね。アルと練習してたらファスが指導してくれてアルがレクレ様に負けたの」


 うん、マーテ。その説明じゃわからないかな。


「なるほど」


 え、わかったの? 今の説明で?


「つまりアルは負けたのでしょう? 鍛錬が足りませんね」


 レキのその言葉にアルがビクっと肩を震わす。

 なんかレキの顔に薄っすらと笑みが浮かんでる気がするなぁ。


「とりあえずは型の通しを一日やりましょうか」


 アルが絶望に満ちた表情で固まる。

 見ていて可哀想になる。


「レキねぇさまとレクレさまはどっちが強いの?」

「そりゃ、レキだよ」

「それはレクレ様ですよ」


 二人同時に相手を挙げた。いや、アルより強いんだったらわたしが勝てるわけないじゃないか。


「わたしもレクレだと思うね」


 ファスまで。そんなに褒めてもなにも出ないよ?

 過大評価でも嬉しいけどね。


「いや、純粋たる事実だよ。アルを捕まえる縛鎖の魔法ではなく広範囲の魔法を使ってたらアルはあんなによけられなかっただろう」

「むぅ」


 思い出したのかアルは頬を膨らませながらも頷いた。

 でも、そんなことしたらアルに怪我さしちゃうじゃないか。


「そこが君のいいところでもあり甘さでもあるんだよ。レクレ」

「可愛いものは壊すものじゃなく愛でるものだよ」


 可愛いものを壊すなんて遺産を壊すようなものだからね。あと本も大事に扱わないと。


「君は身内にはかなり甘いよ。それ以外には関心がないけどね」


 そうなのかなぁ。自覚は全くないけど。


「レクレ様、一度手合わせ願えますか?」


 少しウキウキとした声でレキが言ってくる。闘いが大好きな彼女もこの前戦えなかったことで相当フラストレーションが溜まっているのだろう。


「え〜しんどいじゃ……」


 そこまで言いかけ気づく。マーテとアルがまたキラキラしたような目でこちらを見ていることに。

 なんでそんなに期待してるの⁉︎

 わたしは今、戦士系に喧嘩を売るのをやめようと思ったばかりなのに二人はわたしが楽に勝てると本当に思ってるわけ?

 でもあのキラキラした目は断れない。


「わかったよ。だったら倒れたほうが負けでいい? 制限時間は五分ね」

「はい、結構です。ところでレクレ様は防御魔法は使っていますか?」

「一応結界張ってるよ。レキは?」

「わたしは魔法が使えませんので。それにしても結界ですか」


 そう言った時にレキが薄っすらと笑ったような気がした。そして「斬りがいがあります」と言ったのは嘘だと信じたい。

 レキがコツコツと歩き距離をとる。そして振り返ると同時に腰の剣を鞘から抜き放つ。その一連の動作だけでもかなり洗練されかつ自然に行ってる。つまり


(自然な動作になるくらい抜いてるってことだよね)


 背中に嫌な汗が流れる。

 普通に考えるのならばレキはアルよりはるかに強いはず。だってアルびびってたし。

 だったら一番速い魔法で攻撃をしかけるのが最適のはず。


「じゃ、始め!」


 ファスの開始の言葉とともにわたしは風の魔法を圧縮魔力でぶちかます。圧縮された風は荒れ狂いそれを受けたレキは必ず倒れるであろうという確信があった。


 ヒュン!


「え?」


 魔法を放つと同時に何かが振るわれるような音が響き、そして放ったはずの風魔法が消失する。

 間抜けな声を出したわたしの前方には剣を振るった状態のレキが立っている。

 まさか、


「魔法を斬った⁉︎」

「いえ、魔法の核を斬っただけですよ」


 魔法に核なんてあるのか。後で調べよう。

 ならば雷ならばとレキの頭上に雷なりの魔法を放つ。しかし、レキは全く慌てず剣を頭上に向かい振るい剣に吸収さすとすかさず振り下ろし地面に刀身を突き刺し雷を大地にがした。

 恐るべき早業、そして恐るべき剣技だ。


「なるほど、普通の魔法使いの使う魔法よりはるかに強力ですね。レクレ様」

「思うんだけどね。君が魔王になればいいんじゃないかな? 剣の魔王とかどう?」

「お褒めいただきありがとうございます。ですがわたしには魔王は無理ですよ」


 にこりと笑みを浮かべながら一瞬で目の前に現れる。


 ヒュン! ガキィィィィン!

 剣の振られる音、そして金属がぶつかり合うような音が響き渡る。


「これは思ったよりも硬いですね。多少食い込むくらいにはなるかと思ったんですが」


 目の前にはおそらく横薙ぎに払おうとしただろう剣が壁に当たったかのように静止していた。結界がなければ確実に即死だ。


「こわ!」


 さっきのレキの発言と合わせて考えたらわたし、死んでもおかしくなかったんじゃないかな。


「では行きますよ」


 告げると同時に剣を振るう音と結界にぶつかる音がひたすらに響き続ける。

 これ、知ってる! 東洋の本で読んだサンドバックってやつだ!

 目の前を見ててもレキの手が霞むだけでなにをしてるか全くわからない。ただただ音がひっきりなしに鳴り続けるだけだ。

 結界は硬い。でもここまでなにされてるかわからない攻撃が続くと不安になってくる。それにいい加減音がなり過ぎて耳が痛くなってきた。


「……わたしの剣撃ではその結界を斬るのは無理そうですね」


 唐突に斬撃音が止みレキは悔しそうな表情を浮かべる。

 ようやく諦めてくれたか。


「しかし、勝利条件は倒れること。ならばこの手が有効です」


 再びレキの手が霞み剣が振るわれたとわかるがそれだけだ。全く見えない。

 しかし、今までと違い大きな音がまったく響かない。

 レキは振るった剣を鞘にもどしスカートの裾を摘み優雅に

 礼をする。


「感謝します、レクレ様。わたしもまだまだ腕を磨く必要があるということを再認識いたしました」


 なんだかよくわからないけど終わったみたいだ。


「じゃ、勝負は引き分けかな?」


 どちらも倒せなかったし、というかレキを倒せるイメージが微塵もわかないよ。


「いえ、レクレ様。わたしの勝ちでございます」


 そう微笑んだレキが唐突にぶれる。というかレキがどんどん上になっていってる⁉︎

 いや、ちがう。これは……


「わたしが下がってる⁉︎」


 レキはさっき剣を振るった。でも、結界に対しての攻撃じゃなかった。でも確かに振り抜いたような感じだった。


「まさか、地面を斬ったの⁉︎」

「その通りです。結界は斬れませんでしたが地面は斬れることを確認しましたので」


 えっへんと胸を張ってレキが話している間にも目の前には土の壁が現れてるし、わたしの立ってる側だけが下に落ちて行ってる感じだ。


「現状の私の技量では結界を斬るのは無理です。ですが勝敗条件は倒すこと」


 まずい、本格的にやばい。わたしの立ってる側がどんどん沈んで行くし、さっきから固定化の魔法も使ってるけど質量が違いすぎてまったく効果が見られない。


「故に私は高さを利用して倒すことにいたしました」


 レキが極上の笑みを浮かべたしゅんかん、浮遊大地から、わたしが立っていた大地がはなれた。それと時を同じくして凄まじい勢いでわたしは大地ごと落下し始めた。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 高! 高いぃぃぃぃぃ!

 これは倒れるとかそんなレベルじゃなくて死ぬレベル!

 体重軽減魔法をかけようにもこんなまともじゃない状況で精神集中できるわけがない。


「どうしろとぉぉぉぉぉぉ!」


 絶叫を続けたわたしは轟々と響く風の音を聞きながら不条理な現実から目を逸らすべくあっさりと意識を手放した。






「お姉ちゃんの勝ちですね!」


 語尾に音符が付きそうな位に上機嫌にレキは振り返りアル、マーテ、ファスに向かいピースを繰り返す。


「ちょっとレキねぇ! やりすぎじゃないの⁉︎」


 あまりに自分の姉がいつも通りだったことに驚愕を覚えながらレキにアルが話しかける。


「勝負はどちらかが倒れるまでだったから問題ないはずよ?」

「そうは言うがやりすぎだ」


 ファスが呆れたような目でレキを見つめる。

 それを見てレキは首を傾げた。


「勝負に待ったはなしですよ?」

「だが、限度がある」

「れ、レクレ様は無事なの?」


 マーテが恐る恐るといった感じで尋ねる。


「……おそらくは無事だろう。結界が張ってあったようだしな」

「よかった」


 ホッとした表情を浮かべるマーテだったがすぐにレキを睨みつけた。


「ねえ様! レクレ様が死んだらどうするの!」

「その場合は倒れてるでしょうから私の勝よね」

「そういうことを言ってるんじゃないの!」


 マーテの剣幕にレキは少し怯えたじろぐ。


「いい? レクレ様は魔王なの。この城の主で私たちのご主人様なんだよ!」

「そ、そうね。なんだか、 マーテなんだか怖いわね」


 マーテに責められるように言われようやくレキは冷静になった。

 冷静になると一気に青ざめた表情を浮かべ、


「どうしましょう! 魔王様を地上に叩き落としちゃったわ!」

「「「今頃⁉︎」」」


 急にオロオロし始めたレキを見て三人はため息を付くのであった。

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